若手歌人を発掘せよ!――「新鋭短歌」シリーズ
「新鋭短歌」シリーズをご存知でしょうか。「いい本を売りたい」という強い意志を持ち、福岡を拠点に幅広い分野の出版を手掛けている書肆侃侃房から出版されているこのシリーズは、若い歌人の歌集をそれぞれ一冊の本にしたシリーズです。
現代短歌の一端を担う若い歌人たちは、その初々しい才能から生まれた作品を同人誌やツイッター、文学フリマなど様々な場所で発表し、草の根的に活動しています。
そんな新時代を担う若手の歌人たちの第一詩集を出版したい、そんな心意気から生まれたのがこの「新鋭短歌」シリーズです。
今回は「新鋭短歌」シリーズの中から、特に5人の新時代を担う歌人の歌集を紹介したいと思います。
天と地を見つめ、震災を詠う
『Midnight Sun』は仙台に在住の佐藤涼子の歌集ですが、この短歌で着目すべき点の一つは、なにか対象を見つめている時の「視線」です。
「ドーナツで丸く切りとる夏の空この先ずっと寄り道でいい」(『Midnight Sun』より引用)
東日本大震災などを背景に詠った短歌のなかで、まっすぐな視線が対象を貫きます。
- 著者
- 佐藤 涼子
- 出版日
- 2016-12-09
「震度7母が我が子を抱くように職場の床でパソコン抱く」(『Midnight Sun』より引用)
彼女が経験した東日本大震災に関する短歌には、そのいたましさが詠われ、心の奥底からの叫びには胸が痛くなります。震災で、子供を抱きかかえながら亡くなった親の報道と対をなすように自らの体験を語るこの首には、震災に対するやるせなさがにじみでています。
本作の特徴は、手元や足元などの身近な「地」を見つめる視線と、太陽や雲、三日月など、遠くの「天」を見つめる視線です。
「エンジニアブーツの重さでとどまったこの世に雨の歌口ずさむ」(『Midnight Sun』より引用)
「天」と「地」を交互にみる姿勢からは、変わらない現実やそれでも流れゆく現実を、丁寧に追っていこうという意志が見てとれます。
また、料理も効果的に現われます。ドーナツや生ぬるいビールやコーヒー、牡蠣フライ、白菜、西瓜、カラメル……。どのような場面でどんな料理が出てくるか、ここにも注目です。
日常を色彩豊かにする短歌
原田彩加は朝日歌壇賞や全国短歌大会で賞を取っている実力派の歌人。「黄色いボート」に収められた作品は、タイトルからも推察されるように、色彩豊かに、そして印象的に描かれています。
- 著者
- 原田 彩加
- 出版日
- 2016-12-11
「行列がなくなり水が腐っても撤去されない黄色いボート」(『黄色いボート』より引用)
『黄色いボート』で描かれるモチーフは、日常的な公園や料理の場面、仕事や転職、また恋心など、様々な、けれども身近なものが中心となっています。そこででてくる植物園に咲く花、チューリップやウンベラータ、舞う蝶、エメラルドグリーンの金網や出目金、青い空、ホットミルク、そして黄色いボートなどは、非常に色彩豊か。何気ない日常がカラフルなものになって再認識されます。
「好きだったひとを忘れて新緑の世界ようやく胸に迫りぬ」(『黄色いボート』より引用)
日々の人間関係の中で浮んで来る想いも、取り逃さずに描かれています。カラフルな自然の情景と、人のはかなさや尊さが、ときに対比し、ときに混ざり合い、心に働きかけて来る短歌集です。