香り立つ耽美『ドリアン・グレイの肖像』
モデルのドリアン・グレイは若くて美しく、噂の的でした。画家のバジルは、ドリアンの肖像画を描きながら、夢中になってその美しさを褒めたたえました。ドリアンはできあがった見事な絵を見て、自分ではなく絵のほうが歳を取ったらいいのに、絵を譲り受けます。
ドリアンは若く有望な女優と婚約をしました。しかし恋愛に夢中になり演技への情熱を失った彼女を見て、一気に気持ちが冷めたドリアンはにべもなく婚約を破棄します。翌朝、バジルから譲り受けた肖像画を見ると、微笑の口元に残酷な感じを帯びているのでした。
絵と自分との間に起こる身代わり現象を知ったドリアンは恐怖を感じますが、若さを留めるという願いを叶えるため、その魔術的運命を受け入れる決意をします。
- 著者
- オスカー ワイルド
- 出版日
- 1962-05-02
度々映像化、舞台化される、ワイルド唯一の長編小説です。薔薇、百合、ペルシャ絨毯、蜂蜜、桜桃、ヴェネチアングラス……、作品に充満する耽美でゴシックな雰囲気は、まるで音楽や香りさえ感じられるようです。
永遠の若さを手に入れれば、人は幸せになれるのかを問うていますが、ワイルドは序文で「象徴を読み取ろうとするものは、危険を覚悟すべきである。」と既に警告をしています。時間を制したつもりのドリアンですが、ストーリーのラストは無残で、時間、美、快楽の奴隷になったのはドリアンのほうでした。
初めは純粋で、自分の美を意識していなかったドリアンが、そそのかされ、絵の美しさに魅了され、やがて自惚れて、暗い道へどんどん転落していく様子は読みごたえがあります。
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オスカー・ワイルドのユーモアあふれる短編集『カンタヴィルの幽霊/スフィンクス』
短編4作と長詩1作、更に親友の女性作家エイダ・レヴァーソンの短編4作を収録しています。
表題作の短編「カンタヴィルの幽霊」は、アメリカ公使オーティスの一家が、カンタヴィル家にやって来るところから物語が始まります。持ち主のカンタヴィル卿はオーティス氏に、屋敷には幽霊が出るのだと警告をしますが、オーティス氏は全く意に介さず、購入したのでした。
引っ越した夜、老人の幽霊が現れ、オーティス氏の寝室の廊下を、歩き回ります。しかしオーティス氏は落ち着き払ったまま、静かにしていただかねば、とだけ幽霊に忠告して、寝床に戻ってしまいます。
カンタヴィルの幽霊は、その幽霊としての沽券を傷つけられ、怒り心頭です。
- 著者
- ワイルド
- 出版日
- 2015-11-11
「カンタヴィルの幽霊」は、ワイルドの短編の中でも有名な作品で、とても愉快な喜劇です。
「幽霊」は、色々と恐ろしげな演出を工夫するのですが、物質主義的なオーティス家の人びとに、ことごとく台無しにされてしまいます。その様子を描くユーモアは、筆に勢いが乗っていくワイルドならではで、今読んでも思わず噴き出してしまう面白さで、全く古さを感じさせません。
また、伝統を重んじるイギリスと、逆に新しさを笠に着るアメリカの、両方を皮肉った物言いはまさに一級で痛快です。当初それほど評価を受けなかったようですが、オスカー・ワイルドの価値観やセンスは新しすぎたのでしょうか。
本書の後半では、ワイルドの親友が、社交界での出来事などの思い出を語っており、ワイルドの人となりを垣間見ることができます。
転落して深い悔恨を綴った書簡集『獄中記』
オスカー・ワイルドは、当時有罪だった同性愛の罪で、投獄されてしまいます。本書は獄中から若い恋人ダグラスに宛てて書かれました。
「……苦悩はいとも永い一つの瞬間である。」(『獄中記』冒頭より引用)
派手な生活を送り、快楽の限りを尽くしていたオスカー・ワイルドですが、あまりにもたくさんのものを失いました。もてはやしていた取り巻きはほとんどが姿を消し、破産して邸宅さえも失くします。そしてワイルドは、最後の砦である自分自身について、折れる心を奮い立たせるかのように、取り乱したくなる精神を自制するように、何度も見つめ直すのです。
美について、芸術について、生命が掛かってでもいるかのように必死に思索する様子が鬼気迫ります。発表するための作品と異なり、ワイルドの本音と建前の激しい攻防が綴られた書簡集です。
- 著者
- オスカー・ワイルド
- 出版日
唯美・頽廃を牽引してきたワイルドですが、投獄されて全てを失い、改めて自分の半生を見つめることになりました。
信仰厚い家庭に生まれながらも、それにあてつけるかのようにひたすら快楽を追い求めてきたワイルド。「宗教、道徳、理性、いずれも何ら私を助けてはくれない。」(『獄中記』より引用)とわざわざ書いていながら、本書内ではそれらのことについて終始考えを巡らせています。
「こうしたもののすべてが、私の表した書物に前もって暗示され、予想されていた。(『獄中記』より引用)」
最後は人びとに手のひらを返された「幸福な王子」も、快楽を求め背徳に落ちた「ドリアン・グレイ」も、今となっては、ワイルドには自分自身の予言だったかのように感じられるのでした。それを思いながらオスカー・ワイルドの作品を読んでみると、それぞれの作品に違った味わいを感じられます。
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