金原瑞人はこれまでに400冊以上の海外文学を訳してきた翻訳家です。本の紹介をすることにも尽力し、まだ見慣れていなかったヤングアダルトの分野の多くを日本に上陸させています。今回は、そんな金原が教えてくれる素敵な作品をご紹介します。

この話には病気で気力も失い、本人の思い込みによって本当に助かる見込みもなくなった友人を助けたいと願う美談が描かれています。病気に苦しむ少女の悲壮感とその様子を見る友人の苦悩がないまぜになり紡がれていく、中身の濃い短編となっています。友人を助けようと陰で奔走する画家スーの姿は、健気なものです。
- 著者
- オー・ヘンリー
- 出版日
- 2001-06-16
ロブ・ゴンサルヴェスの絵は視覚的に楽しめ、何度も細かい部分にまで目がいってしまう仕掛けがあります。たとえば海に架かる橋の絵では、柱と柱の間から向こう側の曇り空が見えます。手前にくるとその柱の合間の形が帆船に変化しているのです。その絵の変化がどこから始まり、どのように変化しているのかを何度も確かめたくなってしまう魅力があるのです。
- 著者
- セーラ・L. トムソン
- 出版日
アメリカ批判を綴ったエッセイには、捻じ曲げられた大統領選挙についての怒りが書かれています。その選挙で黒人は選挙権をはく奪されたものだとヴォネガットは書きました。さらに、大統領が証拠もない大量破壊兵器を理由にイラクを攻撃しようとしていることを指摘し、自分は国のない男になったと言っています。ヴォネガットのアメリカ政府に対する行き場のない怒りを読むことができるエッセイです。
- 著者
- カート ヴォネガット
- 出版日
- 2007-07-25
本書の魅力は、政府によって価値観を押しつけられるディストピア要素が、子ども目線で面白おかしく書かれている点。チョコレートを巡って自由のために戦う子どもたちの勇気と大胆さが、物語の面白さになっているのです。大人の理不尽に立ち向かう子どもたちによる、痛快な冒険小説といえるでしょう。
- 著者
- アレックス シアラー
- 出版日
死とは突然訪れるものです。いつだって準備を整え、やりたいことをすべてやり終えて、というわけにはいきません。ハリーもまた死ぬとわかっていたら、あんな酷いことは言わなかった、という心残りがありました。それは姉のエギーがペンを貸してくれなかったことに怒って喧嘩してしまったこと。別れ際に心にもないことを言い合い、それきりになってしまった姉弟。そのことで姉が罪悪感を抱いていないかと気が気ではなかったのです。
- 著者
- アレックス シアラー
- 出版日
時は1962年、イギリス。貧しい海辺の町。
「石炭が採れるってだけで、ほかになんにもとりえのない砂浜と海の村」
「どこまでも続く砂丘、浜辺、北側にあるマツ林、古ぶるしいリゾート用のログハウス、寂れた村の家並。海岸から奥に入った場所には、鎖を巻きあげる歯車が取りつけられた坑道入口、彼方に広がる湿原、灯台の建つ岬。」(『火を喰う者たち』より引用)
それが、この物語の舞台であるキーリーベイ。
その町に住むボビー・バーンズは私立中学への進学が決まっていました。
その日、母親と二人でニューキャッスルに買い出しに行ったボビーは、川沿いの市場のそばで、マクナルティーという過激で不思議な存在感を放つ大道芸人に出会います。そしてなりゆきでマクナルティーの助手を務めることになってしまうのです。
- 著者
- デイヴィッド・アーモンド
- 出版日
- 2005-01-14
私立学校への進学によってもたらされた親友とのすれ違い、学校内の厳しい規則と罰則、職業の選択、美しく消えゆく故郷の風景、父親の病、本当に大切なものは何か。ボビーの思春期の不安定な心身に、様々な問題が一気に襲いかかります。ボビーはまるでそれらから解き放たれようとするように新しくそこに移り住んできた同級生、ダニエルと共に、学校である事件を起そうとします。
その時にはまだ何も失われていない世界で、その営みのたてる音に、そこから発せられている声に静かに耳を傾ける。そういった物語です。
そこに住む人々の営みがすべて崩壊する恐れがありました。奇蹟の男マクナルティーが現れるまでは。
彼らは集うのです。明日という不安をもたらす未知の現実に向き合うために。
彼らは祈るのです。同じように孤独な者たちのことを想って。
そして彼らは信じるのです。時間の経過という変えられない現実がもたらすこの世界で、その共同体の持つ価値観とそこにある確かな時間の流れを。
感情を共有し、寄り添って慰め合い、時には叱咤激励しながら、それでもお互いの存在を信じ合いながら生きていく、ある小さな村落の美しい物語です。
ヤングアダルト小説の普及に尽力したことで有名な金原瑞人ですが、古典や絵本など多岐にわたる英文学を翻訳しています。本の紹介にも力を入れている金原だからこそ、日本では知られていない多くの文学を読者に教えてくれるのでしょう。