不条理を提起する
『鼓笛隊の襲来』は9編の短編小説です。他にも短編集を執筆している作家ですが、今回の短編集全体に言えることはややシュールなものが多いということです。イメージとして「世にも奇妙な物語」をイメージしていただけるとわかり易いかと思います。標題作『鼓笛隊の襲来』に関しては不気味なリアリティと、それと相反して登場人物義母による作中に満たされる安心感が素晴らしいバランスで作品をまとめています。
- 著者
- 三崎 亜記
- 出版日
- 2011-02-18
「あっはっは。鼓笛隊よりあたしの襲来の方が大変だなんて思ってるんじゃないのかい?義母は相変わらずの調子で、豪快に笑った。」『鼓笛隊の襲来』より抜粋
作中の義母の登場シーンですがこの一文からも頼れる登場人物像がはっきり伝わります。
例えばこの作品はグリム童話にあるハーメルンの笛吹き男に強く影響されているのではないでしょうか。この笛吹男と鼓笛隊の類似性として、どちらも楽器を使用して聴いた相手を連れ去ってしまうことにあります。この部分だけを聞くと非常に恐ろしい物語に聞こえます。事実作中全体において恐ろしい雰囲気は常にありますし、類似性のある笛吹男に至っては100人以上の子供を連れ去ってしまうなどそこに「救い」がありません。
それに対して『鼓笛隊の襲来』はカウンター役としてこの義母をうまく活かしたことで、作中の恐怖感を薄め、読みやすくマイルドなものになっています。同時に鼓笛隊を打倒するために人類側が準備する「オーケストラ」の存在や、「鼓笛隊」を台風などの天災のように感じている作中の様子など、非常にオリジナリティのある読み応え抜群の作品です。
短編小説の為9編纏めた全体を見た時に、1遍の短さに対する評価はやや分かれるものの、そのテイストはショートショートの大家「星新一」をも訪仏とさせるニュアンスを持ち、読者にとって非常に印象深い一冊、オンリーワンに成り得る作品なのではないでしょうか。
創作物のリアルを表現した三崎亜記作品
- 著者
- 三崎 亜記
- 出版日
- 2006-12-20
「【となり町との戦争のお知らせ】
開戦日 九月一日
終戦日 三月三十一日(予定)
開催地 町内各所
内容 拠点防衛夜間攻撃
敵地偵察白兵戦」(『となり町戦争』より引用)
上記は『となり町戦争』の設定を作中から引用したものです。改めて引用文を読んでみると、その練りこまれた設定が読者の興味を非常に引き寄せていることに気付きます。となり町との戦争という非現実を、不自然な説明を省きつつリアルに展開させた三崎亜記の意欲作になっています。
となり町との戦争という表現で進められる公共事業、偵察業務を任命される主人公北原修路の葛藤と苦悩、香西瑞希への想い。
この作品の最も重要な要素として「戦争」があります。作品名からはどことなくユーモアも感じることができますが、そのテーマ性ははっきりしていて重厚です。戦争という人類永遠のテーマを「町」という身近な規模に縮小することで読者に親近感を与えます。そして作者の戦争に対する思いを登場人物達に代弁させ、大きな疑問を読者に投げかけてくるのです。
読了後に考えさせられる作品ではありますが、決して文学に偏重している作品ではありません。事実エンターテイメント性は十分で、映画化を始め、数多くのメディアミックスを果たしています。作品の総論をするならば「余り構え」に読めて、しかも「心に響く作品」に仕上がっています。
掃除にかけた青春!三崎亜記のSF世界
『コロヨシ!!』シリーズはスポーツのテイストで読ませる学園物の作品です。学園物と聞くとありきたりなイメージを持ちがちですが、そこはやはり「SF」。「少し変わった」と評される三崎亜記です。作中でそのスポーツとはずばり「掃除」。その掃除を高校生が部活動で行うという一風変わった世界観の作品です。
- 著者
- 三崎 亜記
- 出版日
- 2011-12-22
三崎亜記の作品の中では最もキャラクターに比重を置いている作品です。類まれな掃除の才能を誇る主人公の藤代樹を始め、樹と身近な小塚姉妹、謎に包まれた美少女の偲など個性的な登場人物が数多く登場します。キャラクターを軸に読み込んでいくライトな読者層も意識していて、青春ストーリーの一面が強く押し出されたもの。その青春の甘酸っぱさに思わずニヤッとしてしまう読者は多いのではないでしょうか。
細密な世界観の設定は三崎亜記の十八番です。その掃除には当然のようにルールが存在し、例としてその掃除の形式には散華の舞、還立の舞、など様々な設定が存在します。今でいう剣道や弓道等の武道に通じる部活動のテイストを感じるものです。
「頃よしっ!」の掛け声とともにその競技、掃除は開始され……。才能を持ちながら自ら目的を定めることができない藤代樹が、偲との出会いを経て転機が訪れるのか……。
三崎亜記は他作品においてもその作中に何かしらの違和感を植えこんでいます。例えばその違和感は「襲来する鼓笛隊」であったり、「周期的に消滅してしまう町」であったりと、その意図も訴えかけてくる内容もバラバラです。しかしそのどれもが読者を作品に引き込む為に用意された魅力的な設定ばかりです。
本作に関してその違和感は掃除という要素を代表としてどこか柔らかい印象です。作中において登場人物たちは真剣に競技に励んでいますし、そこ自体が不真面目ということはありません。しかしその柔らかい印象こそが『コロヨシ!!』にライトな印象を与えていて、今までになかった若い読者層の獲得に繋がっているのではないでしょうか。三崎亜記の不思議世界に青春ストーリーを加えた新たなエンターテイメント作品、新規読者には最もお勧めできる作品です。