時代に翻弄されつつも、実験的手法を試みた女性作家ヴァージニア・ウルフ
ヴァージニア・ウルフは、1882年ロンドン生まれの作家、批評家です。
父は著名な文芸批評家で、母は絵画のモデルという家庭の中で、知的、芸術的に恵まれた環境で育ちます。13歳のときに母が亡くなり精神を病んで以来、生涯に渡って患わされることになりました。
兄が開いた知的な会(ブルームズベリー・グループ)は、のちに著名人が多く出た、進歩的な集まりでした。兄の死後は、ウルフが中心的役割を果たすようになります。とりわけ、性については先進的な考えを持っていたようで、そこで得た経験はウルフ作品の特徴の一つになりました。
ウルフの精神状態にはずっと波があり、1941年、入水自殺によって59歳の生涯を閉じるのでした。
1915年に処女作を刊行して以降、高い評価を受け、モダニズムの旗手とされています。独特の豊かな感性、実験的な手法、幻想的筆致がほかにない魅力を持ち、再評価されている作家です。その作品は繊細でもあり、明るくユーモラスで、何より美しい文体が魅力的。今でも世界中の読書好きを虜にしています。
現代にも通じる、フェミニズム批評の古典
1928年、女子学生向けに行われた講演をもとに執筆された名エッセイで、1929年に刊行されました。ウルフが46歳のとき、作家として、個人としてもっとも充実していた時期の作品です。
物語の形をとりながら、架空の女性を主体に据えては、ウルフや、多くの女性たちの思いを投影した本作。これまで女性が社会的にどんな処遇を受けてきたか流れを追いながら、では文芸においてはどうだったか、そして今後女性が作家として生きるにはどうしたら良いのかを思索していきます。
冒頭で示されるのは「女性が小説を書こうと思うなら、お金と自分ひとりの部屋を持たねばならない」という有名な一節。果たしてその真意は具体的にどのようなものなのでしょうか。
- 著者
- ヴァージニア ウルフ
- 出版日
- 2015-08-27
まるで姉が妹に語るような、優しく親し気な語り口は、実際に声を聞くかのようにするすると耳に入ってくることでしょう。ともすれば深刻な問題を、時に鋭く、時に楽観的に、興味を引き付けながら紐解いています。
単純に社会を恨み、男性を叩くようなことは決してなく、実際どうしたら良いのかという結論を目指して話されています。ものを書きたいと思っても、支援者も、模範にしたい先輩もほとんどありません。仕事をするために、養われずとも済む収入と時間と場所が必要であることは当然頷けますが、当時は今以上に、女性には自由になるお金も時間もなく、その機会を得ることは非常に困難だったという背景を、改めて知ることができます。
女性がひとりで仕事をしていくには何が必要か、今読んでも十分に示唆を得られます。ものを書いて、一定以上の収入と理想の時間管理を目指すという意味では、男女の区別なく読めることでしょう。
『高慢と偏見』『ジェイン・エア』などが作中で引き合いに出されていますので、ある程度の著名な古典と作者について知っておくと、より深く意味を理解できます。
不思議な魅力を持つ、知的な遊び。時間と人格の迷宮へ
「では何者なの?」「百万もの自分がある。」(『オーランドー』より引用)
冒頭のオーランドーは、エリザベス女王の寵愛を受ける、すみれ色の目をした美しい少年です。ある時、燃えるような恋に落ち、それが結末を迎えた後、オーランドーは7日間眠ったままになりました。そして目覚めると今度は、オーランドーは20代の物書きとなっているのです。そしてまたその後、昏睡状態からぼんやりと目覚めると、今度は女性に変身しています……。オーランドーは、時間も性も超越して、いくつもの人生を生きる人なのです。
- 著者
- ヴァージニア ウルフ
- 出版日
「人びとは、墓石に記してある通りの定められた六十八年とか七十二年の歳月をきっかり生きたのだ、と考えてよい。そうでない人びとはどうかと言うと、死んだはずなのにそこらをうろついたりする、生れる前に人生の諸形態を経験済みだったり、また何百歳にもなるのに自分は三十六歳だ、などというのだ」(『オーランドー』より引用)
支離滅裂な設定に思えますが、一体どういうことなのかと整理して読み進めようとするより、把握できないままに、ここはウルフにハンドルを任せてみてください。ジェットコースターのように、一気に読むことができます。
1つの作品ながら、何作もの別の小説を読んでいるようでもあり、しかしそれらは確かにひとつの人格によって串刺しされているのです。「性」もテーマの一つで、オーランドーは、たくましい男となったり、母となったりしては、性別を行き来し、男女それぞれの長所と短所、それに共通点を知っているので、客観的に俯瞰することができる究極的存在です。
いくつも人生を生きるオーランドーの、「生」について示唆に富む豊かな発言が多いのもこの作品の魅力。ルネサンス期から20世紀まで生きた、360歳のオーランドーを通して、社会やの変遷や文学史を読み取れるでしょう。