子供の頃から繊細だった川端康成
1899年、川端康成は大阪で生まれました。幼い頃に両親を病気で亡くし、当人もまた病気がち。小学校の入学式では、あまりの人の多さに戦慄し泣いてしまったそうです。しかし、学校の成績は優秀で、中でも作文の上手さは群を抜いていました。体と心の繊細さ、そして作文の上手さ……作家としての素質は、小学校の頃からすでに芽を出していたのかもしれません。
川端康成といえばギョロッとした大きな目が特徴的。ただでさえギョロ目なのに、子供の頃に盲目の祖父と長年暮らしていたせいか、人の顔をじっと見つめる癖がついてしまったそうです。その結果、見つめ続けた女性が泣き出す、見つめ続けただけで泥棒が退散する、など数々の逸話が残されています。
菊池寛や芥川龍之介といった文豪達と交流を持っていた川端康成。中でも、三島由紀夫と深い関係があったことはよく知られています。当時、まだ無名だった三島の才能を川端は見抜き、自分が幹部を務めていた雑誌に三島の作品を掲載させていました。このことがきっかけで2人は生涯にわたる強い絆を結んでゆきます。川端は小説だけでなく、新人発掘においても優れた才能があったようですね。
他にもたくさんの強烈なエピソードがある川端ですが、書いた作品数も膨大です。映画化されるような有名作品もあれば、入手困難な作品も。その中でも入手しやすく、川端康成エッセンスが詰まった珠玉の10作品をご紹介します。
川端康成作品の最高峰『雪国』
「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。」
(『雪国』より引用)
川端康成の作品を読んだことはないけれど、この書き出しだけなら知っている、という人は多いかもしれません。美しい文章の代表例として、たびたび紹介されるこの一文。もちろん本文も美しく、読みごたえのある作品です。
物語は、親の金で勝手気ままに生活している島村が、芸者の駒子の元へ向かう場面から始まります。
- 著者
- 川端 康成
- 出版日
島村、駒子、そして駒子の妹分である葉子と、連れの病人の男。現実と回想を繰り返しながら、それぞれの関係が徐々に交錯していきます。物語は穏やかに進んでいくと見せかけて、ラストにある事件が起きてしまいます。
ちなみに、『雪国』は直接的な描写を避けた作品なので、難解と言われてしまうことも。例えば、最初の書き出しの後に続く次の文。
「夜の底が白くなった。」
(『雪国』より引用)
夜の暗闇と一面の雪の白さを対比させた美しい一文です。このような間接的な描写が『雪国』にはあり、難しく感じてしまう人が多いようです。しかし、この作品は繰り返し読めば読むほど、難解さの裏に広がる詩的な美しさを感じられるようにできています。
川端康成作品の最高峰とも謳われる『雪国』。ぜひ手にとって、文章の美しさに酔いしれてみて下さい。
家庭崩壊の先にあるものとは?『舞姫』
川端作品の中には「魔界」と呼ばれる概念をテーマにしたものがいくつか存在します。その「魔界」を初めて小説の中に落とし込んだものが『舞姫』。のちの作品の主題が変転する、一つのキーポイントとなった長編小説です。
『舞姫』と聞くと、森鴎外の作品を思い出す人もいるのではないでしょうか。実際、川端康成の作品の中でも本作はあまり知られていないほうです。
- 著者
- 川端 康成
- 出版日
- 1954-11-17
貧乏育ちの元男、裕福に育った妻の波子、そして二人の間に生まれた娘の品子と息子の高男。元男は国外逃亡を計画し、一方の波子は不倫中。もともと冷めきっていた二人でしたが、波子の不倫がバレたことをきっかけに全てが崩壊へと向かっていきます。
生まれ育ちの違いや価値観の違いで、人間関係がうまくいかないのは現代でも同じです。そして、家族間での問題がそうそう解決できるものではないのも同じ。川端康成は、その「解決できないもどかしさ」を上手く表現しています。