3位:ミステリー×恋愛。夢センセのキャラが魅力のシリーズ作品
夢宮宇多は「晴雲ラブンガク大賞」を受賞してデビューした恋愛小説家。その担当をしている井上月子は、編集長の小池に夢宮宇多のことについて問い詰められていました。発売されたばかりの週刊誌に、「夢宮宇多は偽恋愛小説家!?」という記事が掲載されたためです。実は、月子はこんなことになるんじゃないかという疑惑を、3日前から持っていました。
夢宮宇多のデビュー作「彼女」の中に登場する女性は、夢宮の同級生で埴井涙子がモデルになっていますが、その涙子の夫、埴井潔こそが、本当の作者だと主張する編集者が現れ、月子に連絡をしてきました。つまり、夢宮は埴井潔の小説を奪ったのだと言うのです。しかも潔が既に死亡していたことから殺害疑惑までかけられてしまい……。
- 著者
- 森 晶麿
- 出版日
- 2016-07-07
毒舌で何かとトラブルを呼び込む夢宮宇多こと夢センセと、担当の月子の会話はとても軽妙で、読み進めるうちにどんどんと引き込まれていきます。タイトルは『偽恋愛小説家』ですが、ストーリーには謎解きも多く仕掛けられているのです。特に誰もが知っている童話を独自に解釈していく夢センセの謎解きは、意味がわかった時、思わず唸ってしまうでしょう。
月子は夢センセのことを、「夢宮宇多はニセモノか本物か。わたし自身、彼をまったく疑っていなかったかと言えば、嘘になる」と思っていますが、担当がそう思うほど、夢センセというキャラクターは掴みどころがありません。
ミステリーと恋愛の両方がバランス良く混在した作風で、読み始めたら最後まで一気に止まらず読むことができます。
2位:謎解きに酔いしれる青春ミステリーシリーズ
「私」こと坂月蝶子は、1年浪人して戸山大学に入学した大学1年生。浪人してまで戸山大学を希望していたのは、そこにある推理研究会に入りたかったからでした。新歓コンパに参加するためにやってきた高田馬場で、蝶子は「スイ研」と書かれたプラカードを持つ神酒島先輩と出会い、すっかり「推理研究会」のコンパだと思い付いていきます。しかしそこは「酒を飲むがために飲む」サークル、酔理研究会だったのです。
- 著者
- 森 晶麿
- 出版日
- 2015-05-23
慌てて逃げようとした時には既に遅く、神酒島先輩は蝶子をつかまえると、「お前、坂月蝶子だろ」と言ってきます。なぜ彼は彼女の名前を知っていたのでしょうか。実はかつて蝶子は本名で活躍していた有名子役だったのです。
「スイ研」こと「酔理研究会」では、一度聞いたら忘れられないような掛け声と共にとにかくお酒を呑みまくります。読んでいるだけで酔っぱらってしまいそうな雰囲気ですが、主人公の蝶子は酒に酔うことができません。しかし、そんな蝶子はスイ研の神酒島先輩の謎解きにだんだんと心地良い酔いを感じるようになっていきます。
蝶子は大学に入学した直後、神酒島先輩からある言葉を言われます。
「――蝶子、人生に何を望むよ?」
「神酒島先輩はあの日、私がもっともされたくない質問をしたのだ。それも吸い込まれそうになる海の底のような目で」(『花酔いロジック 坂月蝶子の謎と酔理』より引用)
元有名子役という過去を持つ蝶子が不器用ながらも自分自身を見つけていく様子や、徐々に変わっていく神酒島先輩と関係性などが、どこかふわっとした儚い雰囲気に包まれた文章で描かれていきます。読み進めていくうちに、本当に酔っぱらってしまったような心地良い気持ちになれる青春ミステリーです。
1位:黒猫の美学に基づく推理「黒猫」シリーズ
エドガー・アラン・ポーの研究者である「私」は、「黒猫」の付き人をしています。「黒猫」はもちろん猫ではなく人間で、24歳にして教授職に就く、いわゆる天才でした。一方、私も同じ24歳ですが、博士課程1年目という至って平凡な研究者です。
そんな私はある日、母の持ってきたチラシを見て興味を持った建築美学の学者の講演会に、黒猫を誘います。講演会の内容と自分の研究につながりを見出し、自分の考えに没頭する私に、黒猫は「私が何を考えているのか」ズバズバと言い当ててきました。
全て図星だった私ですが、実はもう1つある疑問を持っていて、促されるままその疑問を黒猫にぶつけます。
「でたらめな地図を描く理由はなんだと思う?」
- 著者
- 森 晶麿
- 出版日
- 2013-09-05
黒猫と付き人である私の会話はまるで「講義」のようで、専門的な知識や、それを元にした論理的思考、そして謎解きがどんどん繰り広げられていきます。教授や学者、研究者などがたくさん登場し、彼らの発言も専門的な知識に基づいたものになりますが、決して重々しく難しく描かれてはいないので、誰が読んでも楽しむことができます。
若くして教授になった黒猫はこう言います。
「僕が行うのは美的推理であって、導き出された真相が美的なものでなければその時点で僕の関心は失われる。美的でない解釈が解釈の名に値しないように、美的でない真相もまた真相に値しない」(『黒猫の遊歩あるいは美学講義』より引用)
自分の持つ美学を大切にする彼。そのキャラクター性と語り口には、読み進めていくうちにどんどん引き込まれていくでしょう。
謎自体は、いわゆる日常の謎のような雰囲気です。しかし、どの謎にも黒猫や私を始めとした人の心理や、意外な解釈がたくさんあり、読者も一緒に講義を受けているような気持ちになります。読み終えた時にポオも手に取ってみたくなる作品です。