サムライ、ゲイシャ、殺人『日本殺人事件』
日本推理作家協会賞を受賞した山口雅也の小説です。アメリカから憧れの日本へとやってきた東京茶夢ことサム。私立探偵を営む彼は、継母の母国である日本で探偵事務所を開業する夢を抱いていました。
彼が見た日本は、侍や忍者が存在し、人力車が行き交い、建物の入り口には鳥居がそびえ立つ奇妙な世界。そんなちょっとおかしな日本で巻き起こる数々の事件にサムが挑む、山口雅也の連作短編集です。
- 著者
- 山口 雅也
- 出版日
外国人が書いた小説を作者の山口雅也が翻訳するという体裁で描かれた本作。外国人から見た誤った日本観をミステリーに落とし込み、それを探偵役の外国人が解決するという今までになかった異質の小説となっています。
親戚を頼って訪れた旅館で切腹事件に遭遇する「微笑みと死と」、茶の湯の席で密室殺人事件が発生する「侘びの密室」、海に浮かぶ「クルワ島」で連続殺人事件に巻き込まれる「不思議の国のアリンス」と、終幕となる「南無観世音菩薩」の4編を収録しております。
古来より日本に伝わるワビサビや、外国人が不思議に思う日本人のちょっとした特性が事件に繋がる部分もあり、怪しげな世界観ながら少し親しみを持ってしまうことでしょう。
ふざけているようで、中身はしっかり本格派ミステリー。外国人がイメージする日本は、やはりどこか異次元として彼らの目に映っているのかも知れません。真のサムライとなるべく、日本を必死に理解しようとしているのにやっぱりできないサムの姿に思わず笑いが零れてしまいます。また、念願の探偵事務所を開業したサムが活躍する続編『續・日本殺人事件』も発表されていますので、そちらもぜひ読んでみてください。
パンク探偵、イカれた登場『キッド・ピストルズの冒涜』
パラレル英国を舞台に、パンク探偵・キッドと相棒のピンク・ベラドンナが活躍する、山口雅也の「キッド・ピストルズ」シリーズ記念すべき第1作目。『13人の探偵士』同様、マザーグースになぞらえた事件を4編収録しています。
- 著者
- 山口 雅也
- 出版日
50年間一歩も外に出ず毒殺された一人の女優の物語「『むしゃむしゃ、ごくごく』殺人事件」、ある動物園で起きた園長とカバの殺害事件「カバは忘れない」、「曲がった男」と呼ばれる実業家が石膏で固められた死体で発見される「曲がった犯罪」、人気バンドのメンバーに送られた脅迫状と「赤ニシン」だらけの奇妙な事件「パンキー・レゲエ殺人」……一体どんな事件なのか、どれもあらすじだけでは全く想像がつきません。
この「キッド・ピストルズ」シリーズでは、全ての作品においてマザーグースの見立て殺人が行われるのが特徴で、よく知られた唄から少しマイナーなものまでバラエティ豊かに物語のアクセントとなっています。マザーグースを使った童謡殺人は時折ミステリー小説や漫画の中で見かけることがありますが、ここまで徹底して題材としたシリーズは少し珍しいかも知れません。
主人公のキッドとピンクのコンビも魅力的で、今や山口雅也作品は彼らを置いて語れないほど。一見ハチャメチャに見えるキッドですが、意外にも常識人で論理的に事件を解決するというギャップを持っています。
キャラクター同士の掛け合いも軽妙で、そのテンポの良さを気持ちよく感じた読者も多いはず。奇抜なのにその地盤にある堅実さ……キッドというキャラクターは、山口雅也の作品そのものを体現しているようにも思えます。巻頭にある「なぜ駒鳥を殺したのか?」という童謡殺人の考察エッセイも必読ですよ。
音楽CDになぞらえた短編集『ミステリーズ』
1995年「このミステリーがすごい!」第1位に輝いた作品で、山口雅也の10作品を収録した短編集。作品自体を音楽アルバムになぞって、「DISC1」と「DISC2」の2つに内容を分けています。そして巻末にLINER NOTEまで付けるこだわりっぷり。ハードカバー版からノベルス版・文庫版になる際、ボーナストラックとなる1編を追加収録したため、タイトルに「完全版」の文字が付け加えられました。
- 著者
- 山口 雅也
- 出版日
- 1998-07-15
DISC1・DISC2共に、5編の短編を収録。ループの先に事件が起こる「密室症候群」や、笑ったまま死んだ死体の真実を暴く「禍なるかな、いま笑う死者よ」、あるテレビ番組を見ていた夫婦を襲う疑惑「あなたが目撃者です」、世界最後の日に開催されるコンサートを描いた「≪世界劇場≫の鼓動」など、テイストの違う変化球ばかり。ミステリーというよりもブラックユーモアに比率が置かれ、その中で巧妙に張られた伏線とラストで受ける衝撃が非常に効いています。
これまでになかったミステリーの形に果敢に挑戦する、実験的な色合いが強い山口雅也の作品。「シュール」という言葉が最も似合うのではないでしょうか。時に玄人向けと評される本作ですが、ブラックさとシュールさがミステリー短編の醍醐味である以上、むしろ限りなく王道に近いとも言えます。読んでニヤリとさせられる、少し辛めのミステリーがお好みの方におすすめです。