明玉の行方を追った『薄紅天女』
『更級日記』の中で語られる『竹芝伝説』と『アテルイ伝説』をモチーフとした、勾玉三部作の三作目。闇の末裔の少年と輝の末裔の少女の出会いと勾玉の行方を描いた三部作完結編です。
- 著者
- 荻原 規子
- 出版日
- 2010-08-06
阿高(あたか)と藤太(とうた)は甥と叔父の関係でしたが同い年で、十七まで双子のように育ちました。しかしある日、藤太の隠し事が阿高に知られて喧嘩になり、家を飛び出します。
同じ頃、安殿皇子の実妹である苑上(そのえ)は、兄を怨霊から護るため、少年・鈴鹿丸の姿をとって「都に近づく更なる災厄」に立ち向かおう都を出ました。
途上で二人は出会い、ともに旅をしていくことになります。
苑上と阿高は、知らず知らずのうちに惹かれ合っていき、旅路の中でゆっくり時間をかけて自分の気持ちに気づいていきます。阿高と共に武蔵へ行きたい気持ちを抑える苑上は背中を押してあげたくなるほど奥ゆかしく健気で、そんな苑上を盗みに戻ってきた阿高が「決めた?」というシーンは必見です。
特異な芸能の力を持つ少年少女の恋『風神秘抄』
平安末期を舞台とした作品で、あとがきで荻原規子自身が「風神秘抄は続編ではなく新しい物語」と断言しているように、勾玉は出てきませんが、三部作とは地続きの世界であるため、随所にその後の物語が感じられる作品です。
坂東武者の家に生まれた草十郎は、笛の才と「鳥彦王」と名乗るカラスと話す力を持っていました。
六条河原で魂鎮めの舞を舞っていた少女・糸世に引き寄せられるように、草十郎が笛を吹き始めると、天の門が開かれた二人の周囲には花吹雪がそそぎ、運命を変えてしまうほどの大きな力が生まれ……。
- 著者
- 荻原 規子
- 出版日
- 2014-03-07
特異な力を持ち、どんどん人間離れしていく糸世と草十郎ですが、神隠しにあった糸世を救い出した後の二人の会話で
「寝て起きたら、きっと忘れてしまうのでしょう。男の人の言葉がその場かぎりでも、わたしはちっとも驚かないわ」
「坂東の男はそうじゃないよ。後で教えてやる」
(『風神秘抄』より引用)
というシーンがあるのですが、この場面の二人はごく普通の少年と少女で、なんでもないやりとりがとても微笑ましいです。
人とまじわるのが苦手でずっと人を遠巻きにして生きてきた草十郎が、糸世のことが好きだと自覚してすぐさま告白するその変貌ぶりには思わず笑みがこぼれました。初めての恋に駆け引きもできず、ただ真っすぐに想いをぶつける草十郎の後先見ずの行動は、初恋のじれったさと気恥ずかしさを彷彿させます。
蛇神に憑依される少女をめぐる物語『RDG』
鈴原泉水子は、腰まで届くほど長く編んだ三つ編みに、赤いふちの眼鏡をかけている引っ込み思案な女の子です。特殊な力を持つ泉水子は、髪を三つ編みにすることで力を封印していましたが、後ろ向きな性格を変えたいと思い、ずっと伸ばしていた髪を少しだけ切ったことから物語は動き出します。
中学三年になって幼馴染の相楽深行と再会し、一緒に東京の「鳳城学園」へ入学することを周囲に決められてしまった二人は反発しながらも修学旅行で東京へ行きました。そこでは不思議な出来事が次々と起こり、「姫神」と呼ばれる謎の存在が現れたことにより、泉水子の秘密が明らかになります。
姫神の存在を通じて、一歩進んでは二歩下がるを繰り返しながら、ゆっくり心を通わせていく二人の心の機微がとても丁寧に描かれています。
- 著者
- 荻原 規子
- 出版日
- 2011-06-23
5作目で、自身の力を目撃されてパニックに陥り、消失してしまった泉水子を追っていった深行のせりふが印象的です。
「おまえさ、俺が必要だって言えよ」
「言えたらいいけど、言ったら最後だよ…」
(『RDG5 レッドデータガール 学園の一番長い日』より引用)
姫神を二人のものとして抱えていく覚悟を決めた深雪が、泉水子の口から言ってほしい言葉であり、また泉水子が言いたくても言えない言葉でした。状況の深刻さは変わらなくても、自分の味方としてともに歩んでくれる人がいるというのは何より心強く、それによってこれまでより少し前向きに考えられるようになった泉水子の変貌は、荻原規子の得意とする「少女の成長物語」の典型であるように思います。
『風神秘抄』からずっと先の未来、現代日本を舞台に山伏・忍者・能など日本独自の文化を絡めたファンタジー作品。あらゆる場面に糸世の面影を感じます。