日本における多くの文豪たちの中においても、中上健次ほど複雑な家庭環境で育った人物はそういないでしょう。中上は自らの環境と葛藤を、文学という形で鮮やかに表現した作家です。読んだものの魂を揺さぶる中上健次の作品ベスト5をご紹介します。

『岬』『枯木灘』では純粋で無垢な青年だった秋幸は、淫乱な父親を忌み嫌い、その血縁の呪縛に振り回されていました。しかし最終章である『地の果て 至上の時』では、その呪縛から解かれ自分の行動は自分自身の物であるというような、自立した人間へと変わっていき、物語は終息に向かっていくのです。
- 著者
- 中上 健次
- 出版日
- 2012-08-11
しかし生活は貧しく、子供の1人を病気で死なせてしまいます。そんな絶望の中、出会ったのが浜村龍造でした。フサはやがて龍造の子を宿し、そうして生まれたのが『岬』に始まる3部作の主人公の秋幸です。しかし中上健次の父と同じく、父親は他の女性も妊娠させていることがわかり、龍造に別れを告げることになります。
- 著者
- 中上 健次
- 出版日
- 2015-05-25
秋幸3部作の中でそれぞれの秋幸像が描かれており、それぞれの作品においてその時期の秋幸物語が完結しています。それぞれの作品の中で主人公・秋幸や実父を表す言葉も、巧みに変えられているのです。
- 著者
- 中上 健次
- 出版日
決して日常的ではない事件を淡々と記録動画の再生のように綴る一方で、その事件を秋幸が自分の中で反芻するときは強い感情を持って表現されているのが印象的でした。続編の『枯木灘』『地の果て 至上の時』も素晴らしい作品ですが、やはり短い中に感情をぎゅっと詰め込んだ濃密さは、『岬』が一番ではないでしょうか。
- 著者
- 中上 健次
- 出版日
それでも最終章で中上健次が描きたかったものは伝わってきました。中本という血、その血を運命的なものを感じながら男たちの出生と死を見つめてきたオリュウノオバ。単純な言葉では語りきれない、血、性、生、死にかかわるテーマを独特な形で表現している中上健次の作品です。
- 著者
- 中上 健次
- 出版日
中上健次の作品は語り手や視点が物語の途中でいつのまにか変わっていることがあるので、より複雑で難解な印象が持たれてしまうのですが、そこをじっくり紐解きながら読むのが面白いともいえます。自分が物語の中の登場人物の心を行ったり来たりしているような気持になる一方で、離れたところですべてを俯瞰しているような気持にもなるのです。複雑な環境で育った作者が自己のアイデンティティを模索し続けた結果編み出された表現方法なのかもしれません。ただ読み終えたあとは、自分の中の何かが掘り起こされ、かき回されたような、混沌とした疲労感が残りますので、じっくりゆっくり、複雑な人間関係を描いた作品に挑戦したいという方におすすめです。