5位:リアルな女の子の事情『荒野』
主人公の山野内荒野は恋に奔放な恋愛小説家、山野内正慶(やまのうちしょうけい)の娘です。古い文豪気質な父の周りにいる大人達からは、日本人形のようだと言われます。
荒野は中学入学式の日に、小学生から少し大人になった気分で電車に飛び乗ります。ところが慌てて乗車したことが災いして、翻ったセーラー服の襟がドアに挟まってしまいました。見かねた一人の少年が荒野を助けます。駅へ着くなり少年は去り、お礼を言う暇もありませんでした。彼は荒野と同じ中学一年生で、荒野と同じ名前の古本を持っていました。
中学の教室に着いた荒野は、少年と運命的に再会を果たします。少年の名前は神無月悠也。彼と荒野の二人はクラス委員に指名されました。悠也は彼女の名前を知るなり、なぜか冷たい態度を取り始めます。
- 著者
- 桜庭 一樹
- 出版日
- 2008-05-28
まだ恋を知らない山野内荒野、12歳。荒野は非常に無垢な女の子です。外見は「日本人形のような」と描写されますが、その内面もやはり古き良き大和撫子といった様子です。複数の愛人と関係を持つ父親とは正反対。純粋な彼女は、電車での出来事から悠也に初めて異性を意識し、彼に惹かれていきます。
お相手となる悠也も、ちょっと見かけない神秘的な少年です。五木寛之『青年は荒野をめざす』を愛読し、どこか遠くへ焦点を合わせた大人びた性格をしています。とある理由から、荒野に最初に見せた気配りをよそに、冷淡に接します。
このラノベ作品の見所は、無知な子供から多感な少女へ、そして少女から大人の女へと、少しずつ成長していく荒野の描写。純真な彼女は可憐なつぼみさながら。荒野は大人との関係、同級生との交流で、ゆっくりと着実に変化します。その変化の繊細な描かれ方は、彼女がどのように花開くのか見守りたいと思わせるものがあります。
荒野は変わっていく心と体に戸惑います。やがて荒野も、自身が嫌悪した大人へと否応なく順応していくことになります。それでも変わることないものを、彼女は持ち続けます。
4位:その二人の距離が許されるは逃避行の間だけ『とある飛空士への追憶』
物語の半年前、神聖レヴァーム皇国と帝政天ツ上の間で二国間戦争が勃発します。主人公狩乃シャルルはレヴァーム領サン・マルティリアで戦うエースパイロットです。シャルルはその腕を見込まれてある密命を受けました。
「次期皇妃を水上偵察機の後席に乗せ、中央海を単機敵中翔破せよ」(『とある飛空士への追憶』より引用)
この任務には越えるべき難関があります。1つめは敵制空圏内を潜り抜けること、2つめはサン・マルティリアから本国の間にある中央海の12000kmもの距離。そして最大の難関、中央海を分断する大瀑布に沿って展開する天ツ上の哨戒網を突破することです。
レヴァーム皇子の婚約者、次期皇妃ファナ・デル・モラルは誰もが羨む絶世の美女です。厳格な階級社会である皇国では本来、一介の傭兵が口を利ける相手ではありません。シャルルは特別な想いを胸に秘めて飛ぶ決意をします。
- 著者
- 犬村 小六
- 出版日
- 2008-02-20
シャルルはレヴァームの父と天ツ上の母を持つ混血児として、不遇な半生を過ごしました。彼が努力して飛空士になったのは、幼い頃のファナとの思い出があったからでした。自身の原動力かつ憧憬の人との再会。当然積年の想いが彼を揺さぶりますが、生来の生真面目さでそれを抑えます。真面目はシャルルの良さであるだけに、見ていてもどかしいです。
次期皇妃となる運命のファナ。彼女は権力者に贈られるモノとして育てられました。そのため心を閉ざしています。皮肉にも逃避行中は束縛から放たれ、ファナには徐々に感情が戻っていきます。そして交流の中でシャルルに接し、彼に惹かれます。自分を縛る立場と、全てを捨てて想いを遂げるという激情の板挟み。簡単には行かない切なさがあります。
未来の妃と下層民上がりの傭兵。世界で最も自由な空で、世界で最も不自由な関係の二人。しかし彼らには誰も知らない絆があります。航路一週間弱の長く短い逢瀬の間、二人の関係はどう変化するのでしょうか。そして困難な任務の行方は。果たして二人は無事に大瀑布を越えることが出来るのでしょうか。
3位:いつまでもどこまでも二人は一緒に行く『アリソン』
ヴィルヘルム(通称・ヴィル)が上級学校で本を読んでいると、そこに珍客が訪れます。突然現れた複葉機が曲芸飛行を見せ、学校の競技場へ着陸しました。機体から降りた少女は「久しぶり」とヴィルに声をかけます。幼少の頃をヴィルと共に育ったアリソン空軍伍長です。
質問攻めから逃れて学校を出た二人は、途中で奇妙な老人と出くわしました。一帯で有名なほら吹きの老人です。二人と意気投合した彼はある秘密を打ち明けました。自分は元陸軍兵士で、ロクシェとスー・ベー・イルの戦争を終わらせる宝のありかを知っている、と。
この世界は一つの大陸の東西を、中央山脈とルトニ河という大河で分断されています。彼らの住む大陸東側をロクシアーヌク連邦(通称ロクシェ)が、西側をベゼル・イルトア王国連合(通称スー・ベー・イル)が支配していて、両陣営は長年相争ってきました。
半信半疑の二人でしたが、そんな彼らの前から老人が誘拐されてしまいます。にわかに宝の存在が現実味を帯び始め、アリソンとヴィルは老人を奪い返すために飛び出します。
- 著者
- 時雨沢 恵一
- 出版日
アリソンは弱冠17歳で飛行機乗りになるほどの行動家。金髪碧眼の美少女ですが、学校へ複葉機で乗り付けることからおてんば加減が窺えます。一方ヴィルは、制度さえ整っていれば飛び級もおかしくない、と言われる秀才です。明晰な頭脳と射撃の腕前を持ち、窮地で活躍します。
アリソンの行動は一見はちゃめちゃです。しかし、ヴィルもただ振り回されているだけでなく、しっかり順応しています。タイプの違う凸凹コンビですが、アリソンはヴィルを優先し、ヴィルはアリソンを優先に考えています。手法は異なっても、お互いを思いやっているので結果的に上手く。凸凹というよりは、割れ鍋に綴じ蓋といった具合です。
アリソンは密かにヴィルに好意を寄せていますが、長年の付き合いからいまいち一歩踏み込めないでいます。この冒険の間に二人の関係は発展するのでしょうか。
最初は与太話と思われていた宝が、物語が進むにつれ思わぬ方向に展開していきます。戦争を終わらせる宝とは何か? 二人の冒険が辿り着く先とは?