第一次世界大戦前後のパリで、懸命に生きる一人の女性を描いた大河小説
題名にある「魂」とは、主人公アンネットの魂の遍歴のこと。本作は第一次世界大戦前後、共産主義とファシズムが交錯する中、アンネットがパリで幾多の困難を乗り越え生きて行く姿を描き出す、全3巻に及ぶヨーロッパ版大河小説です。
裕福な家庭に生まれ育ったアンネットは、父の死後彼の手紙の整理をしていたところ、自分に母親違いの妹シルヴィがいる事実を知ります。衝撃を受け戸惑うアンネットでしたが、妹に会ってみたいという好奇心からシルヴィに会いに行くことに。
当時のフランスでは、自立した生き方を求める女性に対し大きな偏見がありました。自立した女性として存在したかったアンネットは、その時代当然とされていた結婚を拒みます。しかし恋の末一度関係を持ったことで息子マルクを授かり、そこからシングルマザーとしての新たな闘いが始まり……。
- 著者
- ロマン ロラン
- 出版日
- 1989-11-16
ロマン・ロランの最高傑作と名高い『ジャン・クリストフ』に次ぐ名作と言われる本作。様々な困難や障害にもめげず懸命に生きる主人公アンネットの姿に、深い感銘を受ける読者も多いでしょう。以下の引用では、アンネットの強く気高い精神性がとてもよく表現されています。
「魅せられたる魂の女は、熱を帯びた手でそれを振り払うが、それは次々にやって来て、最後の臨終で断ち切られる。しかし、すべてが過ぎ去り、すべてが魔術であるとしても、幻想と夢の力、不断に創造し更新する生命の躍進力は残るのである。それは彼女、アンネットの生命の源だからだ。」(『魅せられたる魂』より引用)
アンネットは、ロマン・ロランが自身の理想の女性像を形にした存在と解釈されています。個人として自由に意見を表明し生きることが難しかった当時、ロランは本作の物語そして彼女の姿に未来への希望を託したと言えるのではないでしょうか。
ロマン・ロランの平和への願いが託された、2ヶ月の切ない恋物語
舞台は第一次世界大戦下のパリ。軍隊へ召集を受けたばかりの良家の息子ピエールと、生活の糧を得るために画を描くリュースは、ドイツ軍の空爆が始まった時、パリの地下鉄で偶然出会いました。
結ばれるのは難しいと分かっていても、惹かれる気持ちを抑えられない2人。「戦争さえなかったら……」と読者の誰もが思うでしょう。この作品は恋愛小説であるとともに、ロマン・ロラン自身の強い信念を映し出した反戦小説でもあるのです。
- 著者
- ロマン ロラン
- 出版日
- 2015-12-16
半年後には戦地に出向かなければならないピエールと、軍需工場で働く母と2人で暮らしているリュース。偶然地下鉄の混み合う車内で出会った2人は、厳しい現実に対抗するように恋人同士の濃密な時間を過ごします。
その姿はまるで、現実から逃避し自分たちが望む幻想の「幸せ」を求めて生きているよう。彼らはいつまでもこの状態が続くわけではないとどこかで既に悟り、諦めているようにも見えます。
ピエールが軍隊に入るまでの6ヶ月間、初めてであり、おそらくは最後の恋になるであろう時間を健気に生きる2人の姿に、読者は感動を覚えると共に「今、生きている」ということ、そして「生きて誰かを愛せるということ」の有り難みを深く感じることでしょう。
今井正監督の日本映画『また逢う日まで』(1950年)は本作を元に作られたと言われています。作品の舞台は異なりますが、物語の筋と心揺さぶられる主人公2人の恋愛の描写、そして戦争の残酷さを伝えるメッセージ性はそのまま。本作を読んだ後、『また逢う日まで』を観て余韻に浸ってみるのも良いかもしれません。
全10巻にも及ぶ、ロマン・ロランの作品の中で最も有名な歴史大作!
本作はロランの作品の中で最も知られている、全10巻にも及ぶ超大作です。1904〜1912年にかけて発表されました。
主人公クリストフは、ドイツのライン河沿いに位置する小さな街で、宮廷音楽家の家系に生まれます。父は酒に溺れ、母は家計を支えるために女中として働きながら3人の子供を育てなければなりませんでした。
父はクリストフの音楽の才能を見抜くと、彼に厳しい特訓と練習を強います。やがてクリストフは宮廷で指揮やピアノの演奏を担当するようになり、母の代わりに家計を支える大黒柱となりますが、彼の心の中では相反する思いが葛藤していました。
名声を得るために音楽活動を薦めてくる父親や祖父に対し、貧しくても音楽というものの本質を大切にし、神と自然に繋がる生活をしてこそ人々の心に響く音楽を作れるのだと考える叔父ゴットフリート。それぞれの根本的な違いに苦しむクリストフでしたが、同時に彼を大きく成長させていきます。
やがてクリストフは真実の愛と友情を求めて出会いと別れを繰り返すようになり、また封建社会から市民社会へと移り変わるヨーロッパ史の転換期の中で揉まれ、彼の音楽はさらに深みを増していくのでした。
- 著者
- ロマン・ロラン
- 出版日
- 1986-06-16
主人公クリストフの人物像は、ロマン・ロランが心酔し最も影響を受けた人物といっても過言ではない、ベートーヴェンを参考にして生み出されたと言われています。本作は著者が『ベートーヴェンの生涯』を出した後に発表されており、前作の影響を色濃く受けていると言って良いでしょう。
本作は全10巻にわたりクリストフの人生を鮮やかに描き出し、彼の人間としての成長の様子を追います。単に彼の生涯を綴るのではなく、彼の音楽家としての人生とヨーロッパ社会の変動も並行して描いているのが特徴と言えるでしょう。
読み始めればすぐに、本作がロマン・ロランの最も優れた作品と讃えられている理由が分かってくるはず。まるで数時間に及ぶオーケストラの演奏を聴いているかのような読感と、全巻読み終えた時の達成感は、他のどの作品にも取って代わることのできない特別なものです。
読者もクリストフとともに人間として成長を遂げられる、稀有で貴重な名作です。