三秋縋とは
まずは作家三秋縋についてご紹介したいと思います。ネット社会が生んだ、今までにないような発想を持った、若手の作家です。
「2ちゃんねる」というサイトの中で、「げんふうけい」という名前で作品を発表したのが始まりでした。2011年からサイト内での発表を続け、2013年9月にメディアワークス文庫から複数の作品を発表し、作家としてデビューしました。
作風としては、一言でいえば「男女の甘く切ない恋」をメインに描いています。登場人物の男女は、必ずと言って良いほど「闇」を持っており、その「闇」のせいで、世間から疎まれたり、人に嫌われたり、社会になじめなかったりしています。そんな彼らの暗い人生に一筋の明るさをもたらしてくれるのが「愛」なのです。
単なるラブストーリーだと思って読み始めることはあまりおすすめしません。ですが、覚悟をもって作品のページをめくると、今まで見えなかったことや、感じられなかったことに気付くきっかけを得ることができるのではないでしょうか。
『スターティング・オーヴァー』ある日突然、自分の人生が10年巻き戻っていた……
主人公「僕」は、時間が巻き戻る前、それなりに順調な人生を送っていました。それだけに、時間が10年巻き戻ってしまったことが悔しく、その10年より「もっと良い人生」ではなく「全く同じ人生」を歩んでやる、と決心します。しかし、本人は「1周目」と全く同じ行動をしていると思っていても、ほんの少しの違いで、「2周目」は「1周目」のようにはうまくいかなくなってしまったのです……。
- 著者
- 三秋縋
- 出版日
- 2013-09-25
この作品は、三秋縋としてデビューする前、「げんふうけい」としてネット上で公開していたものを、加筆・修正するなどして書籍化されました。
この作品は、いわゆる一般的にありがちなストーリーの真逆を突いてきます。誰もが「良い人生」を歩みたいと思っているはずなのに、敢えて「全く同じ」な人生、むしろ「悪い人生」を歩んでしまう主人公。
ストーリー自体の設定も独創的ですが、さらに、「僕」だけでなく「僕の恋人」「僕の妹」など周囲の人々も絡んできます。
この作品を読むと、思わず、自分の人生を振り返ってしまいます。自分では、自分がどの時点で、どういった行動をして、人生のターニングポイントを迎えていたのか、後からでないと分かりません。でも、だからこそ、自分がいまやっていることを大切にして、のちに振り返った時に後悔しない人生を送りたいな、と思わせてくれる作品です。
『三日間の幸福』寿命を買い取ってもらった。
主人公クスノキは、幼少期から周囲に好かれない、孤立した存在でしたが、同じく周囲から嫌われ、同じ境遇にいたヒメノと、お互い将来うまくいかなかったら結婚する、という約束をしていました。案の定、大学生になっても冴えない人生を送っていたクスノキですが、お金に困り、なんと「寿命」を売って生活費を得ることにしたのです。「寿命」を売ったクスノキの残りの人生やヒメノとの約束はどうなってしまうのでしょうか……?
- 著者
- 三秋縋
- 出版日
- 2013-12-25
この作品も、三秋縋としてデビューする前、「げんふうけい」時代のものが書籍化されました。
まず、寿命を売ってお金を得る、という設定に度肝を抜かれます。クスノキの寿命が売られる際、その価値を「査定」されるのですが、読んでいる方も、「もし私の寿命が査定されたらいくらの価値があるのだろう……?」とドキリとさせられます。
また、一見クスノキとヒメノの恋愛が描かれるのでは?と思われますが、そこも見事に裏切ってきます。
人生のはかなさ、時間の価値、自分にとっての「幸福」とは何なのか、など、私たちが考えなければならないのについ目をそらしてしまうような現実を扱った、決して「軽い」作品ではありません。しかし、現実逃避している私たちに、もう一度、考えるべきことを考えるチャンスを与えてくれる、そんな大事な作品なのではないかと思います。