甘く寂しい日本近代詩の精華『若菜集』
『若菜集』は1896年から1897年にかけて『文学界』で発表された詩を中心に52編から成る島崎藤村の第一詩集です。
「おえふ」から「おきく」に至る6人の処女集からはじまり、新しい朝の到来を賛美する「明星」、厳しい冬を越えて訪れた春を歌った自伝的な詩「草枕」などが収められています。
- 著者
- 島崎 藤村
- 出版日
- 2002-12-25
中でも「まだあげ初めし前髪の」からはじまる「初恋」は、教科書にも載っているので耳にしたことがある方も多いのではないでしょうか。林檎の木の下で会っていたふたりの初恋を歌った詩で、どんな時代でも変わらない、恋に落ちていく過程が綴られています。『若菜集』は他にも思わず口ずさみたくなる恋の詩が多く収められた詩集です。
明治女学校で教師をしていた時に教え子を愛し苦しんだ島崎藤村は、1986年に仙台の東北学院に作文教師として赴任します。仙台で自然に触れ、今までの恋愛や友人北村透谷の自殺などの重苦しい生活から解放された彼は、自己を解放するかのように詩を続々と生み出していきました。
学生時代にキリスト教の洗礼を受け、また松尾芭蕉や西行などに親しんだ島崎藤村。日本の伝統的な語感と西洋文学の斬新な詩情が融合した新しい形の詩は、それまでに見られなかった浪漫主義詩人として彼の名を広めました。
移り変わる自然の美しさや、淡い青春、日本語の奥深さを感じられる詩集です。
自身の苦悩を描いた「破滅的な禁断の愛」『春』
『破戒』に続き1908年に自費出版された『春』は、島崎藤村の最初の自伝小説です。
登場する岸本、青木、市川、菅、足立らは皆20代の青年です。キリスト教に触れ和洋の学芸に関心のある新時代の若者であり、共同で文芸誌を出しています。
岸本は女学校の教師となりますが、教え子で許婚のいる安井勝子への激しい恋情に苦しみ学校を辞めることになります。岸本のモデルは藤村自身ですね。一方青木は先鋭な思想を持ち、自由恋愛、結婚をしましたが、生活は苦しく心身ともに疲労が募っていきます。交流の深かった北村透谷をモデルにしたのが青木です。
- 著者
- 島崎 藤村
- 出版日
- 1950-11-30
青木の自殺、勝子の病死、離れていく仲間たち。岸本がすべてを放棄しようとしたときに、東北の学校教師の誘いがきました。最後の「ああ、自分のようなものでも、どうかして生きていたい」という言葉に、当時の藤村の想いが集約されているように感じます。
人生の青春時代で悩み思索し、生きるべき道を求める若者の姿が、藤村自身の自伝ということもあり、リアリティをもって描かれています。
36歳の藤村が自身の20代を振り返って書いた『春』は、「文学界」創刊ごろの藤村の交流関係など、文学史における貴重な場面も見ることができます。
平和な家庭の崩壊を記した悲劇の自伝!『家』
1911年に自費出版された『家』は、日本の近代化とともに滅びゆく中仙道馬籠にある小泉家と木曾福島の橋本家の2大旧家を描いた作品です。小泉家は藤村の生まれた島崎家、橋本家は藤村の姉が嫁いだ高瀬家をモデルにしており、『春』に続き自伝的小説となっています。
藤村自身がモデルの小泉家の末弟三吉が、ひと夏を橋本家で過ごすところから、以後12年間にわたる両家の人々の歩みが物語られます。
- 著者
- 島崎 藤村
- 出版日
文学に携わる小泉三吉は兄たちのあり方に批判を抱き、自身は貧しくとも堅実な生活を築こうと決意します。しかし夫婦それぞれの異性問題や、家長である兄からの送金依頼、子供たちの病死など運命は彼を放っておきません。「家」につながれた人々の関係性への問題を抱え込んでいくのです。
藤村の作品には、進んでいく時代と伝統的な習わしの間でもがく人間たちの様子がこれでもかと描かれています。「家」という切っても切ることのできない因縁は、今では想像できないほど当時の人々に重くまとわりついていたのです。
その中でも懸命に自分の人生を歩こうとする主人公の姿を藤村に重ね、当時の日本を思うことのできる物語です。自身や家族の姿をありのままに描いた『家』は自然主義文学の到達点と評されています。