3位:佐藤哲也の徹底されたシュールレアリスム世界
佐藤哲也のデビュー作、『イラハイ』。日本ファンタジーノベル大賞を受賞しています。小説は「分別」と「愚かしさ」についての説明から始まります。人を煙に巻くような、堅苦しい説明に読者が困惑していると、突然、以下のような文章が現れるのです。
「舞台となるのは遥かな昔に滅んだ小さな王国であり、その名はイラハイという。」
(『イラハイ』より引用)
やっと始まった、と胸を撫で下ろして読み進めると、これが普通のファンタジーではないことに気がつきます。この小説は、異様で、シュールで、大嘘と冗談に満ちているのです。
- 著者
- 佐藤 哲也
- 出版日
架空の王国イラハイの歴史が描かれているのですが、王様も家来もでたらめな人ばかり。唯一まともそうな主人公ウーサンは、その性格の良さ故に、終始ひどい仕打ちを受けます。
転がった距離を競い合う「女房転がし」、あらゆる屋根に慎みの穴を開ける「屋根穴職人」、人を胎盤代わりにして卵を産ませる「マタグリガエル」、人の耳に巻貝を入れて死に至らしめる「邪悪なイルカ」……。可笑しな生物たちを、卓越した文章で書き表している様子は、もう作者が全力でふざけているとしか思えません。そして、珍事を当然のように受け止める住人たちも実にシュールです。
さて、ここまでの説明ですと、何と滅茶苦茶な小説なのだ、と思われたかもしれません。しかし、破天荒な内容にも関わらず、この物語はしっかりとまとめられています。ラストに差し掛かったとき、思いがけない人物の登場に、きっと、にやりと笑ってしてしまうことでしょう。
2位:男子高生が理屈をこねくり回す
ある日、主人公たちの町に落ちてきた火玉。落下の速度がゆっくりであったことから、隕石とは異なると考えた友人の平岩は、その奇妙な現象を調べ始めます。街の至るところで起こる陥没や、謎の触手の目撃情報。しかし主人公の「ぼく」が一番知りたいのは、同じクラスで後の席に座る、久保田という女の子の気持ちです。
- 著者
- 佐藤 哲也
- 出版日
- 2015-01-14
あらゆる現象に対し、理屈をこねまわす主人公。未知の生物と勇敢に戦う平岩を見ても、自分は動かず、友人のことをヒロイズムに酔っていると考えます。そして、そのような迷妄に、久保田が惑わされないかどうかが、一番の心配の種です。
「教室から久保田を救い出したことで、言わばヒロイズムを発揮した平岩は、今度は無関心を示すことで、ヒロイズムの延長を図っているのだ」
「そして迷妄の奴隷である平岩は、これが終わったらヒロイズムの成果をまとめて久保田の前に広げようとたくらんでいるのだ」
(『シンドローム』より引用)
世界が滅びるかもしれない状況よりも、片思いの相手が気になって仕方がない。この主人公の気持ちは、思春期を経験した人であれば、誰もが多少なりとも理解できる心情ではないでしょうか。高校生の爽やかでキラキラした部分ではなく、狡くて情けない隠れた部分を描いた、一風変わった青春SF小説となっています。
さらに、文章の長さを一定に揃えたり、余白を活用したりと、視覚的な部分でも工夫されており、不思議な雰囲気をより楽しむことができることも魅力の一つです。
1位:佐藤哲也が創る、人類の新居住地、クンパニアとは?
地球に暮らしていた人々はある日、次々と船に乗せられ、新しい惑星へと運ばれていきます。その土地の名はクンパニア。そこは地球と同じような生活が存在するものの、残酷さや理不尽さが、平然と受け入れられるような、どこか異常な世界でした。
- 著者
- 佐藤哲也
- 出版日
- 2009-07-09
希望や幸福を見出すことのできないクンパニアでの暮らし。人間の悲しみも、怒りも、そして死すらも、日常の出来事として淡々と綴られていきます。残酷な内容であるのにも関わらず、冷たく静かに並べられた言葉たちは美しく幻想的な雰囲気です。
本書にも佐藤哲也らしい、奇妙な生物や皮肉交じりのユーモアが、ところどころに散りばめられています。しかしシリアスな要素が強いため、他作品とは違った魅力を楽しむことができるでしょう。ファンタジーのようでありながら、現代の人間たちにも当てはめることのできるような、不思議なリアルさが感じられる本作品。最後の数ページに記された、クンパニアの過去を知ったとき、もう一度物語を読み返したくなるはずです。