5位:本を読んだ先にあるものとは
古びた、けれど品揃えには光るものがある夏木書店。その店主である祖父を亡くした主人公、夏木林太郎が毒舌な喋るトラネコに出会うところから『本を守ろうとする猫の話』は始まります。
トラネコはトラと名乗り、林太郎を3つの迷宮へ連れて行きます。本を守るため、林太郎の力が必要だと言うのです。不思議な門に誘われ、いきなり異空間に連れて来られる林太郎は、そこで異空間の主と対峙することになります。
ある迷宮では、一度読んだ本を読み返す必要はないと主張する主。また別の迷宮では、効率的に読書をするために本を要点だけにまとめるべきだと主張する主。そして、売れる本を作るためなら本の内容など何でもいいと主張する主。暴論ともとれるそれぞれの強い信念のせいで、本の扱い方を間違えている主たち。林太郎はそこで、ひるむことなく自分の考えをもって戦うことを選びます。
何かを愛する気持ちだけで相手の考えを変えることはできるのか。主たちの主張に読者は思わず心を持って行かれてしまいそうになりますが、林太郎の本への愛情がそれを引き留めてくれます。
- 著者
- 夏川 草介
- 出版日
- 2017-01-31
「本には大きな力がある。けれどもそれは、あくまで本の力であって、お前の力ではない」
(『本を守ろうとする猫の話』より引用)
この言葉には身につまされるものがあります。私たちの周りには多くの本がありますが、それを読むだけで終わりにしてしまうことも少なくないのではないでしょうか。本の持つ力を自分の考える力、前に進むための力に変えることで、初めてその本を読み切ったと言えるのでしょう。
幸いにも多くの本の中には、この小説のように本を読むことの本当の意味を教えてくれるものが存在しています。もしも何かの道に迷った時は、ぜひ手に取ってみてください。トラが林太郎をいざなったように、きっと得るものがあるはずです。
4位:家族のあり方を教えてくれる
両親を亡くした、血の繋がっていない兄妹である相田ユカリと陽一、そして猫の種田さん。ふたりと一匹の、温かい物語が描かれた『きみと暮らせば』を紹介します。
種田さんは相田家の癒し担当というポジションです。初めは猫を飼うことに反対していた陽一も、いつの間にか種田さんを受け入れて、種田さんも陽一の膝の上が心地よいようです。それにユカリは可愛い嫉妬を覚えてみたりと、猫好きにはたまらない空気が作品を包んでいます。
大きな事件や解かれるべき謎はありませんが、章ごとにどこか気づかされるものがあることは確かです。冒頭のくだりの意味が最後にぱっと繋がっていくのは、驚きも与えてくれます。
義理の兄妹であることなど、本人たちも、そして読んでいるこちらも忘れてしまうほどに仲の良いふたり。そんなふたりのやりとりは、終始のんきで、どこかクスっとしてしまう和めるものです。お互いのことを職場や学校で話題にしていたり、買い物のことで些細な言い合いをしたり、どの家庭の兄弟も身に覚えがあるのではないでしょうか。
- 著者
- 八木沢 里志
- 出版日
- 2015-12-03
ユカリが兄に女性を紹介したり、少年ムサシが雨の日にユカリたちがあげた傘を返しにきたり、近所のおじいさんの畑仕事を手伝うことになったり、兄妹の長所をそれぞれが見つけたり。素敵な要素がぎゅっと詰まった小説です。
「いつかすべての記憶が曖昧になってしまったとしても、幸せだと感じたこの気持ちだけは忘れないでいたい」(『きみと暮らせば』より引用)
終盤、ユカリと陽一の仲は一度引き離されそうになりますが、ユカリはそんな風に思います。幸せとは何か、家族とは何か、私たちが当たり前のことだと通り過ぎていたことを改めて考えさせてくれる、珠玉の名作です。
3位:忘れたくないことは誰かと共有しておけばいい
『思い出のとき修理します』に登場するのが、仕事を辞め、恋人も別れて新天地である寂れた商店街へと引っ越してきた主人公の明里。彼女がショーウィンドウにかかっていた「おもいでの時修理します」というプレートにちょっとした引っ掛かりを覚えたところから、この小説は始まります。
実際それは時計屋さんの看板だったのですが、明里はどうも不思議な印象を拭えません。そのお店のオーナーである秀司はのんびりとした男性で、時計を直すことでお客さんの欠けた思い出のピースを埋めてくれる人でした。
この作品は5つの短編小説で構成されています。その1つ目が、まさに猫にまつわるお話なのです。
秀司の店に入り浸っている、のらりくらりとした大学生である太一が、木箱を拾ってきたことから、明里もその謎に関わることになります。その木箱が何のために作られたのか、一体誰のものなのか。その箱を開けることで何とか手がかりを得た一同は、咲という女性に辿り着きます。
その女性はいなくなった父親と、黒猫の存在を重ねていました。黒猫をパパ、と呼んでいた幼い日の彼女は、どんな気持ちで木箱を作ったのか。そして黒猫のパパは、彼女の思い出の中でどのような役割を果たしているのか。
- 著者
- 谷 瑞恵
- 出版日
- 2012-09-20
「思い出が必要なのは、生きた人間だけだろう?」
(『思い出のとき修理します』より引用)
私たちは、生きていた証として思い出を抱いているのかもしれません。黒猫のパパは、それを教えてくれるために彼女と共に生きてきたのだと考えると、感慨深いものがあります。
他にもほんの少しの謎を含んだ短編小説が収録されています。そちらもぜひ、深く読み込んでみてはいかがでしょうか。