4位:時代薫る桐野夏生の正統派ミステリー
村野善三は「トップ屋」と呼ばれる特ダネを追う週刊誌の記者です。ふとしたことで知り合った女子高生が数日後に死体で発見され、彼は容疑者として追われる身になってしまいます。
真犯人を追ううちに、村野はこの殺人事件に政界や芸術界の重鎮たちが関わっていることに気付きます。更にこの事件は彼が追っていた連続爆破事件とも交錯していたのです。
- 著者
- 桐野 夏生
- 出版日
- 2016-04-08
『水の眠り 灰の夢』は主人公が犯人を追う正統派のミステリーです。謎解きだけでなく、村野と後藤との男の友情、大竹早重をめぐる恋、トップ屋と刑事の情報戦などの人間模様も楽しむことができます。
そして注目すべきは当時の日本の風俗がリアルに描写されていることです。1963年とは、戦争の陰がわずかに残るものの、東京オリンピックを翌年に控え日本中が湧いている時代。アイビールックに酒、タバコ、車など当時を象徴するものが細かく描かれます。登場する男性たちも、それぞれが時代の空気をまとった「男の美学」を持っており、男臭い空気を鼻先に感じるほどです。
また、実際にあった連続爆破事件「草加次郎事件」も絡めてあり、桐野夏生がこれをどう解いていくのかも読みどころのひとつとなっています。
そしてこの作品、実は『顔に降りかかる雨』をはじめとする村野ミロシリーズの番外編なのです。気になる方はそちらも是非お読みになってみてください。
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3位:混沌と静かな衝撃のラスト
誰にでも、人には言えないような思いを抱く瞬間というものはあるでしょう。例えばひどい喧嘩をした相手や泣き止まない子どもなどに対し「いなくなればいいのに」と思ったりするようなことです。でももし、それが現実になってしまったら?
森脇カスミは家族ぐるみで付き合いのある石坂と不倫中です。石坂が持つ北海道の別荘に招かれ、互いの家族の目を盗んで逢瀬を繰り返します。
ところが、石坂に焦がれるあまり、子どもさえ捨ててもよいと思った後で、カスミの5歳の長女有香が行方不明になってしまうのです。不倫を知った互いの配偶者、ロリコンと噂のある別荘の管理人、カスミが捨てた故郷の両親……あやしい人物は多いものの、犯人がわからないまま、カスミの娘探しは4年も続きます。
有香は生きているのか?連れ去った犯人は誰なのか?その目的は?読者である私たちには様々な疑問が浮かびます。
- 著者
- 桐野 夏生
- 出版日
しかし、この作品は単なる謎解き物語ではありません。桐野夏生は、登場人物の心理や過去などをそれぞれの視点や夢などを用いて丁寧に描いていきます。
『柔らかな頬』は直木賞受賞作ですが、ラストには賛否両論があったといいます。この作品をただミステリーと分類すれば、確かに不完全な結末なのかもしれません。
しかし現実は、動機から真っ直ぐに事件に繋がるという単純なものではありません。様々な思惑、些細なすれ違い、ありえないような偶然が重なって思わぬ方向に転んでいき、事件が起こるのではないでしょうか。
「事実は小説よりも奇なり」といいます。現実に起こることは、時として信じがたく、かえってリアリティがないように感じられることがあります。桐野夏生は「事実」をかき集めただけでは零れ落ちてしまう、そんな「現実」を書いているのです。
読み進めた人は、終盤で明らかになる有香自身の思いに、静かな衝撃を受けることでしょう。
2位:作用しあう個人と集団の行方を桐野夏生が描く
複数の玉が置かれています。そこへ一つの玉が飛び込んできて、玉の集団は動かされ、全体の様子が変わりました。今度は別の玉が動き、また全体の形が変わります……。『OUT』はそんなビリヤードやビー玉遊びなどを連想させる作品です。
弁当工場で夜勤をする雅子、ヨシエ、弥生、邦子。4人は介護や借金、夫の浮気などそれぞれ問題を抱えていました。ある日、弥生が衝動的に夫を絞殺してしまいます。相談された雅子は他の2人を巻き込み遺体をバラバラにして捨てることにします。
しかし一人のメンバーの杜撰な行動から、遺体の一部が発見されてしまいます。そこに前科者やヤクザもどきが絡み、女たちは更なる窮地にたたされることになるのです。
- 著者
- 桐野 夏生
- 出版日
- 2002-06-14
タイトルになっている『OUT』にはいろいろな意味があります。一線を越え、社会からOUTしてしまった雅子たち。問題を抱える彼女たちがOUTしたかったものは何だったのか。そして雅子は危機的な状況からOUTできるのか。
現実の世界でも死体を切り刻む殺人事件はいくつも起きています。その報道を見ると「なぜそこまでできるのだろう?」と不思議に思うでしょう。まして、犯人がどこにでもいるような主婦だとしたら、その疑問は大きくなるばかりです。
『OUT』の登場人物も、私たちのすぐそばにいそうな女性です。しかし彼女たちが境界線を飛び越える過程は呆気なく、「一般人」と「犯罪者」との境界線は思いのほか細いことに驚かされます。
ひとりが起こした動きが、周囲にどんな変化をもたらすのか。桐野夏生はここでも人間への好奇心を遺憾なく発揮し、執拗ともいえる作家の目で見つめ、描いていきます。
映画にもドラマにもなった作品なので、ご覧になった方も多いでしょう。しかし原作とは異なる部分もありますので、その違いを是非楽しんでみてください。
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