言わずと知れた日本を代表する作家、夏目漱石。帝国大学卒業後、中学、高校で教員となり、その後イギリスへ留学、帰国すると東大で講師を務めました。そんな日本のエリートコースを歩んだ夏目漱石の作品から、今回は厳選した作品を紹介します。

英国に留学して3年も文学を勉強したにも関わらず、全くわからない。そしてわからないまま、興味のない教師にさせられてしまった。若い漱石はそんな苦悩を抱えて日々を過ごしていたようです。しかし、ある時、霧が晴れたように悩みが吹き飛びます。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
- 1978-08-08
深層心理の恐怖や不安が描かれ、読み応えがあります。夢物語独特の不条理さ、時系列の歪みが魅力的です。あらゆる語り口を持つ漱石の一側面を見せてくれる作品と言えます。
- 著者
- ["夏目 漱石", "金井田 英津子"]
- 出版日
純文学の名作です。文章は初期の漱石のような装飾性がはぎ取られ、洗練されたわかりやすい言葉が美しく配置されています。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
この身辺録にはさまざまな人々が現れ、それらを漱石は静かな目で眺め、小さなストーリーが語られていきます。飼っている犬のへクトーの死んだ話。写真を撮りたいという雑誌社の男。自分のことを書いてほしいとしつこく訪ねてくる女性。旧友Oとの再会と学生のころの思い出などなど。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
- 1952-07-22
猫の主人である珍野苦沙弥(ちんのくしゃみ)の家を訪れる一風変わった人々。迷亭はホラ吹きの美学者、苦沙弥の教え子の水島寒月、詩人の東風、哲学者の独仙など個性豊かなキャラクターたちが好き勝手な主張と行動で物語をつむぎだし、笑わせてくれます。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
血気盛んで正義感にあふれる主人公の坊ちゃんは、新任教師として松山の中学校に赴任します。ところが彼の前に現れるのは、波風を立てまいと事なかれ主義を貫く校長の狸や、学校の影の支配者として陰険な性格で坊ちゃんの前にたちはだかる教頭の赤シャツ、その赤シャツにべったりと子分のように寄り添う画学教師の野だいこと、どいつもこいつも上司にゴマを擦り、自身の保身を考える者ばかり。
おまけに学校の生徒たちにも馬鹿にされる始末で、坊ちゃんは赴任地でストレスの多い日々を送ります。
そんなある日、戦争の祝賀会の会場で、生徒たちが喧嘩をはじめたことから、彼は同僚の数学教師である山嵐と一緒に、騒動をおさめようと仲裁に入ります。しかし翌日の新聞で、あろうことか騒動の主犯者として報道されてしまった坊ちゃんは、その背後に赤シャツの思惑を嗅ぎとり、山嵐とふたりで彼らに復讐を果たそうと計画するのです。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
江戸ッ子である漱石の持ち味が十二分に発揮された作品です。一人称で綴られる語り口がとても効果的で、赤シャツや野だいこのような建前ばかりを述べる大人たちに、坊ちゃんが果敢に斬り込む構図となります。大人の論理が渦巻く学校を舞台に、坊ちゃんが巻き起こす痛快ドタバタ学園コメディーと言えるでしょうか。坊ちゃんのキャラクターが見事にハマり、爽やかな読後感をもたらしてくれますよ。漱石入門書として、読まず嫌いを直すには最適の一冊です。
地方からはじめて上京した時のことを覚えていますか。思い描いていた東京は、上京する前とかけ離れた場所でしたか。志を抱いて大学へ入ったものの、同級生や先輩たちの抱く志や学識の高さに、自信を失った経験はないですか。今まさにその渦中にいる方も多いのかもしれません。『三四郎』の主人公も、そんな苦い経験を共有するひとりなのです。
大学へ進学するために上京した三四郎は、日本の行く末を案じて過激な発言を口にする広田先生や、同じ大学に通うひとつ年上の先輩・野々宮、同級生の与次郎と出会い、上京そうそうに東京という場所にカルチャーショックを覚えます。なかでも構内の池のほとりで目にした美禰子との出会いは、強烈な体験として彼の胸に刻まれていきます。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
- 1948-10-27
夏目漱石の小説には、妖しい雰囲気をたたえた印象的な女性が多く登場します。なかでも『三四郎』に登場する美禰子は、漱石の作品においてひときわ印象の強い女性です。彼女の特徴を端的にあらわす象徴的な台詞があります。いまにも息がかかるような自分の胸もとで、突然に年上の女性にこんなことを呟かれたら、あなたはどんな思いに駆られるでしょうか。水を飛び越えようとバランスを崩した美祢子をとっさに抱きとった三四郎は、彼女のこんな呟きを聴いてしまうのです。
「迷える子(ストレイシープ)」と……。
田舎者の三四郎が彼女にますます魅かれていくこの場面は、『三四郎』のなかでも屈指の名シーンのひとつです。
ところで、上京した三四郎の前には、三つの世界が開けています。戻ろうとすればいつでも帰ることのできる故郷の世界。野々宮や与次郎と知り合うきっかけになった立身出世を叶える学問の世界。大都会の東京で知り合った美祢子に代表される女性の世界。三つの世界を前に、三四郎は自分を上手く位置づけようと東京での日々を送ります。
三四郎と美祢子の関係を軸に展開する『三四郎』は、あなたの胸のうちに、思春期のあわい痛みを甦らせることでしょう。学校を卒業して社会人として働く人も、いま学校に通う渦中にいる人にも、ほろ苦い痛みを呼び起こす傑作青春小説です。
小説における文章というのは、主に人物の台詞、風景描写、心理描写の三つで構成されています。風景描写と心理描写は、周囲に広がる場所や雰囲気、人物が物事に対して抱く心情を読者に提示する、小説にはなくてはならない機能です。一般に地の文とも言われます。
この三つの要素が巧みにあわさって小説は構成されますが、終幕のクライマックスやドラマチックな場面ならまだしも、その世界で人物たちがどのような生活を送っているかといった日常描写は、読者の注意を引きつけておくことが難しいだけに、作家にとって、たいへん難しい場面として頭を悩ますことになります。
一見して地味な生活描写ほど、作者の力量が試されると言っていいかもしれません。小説家としての漱石の力量に注目すると、中篇小説の『門』は、ぜひ手に取ってもらいたい一冊になります。冒頭から代助夫婦のゆるやかな日常生活が鮮やかな筆運びで活写されていきます。
- 著者
- 夏目 漱石
- 出版日
- 1986-11-29
宗助は陽のあたる縁側に座布団を持ち出し、下駄を鳴らして行き過ぎる通りの音を、ゴロリと横になり心地よく聴き入っています。そのまま寝てしまうことを心配して、「風邪をひきませんか」と妻が声をかける。こんなやり取りを繰りかえす平穏な休日の一コマに、あなたも心くつろぐような心地よさを覚えるかもしれません。
夫婦の生活は一見すると、穏やかで幸せに満ちた夫婦に映ります。ところが夫である宗助は、大学時代の友人の妻を奪ったことから、世間から身を隠すように崖下の家でひっそりと暮らしているのです。宗助の胸には、後に「人間の心の奥底には結核性の恐ろしいものがひそんでいる」と述べられる、過去の傷がうずいていることが次第に明らかになります。ゆるやかな時間の流れる夫婦の冒頭のやり取りと後に深刻さを増す不穏な緊張感は、見事なコントラストをもって浮かびあがってくるという仕掛けなのです。まずは、のどかな休日の雰囲気を巧みに描く、夏目漱石の描写力に注目してください。
夏目漱石は、小説という世界で決定的な影響を残した作家です。一番好きな作家に漱石をあげる方も多いことでしょう。まだ読んだことがないという方には、ぜひ今回特集した作品を気に入っていただけたらと思います。