テレビの報道番組で毎年2回、大きく取り上げられる芥川賞。世間でもっとも注目される文学賞のひとつです。今回はそのなかでも世紀末である90年代、その世相のなかで選ばれた作品を厳選してご紹介したいと思います。

文章が柔らかく読みやすいです。食べ物がたびたびモチーフとして登場し、その料理の情景、食する様子が静かに描写されてゆき、生理感覚をともなった文体が不思議なグロテスさを帯びていきます。妹の微妙な心理が投影されるジャムのなかに、悪意というには頼りない感情が孕まれてゆき、出産のクライマックスまでに発酵してゆくのです。
- 著者
- 小川 洋子
- 出版日
作品当時の大学の風景が目に浮かぶような描写が小気味よい文体で表現され、ぐいぐいと物語を引っぱってゆきます。モチーフとして描かれた鉱物の質感がストーリーの細部を彩り、ひとつの雰囲気を生み出してゆきます。そのなかで、2人の少女の境遇や恋愛、家族関係などの悩みが真穂の描く戯曲を通してつまびらかになってゆくのです。作品全体のテーマが真穂の戯曲に連動して組み立てられていきます。
- 著者
- 松村 栄子
- 出版日
「君たちは動物と結婚する話と言えば〈つる女房〉しか知らないかもしれないけど、〈犬婿入り〉っていうお話もあるのよ」(『犬婿入り』より引用)
- 著者
- 多和田 葉子
- 出版日
- 1998-10-15
「河原の石ひとつにも宇宙の全過程が刻印されている」(『石の来歴』より引用)
- 著者
- 奥泉 光
- 出版日
「私」は誰からともわからない電話で起こされ、その相手に半分が海である海芝浦駅に行くように言われます。とりあえずそこに向かう「私」は各駅の70年代を思わせる建築に妄想を浮かべ、時に祖母の思い出や過去の記憶を思い出します。たどりつくのは果たして、オキナワカイガンでしょうか?
- 著者
- 笙野 頼子
- 出版日
大学時代に映画サークルに所属していた「ぼく」と真紀さんの会話は落ち着いていて知的です。映画や本の話がたびたび出てきます。真紀さんの家に飼われているゴールデン・レトリバーのニコベエや、長男で小学五年生の洋平のサッカーの話がほほ笑ましく、善良です。毒がありません。しかし、決して退屈な小説ではないのです。そこにこの作者の非凡さが伺えます。
- 著者
- 保坂 和志
- 出版日
数珠屋「カナカナ堂」につとめるサナダヒワ子は藪で蛇を踏んでしまいます。
- 著者
- 川上 弘美
- 出版日
- 1999-08-10
異常な病にかかった主人公は重苦しい意識の中で、過去に置き去りにした戦友たちに足の親指から滴る水を吸い続けられるという、怪談話めいた異様な光景が繰り広げられます。しかし兵隊たちは恨んでいる様子もなく、彼に敬礼しては壁のなかに消えてゆきます。
- 著者
- 目取真 俊
- 出版日
物語では刺激的な描写が続きます。生理的に不快を感じる読者もいるかもしれませんが、これが文学のひとつの側面ということも言えます。背理、悪徳、頽廃……そこに悪魔的な魅力が宿ることもまた真実です。破滅型の主人公、朧はある意味で求道者としての道を突き進んでいるかのように自分の欲望と暴力衝動に対して、真摯です。
- 著者
- 花村 萬月
- 出版日
- 2008-10-04
1482年フランス、神学僧の二コラは『ヘルメス選集』の完本を求めてパリから旅立ちます。そこで出会った錬金術師ピエェルは魔法のような「賢者の石」の創生について語ります。ピエェルの家の蔵書を読むことを許された二コラですが、悪魔が出現するといわれる森にしばしばピエェルが出かけて行くことに気がつくのです。二コラはピエェルのあとをこっそりとつけてゆきますが……。
- 著者
- 平野 啓一郎
- 出版日