ミステリーの裏側に歴史書の謎を解く作家、ウンベルト・エーコ
ウンベルト・エーコは難解なプロットと学術的見解を絡めて小説に幻想的な世界観を与えるイタリアのミステリー作家です。中世を舞台にする作品を多く書きあげており、現存する書物からの引用や言及が多く散りばめられています。そのためどの作品の引用がなされているかを探りながら作中のミステリーの謎解きをするのも一興です。
ウンベルト・エーコは1932年にイタリアで生まれました。子供の頃からカトリックの一派であるサレジオ会で教育を受けたため、作品でも聖書や宗教に関する言及が多くみられます。トリノ大学時代では中世の哲学と文学を学んでおり、エーコの中世を舞台にしたミステリーというスタイルの基盤となりました。
また、記号学者としての肩書を活かして、古文書や歴史書などを解読していくような謎解きスタイルも多く取り入れています。『ダ・ヴィンチ・コード』などで有名になったダン・ブラウンですが、ウンベルト・エーコの方が数十年も前にこのスタイルを先取りしているのです。
論争巻き起こる修道院に隠された真実
- 著者
- ウンベルト エーコ
- 出版日
ウンベルト・エーコが1980年に発表した処女作『薔薇の名前』は1327年の修道院を舞台にし、宗教を背景に展開されるミステリーです。発表されるとたちどころにヒットとなり、エーコの名を世に知らしめました。1986年にはショーン・コネリー主演で映画化もされています。
「貧しく生きることが清き生き方」だとするヨハネス22世の主張が論争を巻き起こしている頃、その論争に決着をつけるため、ウィリアム修道士とその助手のアドソはベネディクト会修道院に召喚されました。するとふたりが到着した日から修道院たちが次々と謎の死を遂げていきます。
修道院の文書館に秘密があると睨んだふたりはその文書館を探ろうとしますが、何者かの妨害が待っていました。異端者が犯人と決めつけた修道院による異端審問の要求に惑わされながらも、ウィリアムとアドソは真実を手に入れるため、捜査を続けるのでした。
ストーリーの基盤は7日間に渡る事件の真相を探るというシンプルなものです。ウィリアムを師として助手のアドソのふたりで事件解決の糸口を探す様子は、シャーロック・ホームズとワトソンを彷彿させます。王道の探偵と助手という構図によって楽しく読める作品です。
プロットはシンプルながらも聖書や教会に関する言及や考察がいくつも出てきます。小難しい話もありますが、教皇ヨハネス22世が統治する時代の様子なども書きうつされているので、神学や歴史好きの人なら是非とも一読したい小説です。
歴史を震撼させた偽書誕生の裏側をウンベルト・エーコが描く
- 著者
- ウンベルト・エーコ
- 出版日
- 2016-02-22
『プラハの墓地』はナチスがヨーロッパの支配地を広げようとしていた時代のホロコーストの原因となった文書がテーマです。現代でも問題になっている差別の構造を映しだしています。
舞台は1897年パリ。主人公のシモーネ・シモニーニはカトリック仕込みの教養とユダヤ嫌いの父親によって育てられ、反ユダヤ感情を持って育ちました。そんなシモニーニが生業としていたのは遺言などを偽造文書として作成する裏の仕事。
そしてその才能を評価したフランス政府から工作の仕事を依頼として受けるようになり、やがてシモニーニは「シオン賢者の議定書」と「ドレフェス事件」という偽造文書の作成仕事に取りかかることになるのでした。
本書はユダヤを陥れるために作成されたふたつの偽書がテーマです。「シオン賢者の議定書」はユダヤの秘密裏に世界征服を目論む計画が、「ドレフェス事件」はフランス軍に潜り込んだスパイとして捕まったユダヤ人のドレフェスを有罪に陥れるためにでっち上げられた有罪証拠が書かれています。
本書の主人公、シモーネ・シモニーニ以外は実在の人物であり、彼らに関する記述はすべて実際の歴史通りなので、物語を楽しみながら歴史を学べるのが本作の魅力です。また本書にはグルメに関する描写が多く登場し、著者ウンベルト・エーコの美食家としての知識も楽しむことができますのでそちらのシーンもお見逃しなく。