『若沖』が直木賞候補作に挙がったことで話題を呼んだ、歴史学者・小説家の澤田瞳子。その豊富な歴史の知識と確かな文章力で、歴史小説ファンのみならず多くの読者を惹きつけています。今回は彼女の著作の中でも「代表作」と言える作品をお届け!

奈良時代に平城京で猛威を奮ったパンデミックが業火のような迫力ある筆致で描かれています。有効な治療法のない感染症で人々が次々と死んでいく恐怖と絶望の中、生と死について問いかけてくる胸に迫る時代小説です。
- 著者
- 澤田 瞳子
- 出版日
- 2017-11-21
時は天平、光明皇后の兄藤原氏四兄弟が栄華を極め平城京を治めていました。藤原四子は慈善事業として貧しい病人の治療を行う施薬院を作ります。ある日、施薬院で高熱が数日続いたあと突如熱が下がるという奇妙な症状の患者が次々と現れるのですが、これが疫神とも呼ばれる天然痘の前触れだったのです。
天然痘は瞬く間に都中に広まり、有効な治療方法が見つからないまま、奈良の人々だけでなく宮城内の藤原四子や官民たちまでも死に至らしめていきます。未曾有の混乱と恐怖の中、天然痘の蔓延を食い止めようと懸命に治療に当たる医師たちもいれば、偽りの神を祀り上げる者たちも現れます。
当時の平城京の様子と人間の生と死が、施薬院で仕方なく働く青年の名代(なしろ)と、侍医でありながら免罪で牢獄に入れられた男、諸男(もろお)の2人の視点を軸に描かれた物語です。
当時の街の様子や人々の暮らしが丁寧に描写されていて、その時代の情景が目に浮かび雰囲気を感じることができます。
また水痘や膿疱が体中にできて瞬く間に人に感染する天然痘の酷さ、人々が治療の甲斐もなく亡くなっていく悲惨さ、その大量の遺体が河原に打ち捨てられている様子、得体の知れない疫病によって顕になる人々の悲しみや恐怖、醜さも包み隠さず描かれていてパンデミックの凄惨さがありありと伝わってきます。
そんな過酷な経験と人々の死を通して、施薬院で働く名代と元侍医の諸男が生きることに対して自分なりに意味を見つけていく姿が感動的です。タイトルの意味は仏修行者が火中に身を投じて死ぬことですが、本書の中での『火定』の意味には、の生きることへの想いが込められています。
平安時代の文人政治家であった、菅原道真。当時の宇多天皇がその優れた詩歌の才能を買い、異例の速さで右大臣まで昇進を遂げます。悲しいことにその名誉が周りの嫉妬と反感を呼び、左大臣・藤原時平から中傷を受けたおかげで九州の太宰府へ左遷という処分に。
- 著者
- 澤田 瞳子
- 出版日
- 2014-06-25
主人公真楯の視点から見た物語が短編仕様で語られています。1編ごとに大仏の建設が進み、同時に様々な問題が起こってきますが、造仏所次男・宮麻呂の作る絶品料理を支えに、何とかやり過ごす毎日。
- 著者
- 澤田 瞳子
- 出版日
- 2015-08-18
物語は讃良大王(後の持統天皇)と、もう一人の主人公と言える葛野王家の新人大舎人、阿古志連廣手の視点からも描かれます。そのため、最も高い地位の大王と最下級に等しい廣手の全く異なる視点が反映されており、話に更なる面白みを加えています。
- 著者
- 澤田 瞳子
- 出版日
- 2016-06-10
現在も残る定朝の唯一の作品といえば、平等院の阿弥陀如来像。その阿弥陀如来像が現在の姿になるまでの過程を、著者は豊かな想像力を巧みに使い、自由に表現しています。
- 著者
- 澤田瞳子
- 出版日
- 2014-10-03
主人公は、京都の錦高倉市場、老舗青物問屋の枡源の長男として生まれた源左衛門(後の伊藤若冲)。長男として生まれますが、弟に店の経営を任せ、自分は好きな絵を描いて過ごす生活が描かれます。
- 著者
- 澤田 瞳子
- 出版日
- 2017-04-07
生み出す作品のストーリーに込められた勢いと、繊細で豊かな表現力に定評のある澤田瞳子。「歴史エンターテイメント」として楽しめると評判です。ご紹介した作品はそんな著者の魅力を存分に堪能できる、文学賞受賞作品を含む内容の濃い小説を集めました。歴史の知識が豊富であれば更に深く作品を味わえるので、一度読んで再読しようという時には、大まかな時代背景や歴史上の事件なども調べた上で読書を始めると良いかもしれません。
読み応えがある作品ばかりですが、どれも難解さを感じさせないテンポの良い展開が軸になっています。充実のラインナップで最初の一冊を選ぶのに苦労しますが、どれから読んでも後悔させない、興奮に満ちた読書の旅がきっとあなたを待っているはず。