3:謎解きの楽しさを備えた傑作冒険小説『黄金虫』
『黄金虫』は海賊の隠された財宝のありか探す冒険小説です。暗号を用いた謎解きをテーマに繰り広げられるこの作品は、『モルグ街の殺人』のように現実の犯罪が発生しないという点を除けば、この『黄金虫』も一種の推理小説のジャンルに属するものといって良いかもしれません。
- 著者
- ポオ
- 出版日
- 2006-04-14
サウスカロライナ州のチャールストン近くにあるサリヴァン島が、この物語の舞台。ある日、新種の黄金虫を発見したウィリアム・ルグランのもとを語り手(名前はない)が訪れることで、物語は動き出します。自分が捕まえた黄金虫は、中尉に貸してしまって今は見せられないが、スケッチならあるというルグラン。ところが、語り手にそのスケッチを見せている間にルグランの様子がみるみるうちに変わっていきます。その後ずっとルグランはむっつりと黙り込ん様子だったので、仕方なく語り手は帰ることにしました。実はその時、ルグランだけがそこに秘められた暗号に気付いていたのです。こうして、」宝探しの旅がスタートします。
かつてポー自身がこの島に駐屯していたことがあることや、暗号に入れ込んでいたことから、島の状況や風景、また暗号の解読が非常に具体的に描かれており、そのことがこの作品に臨場感を与えています。
この作品に触れた人は、ルグランの半ば狂気じみた熱中っぷりに侵され、いつの間にか自らもその中に引き込まれ、やがてこの謎解きに夢中になってしまうことでしょう。これもひとえに、人の持つ好奇心というツボをポーが巧みに刺激しているからに他なりません。さあ、ポーからの挑戦状を受け取るのはあなたです。ルグランの手を借りて、挑んでみてはいかがでしょうか?
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4:ゴシックホラーの金字塔『アッシャー家の崩壊』
みなさんが思い描く幽霊屋敷のイメージは、もしかしたらここから来ているのかもしれません。それほど『アッシャー家の崩壊』は後世に絶大なる影響をもたらしました。小説はもちろん、映画、音楽、漫画といった様々な媒体でこの物語が引用され、オマージュが捧げられてきたのです。
始まりは、語り手(名前はない)の下に突然届いた一通の手紙でした。差出人はロデリック・アッシャー。語り手の少年時代の友人です。その内容は、自分は神経の病を患っており、最も親しいただ一人の友人である語り手に会うことで、その病気を少しでも軽くしたい、というものでした。最後に会ってからずいぶんと長い年月を経ていたにも関わらず、せがむような調子に込められた思いを感じ取った語り手は、アッシャー邸に数週間滞在することにします。
屋敷に到着した語り手でしたが、あまりにも荒涼とした不気味な雰囲気を醸し出す屋敷の姿に心が沈むのを感じました。また、久しぶりに会ったロデリックの変わり果てた姿にも、憐みと怖れにも似た感情を抱いてしまいます。そして、ロデリックが病の原因について語りました。それは、この屋敷自身と瀕死の妹にあると、それが原因なのだということでした。ほどなくして迎えた妹の死。そのことが語り手にもたらした凍りつくような恐怖とは一体…?!
- 著者
- ポー
- 出版日
- 2016-05-12
深い霧が立ち込めた場所に現れる、妖しげな光を放つアッシャー邸。冒頭、この屋敷を見た語り手の頭の中を様々な思いが駆け巡ります。そこから読者は容易にその屋敷の姿がイメージ出来、きっと語り手と同じ思いに駆られるはずです。この屋敷は、まるで生きているようだ、ということを。
何が現実で、何が虚構なのか、ポーはきっとあなたを混乱させるでしょう。この現実と虚構が入り混じるアッシャー邸があなたを誘い込み、語り手が味わったものと全く同じ恐怖を体験するに違いありません。
5:影とペルソナ、恐怖と逃避『ウィリアム・ウィルソン』
『黒猫・アッシャー家の崩壊 ポー短編集〈1〉ゴシック編』のなかに収録されている話です。
主人公である語り手の名は、ウィリアム・ウィルソン。しかし、これは仮の名だそうです。本名を書くと今自分の目の前にあるページが汚れるのだと、それほど自分の名前は侮蔑や嫌悪の対象であるのだと、彼は述べています。
話は、彼が10歳から15歳までの年月を過ごした寄宿学校時代のことに端を発します。そこで出会ったのは、全く同じ日に入学した、全く同じ姓名と、全く同じ生年月日(1813年1月19日生)と、全く同じような顔立ちや体型を持った少年でした。(ここからは、語り手を「私」、同姓同名の少年を「彼」と呼ぶこととします。)
上級生や友達の間では、あの二人は血がつながっているだとか、兄弟だとか、そういう噂が広まっていく中、「彼」は「私」の服装や歩き方、さらには態度や話し方や声質までも「私」の真似をするようになります。もうほとんど瓜二つの双子といってよい存在にまでなった「彼」に対し、「私」の感情は憎悪にまで発展していきました。
そして、憎悪と共に彼を支配したのは、恐怖でした。その恐怖という感情はやがて「私」を逃げ出させます。別の学校に移ることにしたのです。しかし、どこに行っても「彼」は「私」の後を追ってきました。そして、その度に逃げ回る「私」。「彼」は一体何者なのでしょうか?
- 著者
- エドガー・アラン ポー
- 出版日
- 2009-03-28
この作品の特徴は、良い意味でポーらしさがない、ということに尽きます。これまで紹介してきたポーの作品群が、詩的な雰囲気を重視した幻想的な空間を演出していたのに対し、この作品は非常に論理的な構成によって組み立てられているのです。そのことが逆にこの作品の、ひいては主人公ウィリアム・ウィルスンの持つ心理的要素を強調していると言えます。
また、巧妙で緻密に計算し尽くされた文章は、読者を巧みにコントロールし、ポーの思い通りに導かれることになります。その巧みさの一例として、すでにこの時点でこう思っている方がいらっしゃるのではないでしょうか。果たして「彼」は存在するのか、ということを。しかし、ポーにぬかりはありません。「彼」の存在は、上級生たちや友達の間で噂になっているのです。「彼」の存在を認めている人たちがいるのです。
さて、この続きは本編をご覧ください。もうすでに、あなたはポーの術中にはまっているのかもしれません。思考の外側で展開されていたはずの物語が、一体どのような結末を迎えることになるのでしょうか?そして、その時読者の胸を深く深く貫き通すものに、あなたは一体何を思うのでしょうか?
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