柔らかで心に沁みる文章を書き、「花に眩む」で2010年「女による女のためのR-18文学賞・読者賞」を受賞した彩瀬まる。女の人にはもちろん、男の人にもぜひ読んでほしいおすすめ作品を紹介します。

28歳のドラッグストアの店長の梨枝は、母親と2人暮らし。バイトの大学生8つ年下の三葉くんを好きになって、梨枝と母親、雪ちゃん、兄、バァファリン女と、とりまく人々との日々が綴られています。
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
携帯で写真を撮ることが、妻との関係をつないでいた津村成久。妻が「これいいね」と一言返してくれるだけで、改めてその風景が「いい」ものとして自分の手に戻ってくるという。妻を亡くしたという過去に囚われ、ぽっかり空いた心の穴。
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
- 2013-11-27
美しいタイトルの5作品が心にふれる連作短編集。一階にはドラッグストア、二階にカフェなどのテナントが入っている雑居ビルに通う人々の物語です。
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
- 2014-02-19
桜の花が咲き始める4月に、東北新幹線に乗った5人。それぞれの彼らの「ふるさと」にまつわる5話の連作短編集です。
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
- 2015-03-12
口には載せない忌み言葉「死」を取り巻く感情を描くホラー作品6編。これまでの作品にはない死に対峙したテーマが共通しています。「こちら側」と「あちら側」のお話を幻想的な雰囲気で伝えてくる作品です。
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
- 2016-09-21
- 著者
- 彩瀬 まる
- 出版日
- 2017-10-26
7つの短編で構成されていて、全て女性が主人公です。日常の現代小説のようなのに幻想的な話もあり驚きますが、読み進めていくと引き込まれます。独特で不思議な世界観の中で、愛や人間の本質が描かれている珠玉の短編集です。その中で特に印象深い3つの作品を紹介します。
表題作「くちなし」は主人公の女性ユマが不倫相手のアツタに別れを告げられる場面から始まります。その時にユマはアツタから彼の左腕をもらいます。この話の世界では体は簡単に取り外せて、親しい人にパーツを贈り合うことは一般的なのです。ユマはしばらくアツタの左腕と暮らしますが、アツタの妻が左腕を取り戻しにやってきます。
ユマはアツタの左腕を返す代わりに妻の腕をもらい、妻の腕と生活を共にするのです。物悲しく不思議で美しい世界観に引き込まれます。自分自身をバラバラに分けられることと1人の人をまるごと愛することが対比的に表現されていて、愛することとはなにかを考えさせられる作品です。読み終わったあとに余韻が残ります。
「愛のスカート」では美容師の女性、ミネオカがお客さんの仕事の依頼で学生時代の片思いの相手トキワに再会します。昔からミネオカに振り向いてくれないトキワは人妻に片思いをしていました。ミネオカはトキワに想いを寄せつつもトキワの恋が上手くいくように手助けをしてしまうというストーリーです。
それぞれの片思いがほろ苦いのですが、そんな中でトキワが語るセリフが心に響きます。
「遠くのきれいな花畑みたいな、触れないものしか好きになんないから、俺は一生こうなんだって思ってた、でも、好きなものに、触らないまま関わる方法は、きっとたくさんあるんだな」(『くちなし』より引用)
切ない関係の中にも光が差す、凪のような穏やかな気持ちになれる作品です。
「山の同窓会」では女は卵を宿し産卵します。女は産卵を経験する事に老けていき、3回の産卵を果たすと大抵死んでしまうのです。主人公のニウラは周りが産卵を経験していく中で1度も卵を作っていない珍しい女性で、彼女が自分の存在に悩みながらも周囲や社会常識に流されずに歩んでいきます。
幻想的で絵本のような設定ですが、ニウラの感じている悩み、周囲と違うことや種族内での自分の役割などは現代の私たちにも通じるものではないでしょうか。物語内でのニウラの人生へのスタンスに生きる勇気がもらえる作品です。
ファンタジーやSFのような幻想的な話が多く、丁寧な文章で情景や色彩が鮮やかに目に浮かび不思議で美しい世界観に引き込まれます。不思議な世界観だからこそ、主人公の女性たちが悩む社会常識とのズレやギャップ、本人も気付いていない自分の生態などがいっそうと際立ち胸に迫ってくるのです。物語の中で女性たちが悩みながらも自分の中にそれぞれの愛の形、生き方を見つけて歩んでいく姿に励まされ、読後に温かい余韻が残ります。愛や生き方について考えるきっかけになる1冊です。
以上、単行本デビューから、順にご紹介いたしました。心に響く美しい言葉で描かれ、重苦しさのないていねいで柔らかい文章は、物事に対する心のあり方を感じさせます。彩瀬まるの世界をこの機会に、ゆっくり楽しんでみてください。