塩田武士の笑えて泣ける感動作
存続の危ぶまれる弱小オーケストラが、1人の女性との出会いをきっかけに再生していく『女神のタクト』。コミカルでスピーディな展開がとても読みやすい、塩田武士の魅力的な1冊です。
主人公・矢吹明菜は、30歳にして失業と失恋を同時に体験。傷心のまま旅に出ると、旅先で偶然出会った白石という老人と意気投合し、ある人物を神戸のオーケストラへ連れてきてほしいと頼まれます。その人物とは一宮拓斗。かつて世界的な指揮者として活躍し人気を博していましたが、突然音楽の世界から身を引き、若くして隠居生活を送っていました。
明菜は嫌がる拓斗を恫喝し、ハイヒールで叩きながら半ば拉致するように、どうにか連れ出します。内気な拓斗は、おどおどと流され「オルケストラ神戸」の音楽監督となり、明菜も定期演奏会へ向けて、オーケストラの手伝いをすることになったのです。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2011-10-27
物語には個性豊かな登場人物たちが揃い、軽快でテンポの良い関西弁での会話が魅力。パワフルな明菜と内気な拓斗だけでなく、それぞれの人生に劇的なドラマがあり、どの登場人物も皆魅力溢れるキャラクターに仕上がっています。勢いのあるストーリーを、感情移入しながら楽しむことができるでしょう。
オーケストラの裏事情なども知ることができ、なんと厳しい世界かと驚かされます。演奏シーンでは、情景が浮かび上がり、まるで音楽が聞こえてきそうなほど鮮やかに綴られ、感動の一言。笑いに満ちた中にも、ホロリと泣ける素敵な作品です。
将棋に人生をかける男の熱い物語
小説現代長編新人賞を受賞した、塩田武士のデビュー作『盤上のアルファ』。プロ棋士を目指す男と、新聞社の将棋担当記者との交流を描いた本作は、将棋ペンクラブ大賞にも輝き、刊行前からたいへん注目を浴びていました。
神戸の新聞社に勤める秋葉隼介は、新聞記者の花形である県警担当記者から、文化部の将棋担当記者へと左遷されてしまいます。将棋の知識などまるでない秋葉は、初めての取材に四苦八苦。失意の中、美人女将のいる行きつけの小料理屋を訪れます。
そこで出会ったのが、坊主頭にタンクトップ姿の真田信繁。アマチュア棋士の真田は、33歳という年齢もあり、一旦はプロになる道をあきらめますが、他に道はなく、再度プロ棋士を目指し奨励会の編入試験を受けようとしていました。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-02-14
家賃滞納で部屋を追い出された真田が、秋葉の部屋へと転がり込み、奇妙な同居生活をすることになる様子が、コミカルに描かれていきます。個性の強いふたりの男が繰り出す、関西弁の小気味良い会話は絶妙に面白く、そこに小料理屋の美人女将も加わり、不思議な三角関係が築かれていくストーリーがとても魅力的です。
明かされる真田の過去に、涙腺の緩む場面もあり、将棋シーンでは手に汗握るドラマが待っています。将棋のルールを知らない方でも、充分楽しめる本作。男が挑む、人生をかけた大勝負に、酔いしれてみてはいかがでしょうか。
一途な想いに心打たれる塩田武士の純愛ミステリー
京都の美しい街並みを舞台に、男女の切ない純愛を描く『雪の香り』。塩田武士が、「書き終えたくないと思った」と語るほど没頭して執筆されたこの作品は、ミステリー要素をふんだんに織り交ぜた、著者初のラブストーリーとなっています。
主人公は、新聞記者として働く風間恭平。知人の刑事から提供された、ある事件に関する捜査情報の中に、北瀬雪乃の名前を見つけ驚愕します。恭平がまだ大学生だった頃、ふたりは偶然出会い、ひょんなことから同居生活を送ることになりました。次第に恋に落ち、楽しい毎日を過ごしていたのですが、ある日突然、雪乃は姿を消してしまったのです。
あれから12年。雪乃は再び恭平の前に姿を現し、一緒に暮らすようになっていました。雪乃は何者なのか、なぜ突然失踪したのか。恭平は、密かに調査を始めます。
- 著者
- 塩田 武士
- 出版日
- 2014-06-09
鮮明に描かれる四季折々の京都の風景がとても印象的な本作。街の様子や、そこに住む人々の姿も丁寧に描かれ、つい京都へ足を運びたくなってしまいます。そしてやはりこの作品でも、登場人物たちの関西弁での会話がとても心地よく、恭平と雪乃のやりとりは、微笑ましくて頬が緩んでしまうでしょう。
雪のようにはかなく美しい容姿に、破天荒な性格を併せ持った雪乃のキャラクターもとても魅力的で、2人の過去と現在を行き来するストーリー展開にどんどん引き込まれてしまいます。変わらぬまっすぐな想いに心を打たれる、塩田武士の純愛ミステリー。切なさと暖かさに溢れた作品です。