福岡伸一の尊敬する4人との対談集
『せいめいのはなし』は福岡伸一が内田樹・川上弘美・朝吹真理子・養老孟司の4人と繰り広げた会話が収録されている対談集です。対談相手の4人には共通点があまりないようにも思えますが、一瞬一瞬で移ろいゆく作者を反映する4人なんだとか。福岡伸一の動的平衡状態が見える興味深い1冊です。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2014-10-28
川上弘美との対談ではかつて理科の教師として働いていた川上弘美がこんなことを口にします。
「一番好きだったのが生態系の授業でした。(中略)地球には人間だけでなく動物もたくさんいて、動物は植物を食べて生きていて、植物は雨水や光をもとに酸素と、生物の栄養素や体のもととなる炭素化合物をつくりだす。では雨水はどこからくるのかというと、地上にあった水分が蒸発して、雲ができて、雨になってまた降ってくる。そういう地球全体で回りまわって成り立っているものがあるんだよ、と。」(『せいめいのはなし』より引用)
そんな彼女に対して福岡伸一は「時間を一万年単位にして見ると私たちの体は分子のゆるい淀みでしかない」と答えます。巡り巡って生まれ変わり続ける私たちは、まさに動的平衡状態にあるのだと。
福岡伸一の分子生物学の語りを聞いているのも充分面白いのですが、彼が人と対話をすることでさらに彼の思考が掘り下げられていく様子が分かるのも見どころ。彼の考えが他の誰かの思考と共鳴したり、交錯したり、時にぶつかって鮮やかに散って行ったり。読者はそのどこへ向かうのか分からないワクワクもハラハラもする対談に目が離せなくなるでしょう。分子生物学を様々な角度から眺めてみたい人におすすめしたい1冊です。
食べ物はあなたを作っている
『生命と食』は福岡伸一が『生物と無生物のあいだ』で書ききれなかった内容をまとめた1冊です。全部で62ページと非常に薄い本なので、エピローグを読んでいるような気分で一気に読めてしまいます。
- 著者
- 福岡 伸一
- 出版日
- 2008-08-06
本書では主に「食」に焦点が当てられています。例えば遺伝子組み換え作物については、
「遺伝子組み換え操作は、品種改良と同じだという人がいます。(中略)しかし、この議論では『時間』が忘れ去られています。品種改良では、ある作物と作物を掛け合わせ、次の作物を作りますが、そこには何年もの時間の試練が含まれています。(中略)ところが、遺伝子組み換え作物は、ある部分とある部分を入れ換えて、さあ、どうだと、すぐに市場に出回ります。そこに検証するための時間はありません。」(『生命と食』より引用)
とその問題点を指摘しています。また、人工的な食べ物に慣れてしまった私たちに警告する記述も。昔は豆腐は夜食べるものではなかった、という理由についてこのように述べています。
「昔の豆腐は手作りで、夜半から仕込みをして、早朝にできたものが売られていました。(中略)(そしてそれを)朝の食卓に出して食べる。水に浸けておいても、せいぜい昼ぐらいまでしかもたず、夜には傷んでしまう。かつてはこのように、人の手が加わった食材は作られた瞬間から悪くなっていくという時間感覚が当たり前だった」(『生命と食』より引用)
生命と食は切っても切れない親密な関係です。語りかけるように、人の心に馴染みやすい文体で書かれているので、福岡伸一の語りに耳を傾けているような感覚で一気読みしてしまうこと間違いなしでしょう。
人という生き物の不思議に迫る!
「生活のふとした場面でわきおこる、ささやかな疑問。職場や家庭で遭遇する、さまざまな悩み。そんな身近な疑問やお悩みを生物学者の福岡伸一さんにぶつけたら……?」というコンセプトのもと、まとめられたのがこの『遺伝子はダメなあなたを愛してる』です。
- 著者
- 福岡伸一
- 出版日
- 2012-03-30
「彼氏が部屋にきた時にゴキブリが出ました。ゴキブリに絶滅してほしいと思うのは間違いですか?」「妻が娘を甘やかします。過保護に育てたくないのですが」「結局宇宙人はいるのですか?」など読者の何気ない日常の疑問に福岡伸一が生物学者の立場から答えます。面白いのはその答えのアプローチの仕方。福岡伸一にしか導き出せない回答で、時に可笑しく、時に哲学的に読者の疑問を解決していくのです。
例えば「メールに携帯、ソーシャルメディア。情報化社会は便利だけどなぜか疲れます。」という質問に対しては、水槽のミクロ生物であるボルボックスの常に集まって情報伝達をしている生態を引き合いに出し、こう回答します。
「生命にとっての情報は『現れてすぐに消える』ことがもっとも重要なのです。(中略)ネットやメールの言葉はいつまでも消えません。トゲとなってずっと残ります。つまり私たちが作り出した人口の情報は生命的でないのです。」(『遺伝子はダメなあなたを愛してる』より引用)
日常の悩みを生物学に照らし合わせてみると、思わぬ発見のある楽しさを伝えてくれる1冊です。読み物としても面白いですし、生物学を学ぶ上でも充分有効な書物だと思います。本書を読めば日常の悩みが小さく感じるかもしれません。