三浦綾子は北海道旭川市生まれの作家です。結核闘病中の1952年に洗礼を受け、敬虔なクリスチャンとして創作活動に専念しました。人間が生きる事の意味を信仰に基づく視点で描きながらも、女性ならではの柔らかさで私達に問いかける作品が数多くあります。

ガラシャには神の恵みという意味があります。細川ガラシャは、細川忠興の妻、玉子の洗礼名です。誰もが息を吞むほどの美しさを持った玉子。そんな玉子が目に見えないものに真実を見出し、救いを求めたのがキリスト教でした。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
- 1986-03-27
このストーリーの軸となっているのは、玉子の父明智光秀や玉子の嫁ぎ先の細川家の男たちが、君主信長の気まぐれに振り回されながらも、各国の武将たちと手を組んだり敵対したりして何とか「家」を守り抜こうとして生きていく姿です。この時代は、「家」を守ることが最大の使命でした。時には人の命さえも「家」の重みには叶わない時代だったのです。そんな時代であっても、何とか義理や道理を貫こうと男たちはもがき、苦しみます。
そしてもう一つの軸になるのが、玉子や玉子をめぐる登場人物たちの心の描写です。政治の犠牲になって殺されていく武将の妻や子供たちに心を痛める玉子がキリスト教に救いを求めていく心の様子。幼いころから玉子を思い続けてきた光秀の家臣の初之助の強い想い。兄嫁の玉子を想い続けた忠興の弟興元の切ない気持ちや決意。彼らの心の様子が生き生きとした会話や描写で綴られていきます。
この二つの軸が絡み合うことによって、このストーリーは深みが増していくのです。玉子が命を落とすシーンでは、「家」のために死を選ばなくてはならない玉子の静かな決意や侍女たちの悲しみ、家臣たちの無念な思いなどいろんな感情が行間から溢れてくるようです。
愛と信仰を貫いた細川ガラシャの生涯、ぜひご覧ください。
「じっちゃーん! 山津波だあ-っ! 早く山さ逃げれ-っ!」
(『泥流地帯』より引用)
1926(大正15)年5月24日、十勝岳が噴火を起こし、残雪を溶かし25分あまりで山麓の富良野原野まで泥流が到達し、多くの犠牲者を出す大災害となりました。
ところは北海道。物語は山麓に住む開拓農民たちの貧しくも力強く生きる姿を軸に描かれています。
兄、石村拓一、弟、耕作は幼い時に父を亡くし、母も遠方に出稼ぎ、祖父母や姉妹とともに貧しいながら懸命に生きています。
貧困は時に人間を卑屈にしますが、二人の人としての価値観は揺らぎません。
それは祖父市三郎の教えによるところが大きいのです。かれらは幼い時から市三郎を父親代わりとして育ってきました。祖父は常に、人間としてどう生きるかを幼い兄弟に語ってきたのです。
「いいか、人間を金のあるなしで見分けるな、情のあるなしで見分けれ」
(『泥流地帯』より引用)
「じちゃん言ってたけどなぁ、人間にはいろいろな人種がいるけど、結局は二通りしかいないんだとよ。親切な人間と、不親切な人間、人に何かしてやりたい人間と、何かしてもらいたい人間―。」
(『泥流地帯』より引用)
市三郎の言葉は三浦綾子の思いと重なり読者に語りかけます。単純で明快な価値観……。現代の雑多な日々のなかで、埋もれてしまいがちな人間性が揺り起こされ蘇えるようです。爽やかな洗われるような感覚に、おもわず目頭が熱くなります。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
変わらぬはずだった生活の中で突然起こる十勝岳の噴火。泥流はあっという間に山あいを埋め尽くします。家が、家畜が流され、人が浮き沈むのです。
「人間の一番の勉強は困難を乗り越えることだ」
(『泥流地帯』より引用)
物語の中で、彼らが幼いころ視学(戦前の地方教育行政官)が言っていた言葉が思い起こされます。はたして彼等はこの大きな試練をどのように乗り越えて行くのでしょうかー。
日々の出来事の中の困難、人間関係を、正常に変えていく価値観を明快な語りで綴っています。
乗組員14人のうち、生き残ったのは、心優しく誠実な音吉、明るく快活な久吉、頼りがいのある海の男岩松。1年以上の漂流の後、現在のアメリカ西海岸に漂着し、そこからの道のりがまた途方もなく長いのです。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
- 2012-08-25
読んだらすぐに伝わるセキの素朴さ。その心の素直さがとても魅力的でじっくり耳を傾けようと、いや、読み進めようという気持ちになります。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
しかし、三浦綾子作品にはどんな状況下でも救いになるような、きれいな心持ちの登場人物が多数出てきます。『銃口』では竜太の父親、妻で幼馴染の芳子、命を助けてくれた金俊明など。戦争が常に背景にあった昭和をテーマにしたからこそ浮彫になる、人間らしく生きるということ。それは今に続く永遠のテーマとして生き続けています。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
- 2009-08-25
なんておそろしい設定なのでしょう。純粋無垢な陽子が健気に夏枝のいじめを乗り越えようとすればするほどなんとも言えない気持ちになるものです。嫉妬、迷い、思い込み、臆病さ。誰の心にも大なり小なりある、弱さ。それぞれの自己中心的な言動が、少しずつ、そして確実に素直でまっさらな陽子を追い詰めていきます。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
- 2012-06-22
こういう信仰を描いた作品は小難しいイメージがありますが、『塩狩峠』は読み終えるまであくまで一人の人間が日常の中で気づき、戸惑い、幸せを感じ、思案する姿が時にみずみずしく感じられるほどです。
- 著者
- 三浦 綾子
- 出版日
- 1973-05-29
三浦綾子の作品はどれもその根底に人への優しい眼差しがあります。それは悩める自分をも包み込んでくれるような母のような愛です。だからこそ幅広い読者に訴えかけるものがあるのでしょう。いろいろな作品の中から、今を生きる自分なりの芯が見つけられるかもしれません。