3位:ありふれた日常のかけらを切り取った作品『かけら』
この短編集で、青山七恵は川端康成文学賞を史上最年少受賞(受賞当時26歳)しています。表題作「かけら」と「欅の部屋」、「山猫」の3作を収録。
表題作「かけら」は、さくらんぼ狩りに2人で行くことになった父娘の話。今までは「ただの父親」として父親を見ていた主人公の娘は、2人きりの旅行を通じて父親に対する考え方、見方を改めていくお話です。「欅の部屋」は元カノのことを思い出すことで結婚への気持ちを整理する男の話。「山猫」は新婚夫婦の家に従姉の高校生が泊りに来てしまうお話。
- 著者
- 青山 七恵
- 出版日
- 2012-06-27
3作とも、登場人物たちは居心地の悪さ、些細な不安を抱えて作中に登場します。しかしそんな状態でも、日常は無常に過ぎ去っていってしまうよね、というのが青山七恵の各作品から伝わってきます。
そしてこの短編集の登場人物たちは、当たり前ですが相手のことを完璧に理解できてはいません。しかしその自分が理解しているひとかけらの情報で、相手のことを理解した気になっています。それが、あるターニングポイントで見方が変わっていく。そんな青山七恵の作品です。
現実でも、他人の100パーセントを理解出来ることなんて有り得ないと思うのですが、だからこそ人間関係は複雑怪奇で面白いのだと思い返させてくれます。
2位:人同士の関わり合いに正解はあるのか『すみれ』
小説家を夢見ている15歳の主人公、藍子の家に、昔作家を目指していた37歳のレミちゃんが居候した1年を描いた青山七恵の作品。居候をするレミちゃんは藍子が自分の両親をパパママと呼ぶのは変だから止めてと頼んだ時に
「わたしをぎゅっと抱きしめて、ちょっと泣いて、だったらなんて呼んだらいいの、あんたのパパとママを、あたしが呼べるような名前を、あの人たちはもうくれないんだもん」(『すみれ』より引用)
と言ってしまう様な「ちょっと変な人」。
レミちゃんは、主人公である藍子の家に転がり込んできてしまうくらいですから、非常に悲しい人なのですが、藍子の視点で物語が進むことによって、非常にフラットに読み進めることが出来ます。
- 著者
- 青山 七恵
- 出版日
- 2015-03-10
終盤、大人になった藍子は
「わたしね、いちばん大事な言葉に何枚もいらない飾りの言葉をかぶせて、包んで、本にして、知らないだれかに投げつけてるの。そのうちたった一人でもいい、だれか一人が最後の大事なひと言にたどりついて、それを何かの助けにしてくれたなら、今まで自分が手を放してしまっただれかが、別のだれかにきっと救われるんだって、ほとんど祈るみたいに、無理やり信じて、書いてるの。」(『すみれ』より引用)
と語ります。
恐らくこれは青山七恵本人の祈りなのでしょう。だからこそ彼女は、人と人との関係を無常な日常の中に描き、またその関係で日常に好転をもたらすようなことはしないのでしょう。絵空事ではなくリアルを描く青山七恵の「いちばん大事な言葉」はきっと、沢山の人々にたどり着くことのできるけれど、ただ見過ごされやすいものだと思います。
1位:何があっても淡々と進んでしまう日常『ひとり日和』
2007年に芥川賞を受賞した、青山七恵の出世作であり代表作と言えるでしょう。母親の出張を機に、東京で親戚のおばあさんと2人暮らしをすることになった20歳のフリーター、知寿の1年間を描いた作品です。
主人公である知寿は特にやりたいこともなく、でも勉強はしたくないから、とフリーターをしている女の子です。そんな知寿が、ただおばあさんと同じ家で暮らし、その間に恋をしてバイトをして、最後はその家を去っていく。1人の若者が、少しだけ大人になっていく。
- 著者
- 青山 七恵
- 出版日
- 2010-03-05
はじめは何もうまくいかず、虚無感に苛まれていた知寿が、おばあさんと暮らしていくなかで、少しずつですが大人になっていく青山七恵の作品です。ただ、勘違いしてはいけないのが、おばあさんはあくまでも同居人でしかなく、知寿を導くようなことはしないのです。
ただ、就職が決まり、世の中に出てやっていけるか不安がっている知寿に対しておばあさんが言った
「世界に外も中もないのよ。この世はひとつしかないでしょ」(『ひとり日和』より引用)
という言葉は、ごちゃごちゃした悩みや不安をいとも簡単に吹き飛ばしてくれる一言で、是非いろいろと悩んでいる若い人たちに知ってもらいたい名シーンです。