ジョーゼフ・キャンベル『神話の力』(早川書房)
まず、物語の原型である「神話」について知ることから始めてみましょう。この著作は、神話学の泰斗、ジョーゼフ・キャンベルとの対話を収めたものです。古代ギリシャから東洋の思想まで、縦横無尽に語るその博学ぶりに圧倒されますが、ひとまず、第5章の「英雄の冒険」だけでも読んでみて欲しいと思います。「神話」という古色蒼然としたものが、私たちにとっていかに重要であるかがよく分かります。
キャンベルは現代社会を「神話が失われた時代」と捉え、人々の生が困難になっている原因をそこに見ています。しかし、人々の欲望は様々な神話を文化に持ち込みます。キャンベルからすると、『スターウォーズ』などはその典型です。このような映画が大ヒットすることからも、人々が「神話的な物語」を求めていることがよくわかります。 この著作を読み、『スターウォーズ』を続けて観るなんていう贅沢な時間を過ごすのも良いかもしれません。
- 著者
- ["ジョーゼフ キャンベル", "ビル モイヤーズ"]
- 出版日
- 2010-06-24
藤沢烈『社会のために働く』(講談社)
「神話」という過去の物語に想いを馳せた後は、視線を現代に向けてみたいと思います。さて、現代の物語を考える場合、どこに注目すればよいのでしょうか。私は、「ソーシャルビジネス」という文脈に、上質な物語があるのではないかと考えています。
「ソーシャルビジネス」とは社会問題をビジネスの手法で解決する活動一般を指す概念ですが、なぜその文脈に注目する必要があるのでしょう。それは、ソーシャルビジネスが「共感」という感情に重きを置いているからです。経済的利益に訴えかけるのではなく、人々の共感を集めて、社会問題を解決するソーシャルビジネスだからこそ、その共感を呼ぶための「物語」がどうしても必要になってきます。
藤沢烈さんの『社会のために働く』は、東北復興に関わる様々な人々や企業の奮闘を描いたものです。仕事の合間、昼ごはんを食べながら、この本を読んでいた私ですが、危うく涙を流してしまうのではないかと焦ったほど、感動的な「物語」がちりばめられています。特に、Googleやyahooという大企業のトップの人の言葉には胸を打たれます。上質な物語に引きずりこまれ、気がつけば、否が応でも社会のことを考え始めることになるでしょう。また、ソーシャルビジネスは経済的利益に訴えかけるものではない、ということを先ほど述べましたが、この著作を読むと、そう簡単に説明することができない、新たなソーシャルビジネスの胎動を読み取ることができます。そう、新たな物語が生まれる場所はそう単純ではないのです。
- 著者
- 藤沢 烈
- 出版日
- 2015-03-11
窪田良『極めるひとほどあきっぽい』(日経BP)
さて、「物語」という言葉には、「文系」の香りがします。たしかに、いわゆる文系の学問が物語を特権的に扱ってきたことは間違いないでしょう。しかし、「理系」と呼ばれる領域にも「物語」は溢れています。『極めるひとほどあきっぽい』は、アキュセラという創薬ベンチャーを立ち上げた窪田良さんの起業にいたる来歴をまとめた本です。研究者、医者、起業家と転身を遂げた窪田さん。しかし、ここから読み取るべきは、その変化ではなく、ある種の「変わらなさ」ではないでしょうか。
幼い頃からずっと目に関心があった。そして、目の病気の原因を突き止め、多くの人を助けたい。窪田さんにはこのような「情熱の一貫性」があります。創薬という先の見えない大事業を、しかも資金力の少ないベンチャーで成し遂げるというのは、多くの困難が伴うことは想像に難くありません。その困難を乗り越えることができたのは、窪田さんの内側に物語があったのではないかと想像します。理系の発見を支えているのは、そのような「内なる物語」なのではないでしょうか。これは困難な旅に出る「英雄」たちと共通しているかもしれません。
- 著者
- 窪田 良
- 出版日
- 2013-05-23