戦中・戦後の混沌とした社会の中で人間の内面を探求し描き続けた作家、武田泰淳。社会的であると同時に哲学的作品が多く存在し、人間の内側にある複雑で深い闇が感じられます。そんな武田泰淳の作品から代表作を4つ、ご紹介します。

しかし「狂気」の世界にいる患者たちに接するうち、やがてはその境界線がわからなくなり、「狂気」の世界へと踏み入れていくことになるのです。若い大島は自分が「正常」と「異常」のはざまにいるように感じられます。そのノートを眺めている現在の大島は精神科の患者であり、「異常」側の視点から過去を回想しているという構成になっています。
- 著者
- 武田 泰淳
- 出版日
- 1973-08-10
人肉を食うという、一見異常な行動。しかしそれが行われた、飢餓寸前という異常事態。何が正常で、何が異常か、という単純な文章では書きあらわせないことを表現するのに、敢えて随筆と戯曲という特殊な構成を用いたのです。通常の文章による生々しい描写よりも、読者其々の捉え方に委ねたかったのかもしれません。
- 著者
- 武田 泰淳
- 出版日
- 1964-01-28
3作品は1947年11月から1948年12月にかけて、続けて刊行されたものです。ですから、短編集3篇という扱いではありますが、3作にはどことなく連続性が感じられます。3作品に共通して女性という生き物とその生き方について探究がされており、そしてその陰には、戦前戦後の日本を象徴するような混沌と、支配・被支配の関係が垣間見えるのです。
- 著者
- 武田 泰淳
- 出版日
- 1992-12-03
武田泰淳は東京帝国大学文学部支那文学科に入学後、左翼活動を繰り返し数回逮捕された経験があります。釈放後には大学を中退し、大学で知り合った竹内好らと「中国文学研究会」を設立したのだといいますから、この作品のモデルは作者自身であったのでしょう。
- 著者
- 武田 泰淳
- 出版日
人間の深い部分、誰もが目をそらしたくなる内面性、それを直視しながらも達観はできず、不安定な様を率直に描き出した作品が多いですね。突然文章の形式が変わるなど、ストーリー裏に隠された作者の真意が難解で、ある種のグロテスクさも含んでいるので、気軽にリフレッシュできる内容ではないかもしれません。それでも、読んだ後必ず何らかの不気味な余韻が残ります。一言で言い表せない、複雑な人間哲学に触れたいと思ったら、ご一読をおすすめします。