激動の時代に病気と闘いながら文学を学び、史実にもとづいたノンフィクション作品を次々と発表した吉村昭。戦争や自然災害を題材にした記録小説は、現代を生きる私達に歴史から学ぶべき教訓を示してくれています。目を逸らさずに向き合いたい6作品をご紹介。

今では当たり前になっている「避難時に家財を運び出さないこと」も当時は浸透しておらず、大八車で運び出した家財道具が火災を広げ、尊い命が奪われたこと。震災発生後、流言(デマ)が広がり、罪のない多数の朝鮮人を襲った殺傷事件が起こったこと。この本を読んで当時のリアルな状況に触れ、その悲惨さに戦慄しました。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
トンネル工事を請け負う佐川組の幹部である藤平健吾は、何度も間近で人の死を見、最初は強い恐怖を感じていますが、工事現場で働く先人達と同じく、次第に動揺することのなくなっていく自分に気づきます。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
- 1975-07-29
仲間が死に、ひとりきりになった長平は念仏を唱え、孤独に耐える日々を生きます。長平はひとりでも様々な工夫を凝らしてどうにか生活を営みますが、夜毎見る夢には何度も死んだ仲間である源右衛門や音吉、甚兵衛や故郷にいるお絹という娘が登場し、長平は夢の中で彼らと会います。しかし目を覚ました長平を待っているのは、途方のない孤独だけ。その描写は読んでいて辛くなるほどですが、読者に他者の有り難みを痛いほどに意識させます。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
- 1980-11-27
そこにはすさまじい津波の記憶を記録した生々しい体験談が多数収録されており、中でも当時子供だった被災者が書いた作文にはそのリアリティに胸を打たれ、やるせない気持ちにさせられます。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
- 2004-03-12
これは本当に起こった、実際の事件なのだろうか――読者はあまりの惨さに絶句しながらも、そう疑いたくなるでしょう。それほど迫力のある、とにかく凄い1冊です。この作品は吉村昭の専門とするところの、資料をさらい史実にもとづいて時系列順に起こったことを淡々と描写していく手法をとられたノンフィクションのドキュメンタリーですが、その作風が返って読者の恐怖を煽るよう。その描写力によって鮮血で赤く染まる雪の地面やヒグマが人骨を齧る音がまざまざと想像できてしまうからです。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
- 1982-11-29
明治14年4月下旬、東京の小菅にある集治監から赤い服を着せられた40名の囚人が船に乗せられ北海道に送られます。2年前に設立されたばかりの東京集治監はすでに定員を大幅に超え監視体制が行き渡らなくなったため、政府は新たな集治監を北海道に建設することにしたのです。
未開の地に辿り着いた囚人たちは、そこに自分たちが収容される集治監を建設しながら自らの食料を得るための農地も開墾することになります。
見知らぬ土地で毎日課せられる厳しい重労働と食料不足のため囚人たちは日増しに憔悴し、やがて極寒の冬を迎えると病気で倒れる者や凍傷で耳や手足を失う者も出てきます。その後各地の集治監からさらに囚人たちが送りこまれ、囚人の数は当初の40名から数百名に膨れ上がりますが、過酷な労働と獄舎の環境の劣悪さから毎年おびただしい数の死者を出すのでした。
- 著者
- 吉村 昭
- 出版日
- 2012-04-13
北海道で発見された炭鉱や硫黄山の採掘、日露戦争のための土地開発と道路整備など、それら全てを担うのは囚人たちでした。コストがかからないという理由で使い捨てのように酷使され続ける囚人たちの中には、厳しい現状から逃れるため命がけの脱獄を企てる者も出始めます。脱獄者を出せば懲罰を与えられる看守たちと囚人たちとの間には常時緊張が張り詰め、互いへの激しい憎悪が生れるのでした。
本作は特定の主人公を置かず、感情表現を最小限にそぎ落とし出来事を淡々と記述することにより、過酷な状況が報道記事を読むように現実的に伝わってきます。
当時の明治が野蛮さを残した混沌とした時代であったことを知るとともに、北海道が現在のような美しい観光地となるために歩んだ道程には暗く残酷な事実があったことを教えてくれる作品です。
いかがでしたでしょうか。過去の事件や災害、そして当時の人の姿を知ることは、この国で未来を生きていく私達に大切なことを教えてくれるかもしれません。ぜひ吉村昭の記録文学を読んで、歴史を知ってください。その読書体験はいつかあなたが窮地に立たされた時、役に立つ何かをもたらしてくれることになるでしょう。