知の怪物のような作家、ボルヘスとは
ホルヘ・ルイス・ボルヘスはアルゼンチン出身の作家です。夢と迷宮、無限と循環、宗教、神をモチーフとする幻想的な短編作品を書くことで知られています。ボルヘスの作品は1960年代のラテンアメリカ文学ブームによって評価され、20世紀後半のポストモダン文学に大きな影響を与えたと言われています。
ボルヘスの出自は1899年、中産階級の家庭に生まれたと言われています。父親であるホルヘ・ギリェルモ・ボルヘス・ハズラムは弁護士であり、英語を使った心理学の講義も持っていました。非常に教養のある家庭の出身であると言えます。また、父親の書庫には5000冊を超える蔵書があり、ボルヘスは幼い頃からこの書庫の書物を読み漁ったようです。
その後、1921年からボルヘスは本格的に作家活動を開始しました。同年に、壁雑誌『プリスモ』を発行しています。壁雑誌とは、一枚の紙に創作物を印刷し壁に貼ったものです。その後、アドルフォ・ビオイ・カサレスと知り合い、『ドン・イシドロ・パロディの六つの問題』という探偵小説も執筆しています。
そして、1933~1934年に、実在した人物の伝記を脚色して作った『汚辱の世界史』を発表していますが、これがボルヘスの作家としての「真の出発点」と言われています。その後、『トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス』『バベルの図書館』などの代表的な短編を執筆し、1944年に『伝奇集』を刊行しました。これにより、アルゼンチン作家協会より、栄誉大賞を送られています。
晩年には、ボルヘスは視力を失い、ほとんど盲目となってしまいます。この失明は遺伝的なものとされており、父親もまた、晩年に視力を失っているのです。また、ボルヘスの作品の評価としては、フォルメントール賞、マドニーナ賞、エルサレム賞、セルバンテス賞、レジオン・ド・ヌール勲章を受章し、オクラホマ大学、コロンビア大学、オックスフォード大学から名誉博士号を授けられています。
このように、ボルヘスは非常に教養の高い家庭に生まれ、彼もまた、その恩恵を十二分に受けて育ち、非常に教養の高い作家へと成長しました。そして、国内のみならず、国際的にも高く評価されています。作家として、非常に優秀な人物であると言えますね。ボルヘスは長編小説を1本も書きませんでしたが、短編を数多く残しています。短編集が好きな方はボルヘスの作品を読んでみると良いかもしれません。
教養高い文学作品を書いたボルヘスの作品は現代にも残っています。文学を好む人もそうで無い人も一度ボルヘスの作品を読んでみると良いかもしれません。
ボルヘスの深い精神性『七つの夜』
この作品はボルヘスが行った7つのテーマに関する講演を集めたものです。そのテーマは「神曲」「悪夢」「千一夜物語」「仏教」「詩について」「カバラ」「盲目について」の7つです。ボルヘスという人物が一体物事をどのように考えていたかを記す珠玉の講演集となっています。そのため、この作品はボルヘスの入門書と言われています。
本書は第一夜から第七夜までの章で構成されています。例として、第一夜から抜き出しますと、その主題は「神曲」となっています。ボルヘスは「神曲」を「あらゆる文学の頂点に立つ」と言います。このように、文学作品から宗教まで幅広くテーマを取り扱った講演集になっています。
- 著者
- J.L.ボルヘス
- 出版日
- 2011-05-18
ボルヘスの知性はあまりにも強力であり、それは時空を超えるほどの知性になっています。本書を読むと、きっと自分の知性の無さに愕然とさせられると思いますが、それでもこの本を読むことは苦痛にはならないでしょう。むしろ幸せを感じるのでは無いでしょうか。その理由は、ボルヘスの本に対する愛情に同感するからなのかもしれません。
そして、ボルヘスはこの本にタイトルを付けると、こう言いました。「悪くない。さんざん私につきまとってきたテーマに関して、この本は、どうやら私の遺言書になりそうだ」と。ボルヘスは目が見えていた頃も、目が見えなくなってからも、ずっとこれらのテーマについて考え続けていたのです。
さて、ボルヘスは博覧強記で知られる作家なので、難しい文章を書くのではないか、と思われがちですが、その想像よりもずっと穏やかで優しい語り口調であることに驚かされます。次々に引用される語句には少し難解さを感じてしまいますが、読んでいてどこか心に馴染む感じがしますね。
さて、ボルヘスの作品は非常に難解な物が多くなっています。上述したように、物事を深く突き詰めて考える人であるので当然と言えば当然でしょう。
ボルヘスという知性の怪物のたどった道をトレースしてみたい方は、本書を足がかりにボルヘス作品にチャレンジしてみてはどうでしょうか。
ボルヘスが最も愛した詩文集『創造者』
ボルヘス自身が最も愛し、評価した代表的な詩文集です。作品の随所に、等身大の作者の影や肉声を聞くことができます。その内容は「鏡」「分身」「時間」「ドン・キホーテ」などがあります。本書はボルヘスの代表的な文学大全です。
やはりボルヘスらしく、難解な作品になっています。読者が本気で本書を読み解こうとするならば、ボルヘスと同等の知識や教養、そして想像力が必要になってくるでしょう。それほどに、本書に書かれている内容は一筋縄で理解できない文章が多くなっています。
例えば次のような一文があります。
「夜空の月よりも、むしろ、詩の中の月の方が思い出しやすい。」(『創造者』から引用)
このことは、ボルヘスが類を見ないほどの読書家であることが表れていますね。
この作品はわずか200ページほどですが、じっくりと時間をかけて、腰を据えて読書をする時間を作ることのできる読者以外には不向きでしょう。しかし、それでもボルヘスを理解するには必読の書となっています。なぜなら、本書はボルヘス自身が最も愛した作品集なのですから。この本を読み解くこと無しに、ボルヘスを理解することは出来ないでしょう。
- 著者
- J.L. ボルヘス
- 出版日
- 2009-06-16
世の中の成り立ち、その真理について考え、想像し、その仕組みを解き明かそうとした、ボルヘスの作品です。
年老いて失明することで、どんどん自身の能力が失われていく悲しみ。それは想像を絶するものであると思います。ボルヘスは読書家でしたが、その本も読めなくなることで、新しい知識を入れることが出来なくなってしまった悲しみも、きっと私たちでは想像できないほどのものでしょう。そのため、本書は、1人の作家が何かを失った悲しみを感じ取れる名著になっているのです。ボルヘスの愛した詩をあなたも読んではいかがですか?