奔放でワガママな王妃のイメージを覆す!18世紀フランスの伝記文学
上巻では、オーストリアの皇女として奔放で不自由なく育ったマリー・アントワネットが、フランスとの同盟関係を強くするための政略結婚する事になります。結婚からフランス革命に至るまでのマリー自身の心境の変化や成長、フランス社会の変化や状況が傍観しているような視点で描かれています。
下巻では、子供を授かり、大人の女性へと成長を遂げたマリーが描かれています。本来の理念を失くして暴力性だけが露わになってしまったフランス革命に大切な家族や友人といった様々なものを奪われ翻弄されながらも、誇り高く生きようとした気高いマリーが断頭台へ向かうのです。
- 著者
- シュテファン ツヴァイク
- 出版日
多くの伝記文学を手掛けてきたシュテファン・ツヴァイクの代表作『マリー・アントワネット』は1932年に発表されました。1980年代の日本でも伝記小説として広まり、多くの方に読まれてきた作品です。最初に発表されて以来、長年愛される伝記小説として知られています。
悲劇の王妃として知られるマリーのありのままの姿を、歴史的事実を踏まえたうえで感じる事ができ、段々とマリーに近づいてくる時代の流れに恐怖すら覚える事でしょう。マリーが政略結婚という愛のない世界に連れてこられ、退屈しのぎに豪遊するに至った経緯が分かりやすく描かれているので、その様子を自分の目で見ているような錯覚を感じるのです。自由奔放で思慮にかけ、少しばかり軽薄だったマリーを心から心配している母親のマリア・テレジアの親心にも胸が詰まります。
そんな自由奔放だったマリーが恋人フェルセンと出会い、本当の愛を知り、妻として母親として成長を遂げていく様子が淡々とした文章で描かれているのですが、先入観を取り除いたその描写には感動させられます。そんな淡々とした文章の中で際立つのが、死を目前に控えたマリーの最後の手紙。激動の時代をいきたひとりの女性の姿がそこに凝縮されています。フランス革命を知らなくても分かりやすい文章で書かれていて、テンポよく展開するので難しく考えずに読み進められる作品です。
舞台は15世紀のイタリア!悪名高いチェーザレ・ボルジアの華麗で儚い一生
時の権力者・ローマ法王アレッサンドロ6世の長男として生を受けたチェーザレは、権力者である父親とローマ教会の勢力を最大限に利用し自身の勢力範囲を広げていきます。小国分裂の絶えなかったイタリアを統一するため、チェーザレは美しい妹や弟さえも利用し、自身の巧みな政治手腕を大いに奮いました。
段々と力を付けてきたチェーザレは、時には軍事力を使ったり、更には冷酷無比な決断をして「イタリア統一」という夢に向かって邁進していきました。しかし、あと1歩というところでチェーザレに思いもよらない不運が降りかかるのですが……。
- 著者
- 塩野 七生
- 出版日
- 1982-09-28
1970年に発表された『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』は歴史作家・塩野七生の代表作の1つで、毎日出版文化賞を受賞した作品でもあります。日本では、一般的に知られていないイタリアの政治家・チェーザレ・ボルジアの一生に焦点を当てた歴史小説です。
ボルジア家は毒殺や近親相姦などの悪い話ばかりで有名ですが、本作ではチェーザレが苛烈に自身の夢を追うカッコいい人物として描かれています。視点は一定で、決して物語の中に入って行こうとはせずに史実を含めて、少し肉付けされた出来事を読み手は傍観者という感覚で読み進める事が出来るのです。
その傍観者ゆえの淡々とした描写の中で、史実を描いたパートと小説として進行するパートとの変化がいいアクセントになってテンポよく展開していきます。塩野七生が描く情景描写はとても美しくて、人物や風景を目の前にしているように感じてしまうでしょう。
さらに天才建築家レオナルド・ダ・ヴィンチや思想家ニッコロ・マキャヴェッリがチェーザレを慕って接している様子も描かれていて、今まで知識として得たボルジア家に対する印象が覆る内容になっていて驚かされます。チェーザレの事をまったく知らない方でも、チェーザレがどういった人物なのか分かりやすく描かれている作品になりますので彼を知り、混乱時代のイタリアを知る事が出来る作品です。
15世紀フランスが舞台!王族の離婚裁判とは?
時は1498年、現フランスの王・ルイ12世は、前王・ルイ11世の娘で自身の妻であるジャンヌを相手取り離婚裁判を起こします。離婚の理由はジャンヌが「醜い」。ただそれだけでした。前代未聞の王族の離婚裁判を天才弁護士・フランソワは個人的な復讐心から傍聴に訪れていたのですが、王妃から離婚裁判の弁護を引き受けて欲しいと頼まれたフランソワは、全力で拒否するのですが、ひょんな事から弁護を引き受けることになり……。
- 著者
- 佐藤 賢一
- 出版日
1999年に発表された『王妃の離婚』は、史実ベースの奇想天外なストーリーで有名な佐藤賢一が手掛けた作品であり、直木賞を受賞した作品でもあります。1498年のフランスで、実際に行われたルイ12世が王妃であるジャンヌ・ド・フランスに対して起こした離婚裁判をベースにしたストーリーで、史実を交えながら面白い展開を向かえる内容になっています。
離婚が許されないカトリックにおいての離婚裁判、さらに国王夫妻の離婚裁判という題材だけでも面白味に溢れている作品ですが、その面白い題材を使ったスピーディーな展開と思わず笑ってしまうような意外な展開が絶妙なバランスで繰り広げられているのです。中だるみせず、読み手の気になるところを上手く刺激して飽きのこない流れを見せる本作は、エンターテイメントに富んだ作品だと言えます。
離婚という重々しい言葉が入っているにも関わらず、天才弁護士・フランソワが裁判所で繰り広げる弁論や彼の過去、更にはルイ12世やジャンヌの心理描写にいたる様々な変化を見事に臨場感たっぷりに表現されています。そして、登場するキャラ作りもしっかりしていて、キャラクターの姿を容易に想像する事も出来るので裁判を傍聴している感覚になってしまうことでしょう。
難しい言葉もなく、分かりやすい文章で軽快に読み進める事ができ、さらに所々に用意されている史実ネタと笑ってしまいそうになるネタと全編を通した痛快なストーリーに時間を忘れて読みふける事が出来る名作に仕上がっています。