ゴッホの自画像をめぐる、暗殺と逃亡劇!
『ゴッホは欺く』は永井淳によって訳され、2007年に新潮文庫から上下巻2冊で出版されました。
美術コンサルタントのアンナの雇い主フェンストンは、貴族たちに高利で融資し、彼らがもつ美術品をつけ狙う卑劣な銀行家でした。イギリス貴族の女主人ヴィクトリアはゴッホの自画像を持っており、それを売却してフェンストンに返済しようとしたため、9・11テロ前夜に殺害されます。その死体は左耳を切断されていました。
アンナはフェンストンから絵画を守るため、ゴッホの自画像を持って逃走し、ヴィクトリアの妹アラベラと協力することに。アンナに迫る女殺し屋クランツ、一連の事件によってアンナを観察、追跡するFBI捜査官などが登場し、物語はゴッホの自画像の謎も絡んで深みを増していきます。アンナは名画を守り切ることができるのでしょうか。
- 著者
- ジェフリー アーチャー
- 出版日
- 2007-01-30
本作の時間軸は9・11同時多発テロ前後に設定されています。飛行機が衝突する直前、ノース・タワーでアンナとフェンストンは言い争いをしていました。そして飛行機が衝突してからの、アンナの冷静沈着な返答に対するフェンストンの横暴な言い返し方には、切迫した不条理にとまどう様子がリアルに感じられます。
その後「10分後に部屋から出ていけ」(『ゴッホは欺く』から引用)とフェンストンが発言するなど、11日当日の動きが細かく時間説明を入れて描かれています。テロが起こる瞬間が刻々と近づいている描写に、9・11を少しでも知っている読者は不安な気持ちになることでしょう。
そして、ただのサスペンスで終わらず、アンナとFBI捜査官ジャックによるロマンスストーリーも含まれています。サスペンスに恋愛は邪道だと考える人もいるでしょう。しかし、FBI捜査官ともあろうものが私情を挟んでしまうあたり、ジャックは人間味あふれるキャラクターとして描かれています。登場人物が魅力的であればあるほど、物語は面白くなるものです。この作品ではつい彼の人間味ある中途半端さのようなものに惹かれてしまいます。
また、目的地に向かうまでの街中の描写なども巧みに描かれ、頭の中には映画を見ているかのような情景が浮かんできます。アンナが行動力あるキャラクターなので物語のテンポもよく、スピード感もあります。逃げる女アンナと、追う女殺し屋クランツ。少し頼りないとも言えるジャックに対して、女性が強く描かれた作品です。
人生が180度逆転!投獄された青年の復讐劇!
『誇りと復讐』は永井淳によって訳され、2009年に新潮文庫から上下巻2冊で出版されました。
自転車修理工のダニーは幼馴染で恋人のベスとの結婚が決まった矢先、ベニーの兄であるバーニーの殺人容疑をかけられます。真犯人は法廷弁護士のクレイグなのですが、そのとき一緒にいた人気俳優ダヴェンポート、土地管理コンサルタントのペイン、麻薬中毒者のモーティマーが協力してダニーに罪をかぶせたのでした。
投獄後ダニーは獄中で貴族の若者であるニックと巨漢のアルと知り合います。ニックと信頼関係を築くのですが、彼の存在、そしてある方法によってダニーは早めに出所します。そして4人への復讐劇は幕を開けたのです。
- 著者
- ジェフリー アーチャー
- 出版日
- 2009-05-28
ジェフリーの作品でよくみられる、負け組が強い者に逆転勝利を挑む展開が本作でも見られます。王道ストーリーがなぜここまで面白くなるかというと、やはり登場人物それぞれのサクセスストーリーをうまく組み込んでいるからでしょう。
ダニーについた弁護士アレックスの父親と、検察側の勅撰弁護士であるピアスンは長年のライバルでした。ダニーを無罪にしてやれなかった雪辱を、物語終盤で再度開かれる法廷で晴らそうとします。戦っているのはダニーだけではないのです。
ダニーは出所したあと、手に入れた財産で自分を陥れた4人に復讐を仕掛けます。圧倒的絶望から本人の努力により希望を手に掴む様子はすがすがしい気持ちで読むことが出来るもの。ダニーの復讐劇に終わりは訪れるのでしょうか。ダニーの苦労を読んできている分、2冊読み終わった後は目頭が熱くなることでしょう。
ジェフリー アーチャーの人気シリーズ作品
「クリフトン年代記」シリーズは戸田裕之によって訳され、2013年に第一部が新潮文庫から出版されました。
本作は第7部で完結であり、2017年2月現在、第5部まで日本語訳された文庫が出版されています。第1部『時のみぞ知る』、第2部『死もまた我等なり』、第3部」裁きの瞳は」、第4部『追風に帆をあげよ』、第5部『剣より強し』がそれぞれ上下巻2冊で出版されています。
1920年代、貧乏な少年ハリーは聡明な子であるとして、母親メイジーの努力もあり進学校に進むことになります。しかし周りの富裕層にいじめられたり、メイジーが働く店が放火で全焼したりと様々な困難が訪れます。
そういった危機をくぐりぬけ、ハリーは名家出身のジャイルズと親友になります。しかし、ハリーとジャイルズの関係には驚愕の事実があったのです。
- 著者
- ジェフリー アーチャー
- 出版日
- 2013-04-27
本作は貧しい家出身のハリーが複数の謎に絡まれ権力や金銭の争いに巻き込まれていく物語です。ハリーの為に必死で働き、なんとしても学校を退学させないように奮闘するメイジーや、ハリーのことを愛し、死んだと噂されても彼のために単身で行動を起こすベマなど、ハリーの周りの人間関係は恵まれているかのように思えます。
しかし、庶民と富裕層との確執はそうそう取り払えるものではありません。争いが争いを呼び、裏切る者や金銭目当てで行動する者、死に至る者なども出てきます。その中でいかにして生き残るか、ハリーの戦い方に注目です。
「クリフトン」シリーズの第1部『時のみぞ知る』では、ハリーと重要な関係にある海運会社の社長ヒューゴーと、メイジーとの駆け引きが秀逸。どうにかしてメイジーを陥れようとしているヒューゴーの地の文に書かれる本心や、取り繕ったようなセリフはまさに「嫌な奴」。どうにかメイジーに頑張ってほしいという気持ちでどんどん読み進めてしまいます。
先述のとおり、ジェフリーの作品は番狂わせを軸に置いているものが多いです。本作の主人公ハリーはこの欲望にまみれた世界でエマと幸せになれるのでしょうか。第6部と第7部の日本語版出版を期待して待ちましょう。