5位・ローン・ウルフ『野獣死すべし』
江戸川乱歩に才能を見いだされ文壇デビューした大藪春彦が、大学時代に発表したのが『野獣死すべし』です。
1935年2月、朝鮮の京城で教師の家庭に生まれた大藪春彦は10歳の時に朝鮮半島で日本の敗戦をむかえました。この頃の経験が後の大藪作品の礎になっていると言っても過言ではありません。なぜならば彼は、「経験したこと以外書けない(本人談)」作家(もちろん殺人を犯したことは無いでしょうが)だからです。
- 著者
- 大薮 春彦
- 出版日
主人公の伊達邦彦は自身の信じる正義(金と武器)を貫くために日々ストイックに肉体と精神の鍛錬をします。大学院に籍を置き、優秀な院生を演じながら壮大な完全犯罪を成し遂げます。史上最高のダークヒーローと言っても過言ではないでしょう。
純粋悪である伊達邦彦はプロファイリングの枠内での人格障害などでは計りきれない大物の悪党です。シリーズ5作目からは愛国心の全くないジェームズ・ボンドのようなスパイアクション物になりますが、根底に流れる大藪イズムに濁りはありません。CIAやKGBの工作員と死闘を繰り広げる、荒唐無稽とも言える内容も、大藪の緻密な武器やマシンの書き込みのおかげでリアリティが湧いてきます。
日本のハードボイルド小説の先駆的一冊です。
4位・読む映画『マルタの鷹』
大衆向け雑誌「ブラック・マスク」に1929年から連載され1930年に単行本として出版された『マルタの鷹』は、いわゆるその後のハードボイルドの定義を確立した本と言っていいでしょう。主人公は私立探偵サム・スペードです。
作者のダシール・ハメットは1984年にアメリカの農場で誕生しました。13歳で学業と決別すると、以来職を転々とし、「ピンカートン探偵社」に就職します。その頃の経験を活かしコンチネンタル・オプやサム・スペードを生み出したのは有名な話です。
- 著者
- ダシール ハメット
- 出版日
- 2012-09-07
実在する領土を持たない主権団体「マルタ騎士団」の宝、「マルタの鷹」を巡る陰謀サスペンスです。
家出をした妹を探し出して欲しいという単純な人探しの依頼だったはずが相棒を殺され、その嫌疑を警察から掛けられ、マルタの鷹像のことを「何か知っているはずだ」と「G」ことガットマンという人物に疑われ、せっかく手に入れたマルタの鷹像はロシア人から偽物を掴まされたと知り……。
とにかく心理描写の少ない手法で描かれているハメットの世界は読み手をやや混乱させるところもありますが、文体自体が簡潔なため読み進めていく内に「ああなるほど」と納得させられます。
この小説の技法は俗に「三人称カメラアイ」と呼ばれるもので、主人公周辺に視点(神の視点と呼ばれることも)があって、全体を見渡しながら話を進めていくものになります。利点の一つとして「主人公の知らない事実を書き込むことが可能」などがありますが、文章力の足りない書き手がこの技法で書くと分かりずらい小説になってしまいます。その点、ハメットの文章はかの村上春樹をして「我々をシュールレアリスティックなまでにハードでクールな場所に、ある場合には前衛的ともいえそうな場所に連れていく」と言わしめている名文。まるで「読む映画」のような一冊です。
3位・直木賞、江戸川乱歩賞W受賞作『テロリストのパラソル』
1995年に発行された『テロリストのパラソル』は、その年の江戸川乱歩賞を受賞し、次いで翌年の直木賞も受賞してしまいました。同一作品のW受賞は後にも先にもこの作品のみです。
作者の藤原伊織は1948年に大阪で生まれ、2007年に没するまで波乱の人生を送りました。東大仏文科卒業後、電通に勤めながら作家活動を開始しますが、幾つかの新人賞を獲った後執筆依頼をことごとく断ります。すると注文が入らなくなり、ギャンブルで作った借金返済の為『テロリストのパラソル』を書き、江戸川乱歩賞に応募して見事に受賞し、賞金1000万円を獲得します。見事な生活設計ですね。
- 著者
- 藤原 伊織
- 出版日
- 2014-11-07
新宿中央公園で爆発事件があり、その容疑者にされた主人公島村圭介(旧名・菊池俊彦)は犯人を追います。
島村はアル中のバーテンダーです。もちろん今回の事件との関わりは無い、はずなのですが、事件の被害者に学生時代共に体制と闘った仲間・桑野や、ある期間同棲をしていた女性・優子が含まれていたことから疑われます。しかも爆発現場近くに指紋の付いたウィスキー瓶を置いてきてしまっていたのです。
20年以上前の過ちから偽名を使っての逃亡。同じ容疑で姿を隠していた桑野。指紋から菊池(島村)が割り出されるのにくわえて、なぜかヤクザの襲撃を受けたりします。
南米の麻薬組織がらみのテロリストや学生運動家、インターポールに日本の警察、コロンビアのメデジン・カルテルに日本のヤクザ、とにかくスケールは壮大で読み応えがあります。とにかく自身で手に取って読んで頂きたい一冊です。