経営のための戦略論
「戦略」という言葉が戦争から生まれたことに疑いの余地はありません。しかしその後、 企業経営においても使われる言葉となりました。軍事戦略論の名著も最後に紹介しますが、まずは企業経営の戦略について見ていきましょう。これを極めて平易かつ体系的に解説しているのが、経営コンサルタントの波頭亮氏による本です。
- 著者
- 波頭亮
- 出版日
- 2013-04-18
一般に、経営コンサルタントによる著書は、実務的あるいは自己啓発的なものが多いですが、この本はアカデミックに近い内容になっています。本書の構成は、前半で経営戦略理論の歴史を紹介し、後半にそれらを現在の企業が直面している課題(イノベーション、グローバリゼーション等)にどう活かすかを模索している本ですです。
本記事では、前半にあたる経営戦略論の歴史について触れていきます。
また、一般に経営学の祖とされているのは『科学的管理法』(ダイヤモンド社)を著したフレデリック・テイラー(1858-1915)です。ファヨール、メイヨー等もそれぞれ経営理論を組み立てていきました。これらは、生産をいかに効率的に行うかという企業内部組織についての理論でした。
その後、組織外部に目を向け、初めて経営学に「戦略」という言葉を持ち込んだのが『組織は戦略に従う』(ダイヤモンド社)を著したアルフレッド・チャンドラーです。
また市場が飽和してくると、シェアの奪い合い、つまり競争になります。そこで登場したのが、マイケル・ポーターの『競争の戦略』(ダイヤモンド社)です。市場の競争状況を分析して自社が市場に対してどのような「ポジション」をとるかを決定すべきとし「コストリーダー戦略」「差別化戦略」「集中戦略」を提案しました。またマーケティング論のフィリップ・コトラーも市場に対する自社の位置づけを行う理論を提案しています。
一方、そういった経営理論 とは異なる立場をとったのが『戦略サファリ』(ダイヤモンド社)のヘンリー・ミングバーグです。「経営環境は不確実性が高いので計画通りにいくわけがない」という身もふたもない主張を元に「まずはやってみてから、その場の状況に応じて修正を加えていくべきだ」という立場をとりました 。
またJ・バーニーは『企業戦略論(上)(中)(下)』(ダイヤモンド社)で「自社の経営資源」に着目する考え方である「Resource based view(リソース・ベースト・ビュー)」という概念を作り出しました。これは自社の経営資源を「価値・希少性・模倣困難性・組織」の観点から分析し戦略を立てるものです。またハメル、プラハラードによる『コアコンピタンス経営』(日経ビジネス文庫)も、そのタイトルの通り「中核となる競争力」を中心に戦略を立てるべきという主張であり、バーニーと似た概念です。
経営戦略論は以降も次々と出版・提案されていますが、経営戦略について考えるときに重要なのは「競争に勝つこと」だけではなく「できるだけ(不利な)競争をしないこと」を目指している点です。キム、モボルニュ『ブルーオーシャン戦略』(ダイヤモンド社)、山田英夫『競争しない競争戦略』(日本経済新聞出版社)などはタイトルからしてそれを表しています。
ゲーム理論
さて戦略について考えるとき、もう1つ欠かせないのが「ゲーム理論」です。
例えば、エール大学の講義を元にした『戦略的思考とは何か』および『戦略的思考をどう実行するか』(ともにCCCメディアハウス)、あるいは梶井厚志『戦略的思考の技術』(中公新書)などの本が出版されていますが、これらはいずれも副題に「ゲーム理論」が含まれています。
「ゲーム理論」は経済学のうち「ミクロ経済学」の中の一分野ですが、一般的な「経済学」のイメージとはやや異なるものです。むしろ数学に近い面があります。
ここでいう「ゲーム」は将棋やチェスなどをイメージすると良いでしょう。そもそも将棋やチェスは、駒を兵士に見立て、戦争をゲーム化したものです。実際、ゲーム理論は国際政治論などにも使われています。例えば、岡田章『国際紛争と協調のゲーム』(有斐閣)、石黒馨『入門・国際政治の分析‐ゲーム理論で解くグローバル世界』(勁草書房)など があります。
ゲーム理論は、「あるゲーム設定(=状況)」において、自らがプレイヤーとしてどのように行動するべきか、あるいは相手プレイヤーのどういう行動が予想されるかについての理論です。ビジネス書にも登場する有名な「囚人のジレンマ」は、このゲーム理論において「お互いが自身の利益を求めて最適な行動をすると、お互いの利益が最大とならない場合がある」という問題です。
ゲーム理論に関する本はたくさん出版されていますが、ここでは理系レーベルの新書「講談社ブルーバックス」から刊行されている初心者向けのものを紹介しましょう。
- 著者
- 川越 敏司
- 出版日
- 2012-08-21
本書はゲーム理論だけでなく、行動選択に関する様々な理論も登場します。
また最後のほうには「囚人のジレンマ」を解消できるという「量子ゲーム理論」も登場しますが、これは難解な上、数学の「虚数」と同じように現実的に扱うには難しいので、現実問題である「戦略」を考えるときにそこまで理解する必要はないでしょう。
ゲームを変える戦略
さて、ゲーム理論が示唆するのは「自分がプレイヤーとして有利か不利かは、そもそもゲーム設定の段階で決まっている」という点です。ビジネスにおいては「市場や競合との関係」がゲーム設定に当たると言えるでしょう。直面しているゲーム設定がそもそも自分に不利な場合、気合いや根性で補って相手に対抗するというのは、極端に言えば単なる精神論でしかありません。
ではどうすればいいのでしょう。今のゲーム設定が自分に不利なら、ゲーム設定そのものを変えてしまえば良いのではないでしょうか。
- 著者
- 内田 和成
- 出版日
- 2015-01-24
本書は、既に述べたような「ゲームの設定そのもの」を変えることによって優位に立った企業を「ゲーム・チェンジャー」とし、「プロセス改革型(Arranger)」「市場創造型(Creator)」「秩序破壊型(Breaker)」「ビジネス創造型(Developer)」に分類・分析すると共に、それに対する対抗策を提案する本です。具体的には以下のような企業・事業が登場します。
●プロセス改革型(Arranger)
アマゾン、ネット証券、セブンカフェ、ゾゾタウン、俺のフレンチ、スーパーホテル
●市場創造型(Creator)
アクションカメラ、電子書籍、JINS PC、東進ハイスクール
●秩序破壊型(Breaker)
LINE、スマホゲーム、ネスカフェアンバサダー、リブセンス、コストコ
●ビジネス創造型(Developer)
価格.com、カーシェアリング、MOOC
これらはいずれも競争における「ゲームのルールそのもの」を変えてしまった企業・事業です。
例えば、ネット証券やネット保険会社は、店舗や人員が少なく低コストで運営でき、手数料等を低く設定することができます。一方、既存の企業はそれまで強みだった店舗や人員が逆に足かせとなり、手数料等での対抗は難しくなってしまうのです。
「ゲーム・チェンジャー」の出現は、既存のプレイヤーにとっては極めて恐ろしいものです。本書でも、それに対する有効な対抗策は十分に明確に示されているとは言えません。