金原ひとみの『蛇にピアス』以外のおすすめ作品6選!

更新:2017.1.2

デビュー作『蛇にピアス』で、いきなりの芥川賞を受賞し、その若々しい容姿とは裏腹の、センセーショナルな作品内容が話題となった作家・金原ひとみ。ここでは、そんなデビュー作以降発表されたおすすめ作品をご紹介していきます。

文学部の現代文学好き大学生。好きな作家は上田岳弘、高橋弘希、舞城王太郎、村上春樹。あと永遠のアイドルは綿矢りさ。
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鮮烈なデビューを飾った作家・金原ひとみ

1983年、東京都に生まれた彼女。翻訳家で大学教授の金原瑞人を父に持ち、小学校6年生のときには父親の留学をきっかけに、1年間をアメリカで過ごします。

この頃から本をよく読むようになった金原ひとみは、自分でも小説を書き始めます。学校へはあまり行かず、不登校気味だったそうで、高校は中退。20歳のとき、周囲の勧めもあり、作品を文学賞へ応募したのがデビューのきっかけとなりました。

2003年、『蛇にピアス』がすばる文学賞を受賞すると、翌年には芥川賞を受賞。綿矢りさとともに若き才能として印象深い作家デビューとなりました。2007年長女を出産し、母となった金原ひとみは、2010年『TRIP TRAPトリップ・トラップ』で織田作之助賞を受賞。2012年には『マザーズ』でBunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞しています。

若者の歪んだ恋愛を描く傑作

痛々しいほどに歪んだ愛を描く、金原ひとみの衝撃作『アッシュベイビー』。『蛇にピアス』に続いて発表された作品で、驚くほどバイオレンスで、過激な内容が話題になりました。

キャバクラ嬢として働く主人公のアヤは、大学時代の同級生・ホクトとルームシェアをしています。ある日アヤは、ホクトの会社の先輩・村野と出会い、彼に不思議な感情を抱きます。それ以来、村野のことが頭から離れなくなり、いっそ彼に殺されたいと思うほどに想いを募らせ、執着していくのです。

著者
金原 ひとみ
出版日
アヤは村野に対して頻繁に「好きです」という言葉を発します。なんの脈略もなく、突然、そして何度も言い、村野はその言葉になんの反応も示しません。つかみどころがなく、何を考えているかわからない村野はミステリアスで独特な魅力があり、こちらまで興味をそそられてしまいます。

ホクトが赤ん坊に欲情してしまう場面や、アヤが自分の太腿をナイフで刺す場面、そしてセックスの間、その傷口を執拗に責める村野の姿など、そのあまりに過激で作中ずっと続くハードな描写は、好き嫌いが別れるところかもしれません。

しかし『蛇にピアス』と同様、強烈な描写なのに何故かすらすらと読めてしまう文体になっているのが金原ひとみの凄いところ。若い著者だからこそ見える、若者の暗く歪んだ内面を、包み隠さず剥き出しにしたような荒々しい欲望の塊で突きつけられ、なぜか読む手が止まらなくなる作品です。

憂鬱を楽しく読める異色作品

鬱を抱え、精神科に行こうとするものの、毎回邪魔が入り結局行けない……。そんな主人公の女性を、金原ひとみがコメディタッチに描く連作短編集『憂鬱たち』。

7つの物語が収録されたこの作品は、主人公の女性の他、名前の同じ2人の男性が、すべての作品に姿を変えて登場します。

著者
金原 ひとみ
出版日
2012-06-08
主人公・神田憂は、今日こそ精神科で診察を受けよう、と出かけていきます。そんな憂の前に決まって現れるのが、中年男性・カイズさんと、今時の若い男の子・ウツイくん。カイズさんは、ある時はブランドショップの店員、ある時はタクシー運転手などに変身して登場し、ウツイくんは、コンビニやラオックスの店員となって、憂の前に姿を見せます。

どの物語にも、主人公の性的妄想が炸裂しています。現実と妄想の境目も非常に曖昧で、終始ふわふわとした浮遊感に包まれている感覚を味わうことができるでしょう。暗く悩むのではなく、鬱な自分を受け入れた主人公はどこか印象的な軽快さがあり、どうしても精神科にたどり着けない姿が、滑稽で面白可笑しく描かれています。

現代社会では、誰もが抱えているかもしれない憂鬱。隠さずにさらけ出している主人公の姿に引き込まれ、もしかしたら悪いものだとは限らないのかもしれない、と思わされる作品です。良いことと悪いこと、現実と妄想とがくるくると姿を変える、金原ひとみの迷路のような世界を楽しんでみませんか?

金原ひとみが書き留める、主人公たちの3.11後の生活

東日本大震災を経験し、人生が変わってしまった4人の男女の姿を描く『持たざる者』。2017年現在も尚、爪痕を残す福島第一原発の問題がテーマとなった作品です。

震災後、生まれたばかりの娘を気づかうあまり、神経質になり、それが原因で離婚してしまうデザイナーの修人。子供を病気で亡くし、立ち直れないでいる、海外在住の千鶴。原発事故の影響を懸念し、イギリスへと飛び出した千鶴の妹のエリナ。家族関係に悩み、震災のことなどまったく頭にない朱里。物語は、この4人が順に主人公となり進んでいきます。

著者
金原 ひとみ
出版日
2015-04-24
どの主人公も、様々な事情を抱え、無力感と喪失感に苛まれています。冒頭、放射能の恐怖を敏感に感じ、あれこれと心配する修人と、気にしても仕方ないと、開き直る妻との不毛なやり取りには、身につまされる思いがすることでしょう。

原発問題と、真っ向から向き合おうとする人と、日々の生活に忙殺され、それどころではない人の対比が、日本の現状を象徴しているかのように映ります。

原発によって変わってしまったそれぞれの人生。果たして彼らは何を無くしたのか、そこから得るものはあったのか。それぞれの環境によって変わる視点が金原ひとみの力強い文体によって描かれた「人生」の小説です。

主人公の女性の10年間を辿る物語

15歳の少女が、恋、結婚、出産を通して成長していく姿を描く『TRIP TRAP トリップ・トラップ』。金原ひとみ自身の成長を見ていくかのようなこの作品は、6つの短編が収録された連作集で、織田作之助賞を受賞したことでも話題になりました。

主人公のマユは、15歳で家を飛び出し、男と暮らしはじめます。繊細で未熟な少女は、危うさを多分に含んだ思春期時代を過ごし、それでもどうにか大人になっていくのです。恋人と行くパリ、夫と行くハワイ、そして生後4カ月の娘を連れての家族旅行と、旅を通して、マユの成長が描かれています。

著者
金原 ひとみ
出版日
2013-01-25
10代の姿と、作家になったあとの姿が、別人かと思ってしまうほど変わっているので驚かされます。娘を保育園に預け出かける、湘南での様子を綴った「夏旅」では、あんなにも愛に飢えていた少女が、時を経て愛を与えなければいけない、母となったことへの心情が、包み隠さず正直に語られていて、その成長に感動してしまいます。

金原作品ではお馴染みの、狂った印象を受ける描写は、だいぶ抑えられているこの1冊。1人の女性の、15歳から25歳までの10年間が、ありのままに描かれています。こちらも、金原ひとみという作家に興味のある方への入門書として、彼女の魅力を感じることのできる作品としてもおすすめしたい1冊です。

神聖視することで隔離され、むしろ軽んじられている母性

作家のユカ、専業主婦の涼子、モデルの五月の3人は同じ保育園に子供を預けています。ユカと涼子は高校時代の友達、五月とユカは仕事を通して以前から顔見知りの間柄、涼子と五月はユカを通して知り合い、それぞれ子育ての悩みや愚痴を語り合い一緒に食事をするなどして親密度を深めていきます。

3人とも出産を境に夫との関係が冷えており、ユカは薬物に依存して、五月は不倫をすることで心の安定を保っています。

専業主婦の涼子は、経済的な余裕があり時々家事代行やベビーシッターを頼めるユカや五月と違い、全てを1人で背負っています。毎日泣きわめく生後9か月の息子をあやしては授乳の繰り返しで疲れ切っており、腕も肩も痛めていますが、夫は時々子供をお風呂に入れる程度のことで自分は育児に協力的だと思い込んでおり、涼子の苦しさも自分が育児の本当の大変さを知らないことも認識していません。そんな涼子はある日、泣き叫びながら自分を求めて追いかけてくる息子から誰も助けてくれない現実に心が崩壊し、ついに息子を叩いてしまいます。そして涼子の心は歯止めがきかなくなり……。

著者
金原 ひとみ
出版日
2013-12-24

好きな男性と結婚し子供を産んで幸せな家庭を作るという当たり前の将来を夢見ていたはずなのに、赤ん坊が産まれてきた途端、自分の時間が全て失われ、ただ子供を育てるだけの存在と化した自分に3人は激しい喪失感を覚えるのです。「子育ては幸せ」という社会の概念の中、そうあらねばならないと思う彼女らは、自分が突然事故に遭ったり殺されたりする姿すら思い浮かべてしまいます。それは自らの意志では育児を止めることができないからなのです。

本作は母の愛に依存する社会を痛烈に批判しているとともに、「母親とはこうあるべき」という既成概念に縛られているのは、母親たち自身でもあると指摘しています。母親の幸せとは何なのか、読後も考えずにはいられません。

金原ひとみの姿を彷彿とさせる主人公が印象的な1冊

錯乱し、精神が分裂していく若い女性作家の姿を、斬新な手法で描いた『AMEBIC』。この作品でも、金原ひとみが得意とする、クレイジーな女の子が登場してきます。

主人公の「私」は若い小説家。摂食障害気味の彼女は、とにかく食べることが嫌いです。食事は、サプリメントと酒で済ませ、他人が食事をしている光景にも、軽蔑の眼差しを向けます。

著者
金原 ひとみ
出版日
2008-01-18
そんな「私」は時々、錯乱状態に陥ってしまい、そうなると無意識のうちに文章を打ち込み、錯乱した文章「錯文」を残す癖があります。その内容は支離滅裂。「私」は、無意識の「私」が何を伝えようとしているのかを、どうにか読み取ろうとします。

主人公の意識が分裂し、混沌としていく世界観にとてもリアリティーがあり、どんどん引き込まれていくでしょう。あらゆることを拒絶し孤立する彼女は、それでもひたすら愛を求めているように感じられます。作品全体に彼女の満たされない渇きによる心の叫びが響いているよう。

そしてセリフには、荒々しく乱暴な言葉が使われているのですが、作品全体には、壊れそうなほどの繊細さが漂っています。金原ひとみ独特の筆致で、過激で壊れやすいある女性の姿を書いた作品です。

内容としてはヘビーなものですが、ページ数も少なく読みやすい作品ですので、『蛇にピアス』は過激すぎてダメだったという方でも気軽に読むことができるのではないでしょうか。

金原ひとみのおすすめ作品をご紹介しました。『蛇にピアス』のイメージが、あまりにも強い作家ですが、その他にも読み応えのある作品がたくさんあります。気になったものがあれば、ぜひ読んでみていただければと思います。

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