孤独を選ばざるを得なかった男の悲しみ『春の嵐―ゲルトルート』
詩のように美しい文体で知られるヘルマン・ヘッセですが、1910年に発表された本作はその文体で、ある男の孤独を表現しています。本作は悲しみと美しさが織り交ざった至極の文学です。
主人公のクーンは青春時代の事故の影響で、下半身不全になってしまいます。その日を境に人との交流を断ち、クーンは音楽だけに没頭するように。そうやって魂を決めた彼の歌は、ある有名オペラ歌手のムオトの目に留まります。
- 著者
- ヘッセ
- 出版日
- 1950-12-06
静かに友情を育むふたりですが、彼らの目の前にゲルトルートという女性が現れたことですべてが崩れることになります。ゲルトルートはに友人のムオトを奪われたクーンは、ただただふたりの関係を見守るだけに徹するのでした。
本作は主人公クーンの孤独が内面的に書かれています。事故から自由を奪われ、裏切りによって友人を女に盗られてしまうなど、運命はことごとくクーンを孤独にしようとします。クーンもその孤独を受け入れ、なかば諦め気味で自ら孤独の中にいようとするのです。そんな物静かで寂しいクーンの精神が詩的な文章で歌のように紡がれる美しい文学作品となっています。
ヘルマン・ヘッセの代表作『少年の日の思い出』
自らの罪のせいで辛い思い出を持つ少年の日をテーマにしています。中学生の教科書に載っていることが多く、人々の思い出に眠っている作品です。
主人公の僕は蝶々の蒐集に没頭していました。鼻持ちならない先生の息子エーミールも同じ趣味を持っており、破損した翅をゼラチンで復元するなど高い標本技術の持ち主です。
- 著者
- ヘルマン ヘッセ
- 出版日
- 2016-02-02
ある日、僕はコムラサキという珍しい蝶を手に入れたため、エーミールに自慢します。エーミールはコムラサキが珍しいことは認めたものの僕の標本技術の欠点を並べ立てて僕を非難しました。そこで僕はもうエーミールには自分の標本を見せないと誓うのでした。
しばらくしてエーミールが珍しいクジャクヤママユを手に入れたという噂を僕は聞きます。ずっと欲しいと思っていた蝶を見たいと思い、僕はエーミールの部屋を尋ねました。
エーミールが留守だと知ると、僕は蝶を盗み、ポケットに入れて持ち去ります。しかし途中で罪悪感を覚えて蝶を返しにいきますが、翅が破損していることに気がつきます。正直に謝った僕でしたが、エーミールは、君はそういうやつだったんだな、と静かな軽蔑をたたえるだけでした。
本書には少年時代に誰でも抱いたであろう「僕」の気持ちがひしひしと伝わってくる作品です。友達に対する嫉妬や、罪悪感、軽蔑などは子供の頃だけでなく、大人になっても誰しもが経験するもの。ヘッセの物悲しくもシンプルな文体で、怖くも切ないと思ってしまう作品です。
ヘルマン・ヘッセが描く仏教世界『シッダールタ』
精神的苦痛を経験したことにより、内面世界に着目するようになったヘルマン・ヘッセ。『シッダールタ』は釈迦の半生を参考にしながら仏教的内面世界を表現した作品です。1922年に発表された原作は半世紀後の1972年に映画化されています。
- 著者
- ヘッセ
- 出版日
- 1959-05-04
のちに釈迦として知られることになるシッダールタは親から友人から、なに不自由ない愛を受けて育ちました。しかし裕福さでは本当の幸福を得られないと悟ったシッダールタは沙門の道で修行の日々を送ることを決意します。
そこで仏陀に師事しますが、自我を捨てるにはひたすらに欲にまみえる必要があると考えるようになりました。そこでシッダールタは衆生のなかで商売にギャンブルに愛に、ありったけの欲をぶつけるのです。
本書は仏教的観点でシッダールタの精神世界の成長を描いた作品。欲を捨てようとしたシッダールタが、自ら欲にまみれた世俗へと投じる様子が興味深いものとなっています。遊女カマーラとの出会いなど、美しい文体で書かれているのも魅力的です。