考え方の方程式とは
人生においては、人は多くの壁に突き当たります。そして、多くの人が陥りやすい問題について、養老孟司なりの考えを提示し、壁を乗り越える方法を示すのが、この本『バカの壁』。2003年にベストセラーとなり、社会現象を巻き起こした事でも有名な書籍です。
- 著者
- 養老 孟司
- 出版日
- 2003-04-10
思考の癖や捉え方の違いは、人によって様々です。養老孟司は、このような人の考え方を方程式で表わし、分かりやすく説明しています。
人の考え方において、入力をx、出力をyとすると、y=axという一次方程式ができます。入力情報xに、脳内でaという係数をかけてyという反応、結果が出てきたという構図が、このモデル。aは、人によって異なり、それゆえ同じ入力xがあってもyは様々です。
何かに関心がないときの場合、a=0となり、yも0になるので反応もありません。また養老孟司は、自分にとって好きな事はaが+で、嫌いな事はaが-になる、と述べます。世の中で求められている社会性とは、様々な方面に対していかに適切なaをもっているか、という事をと説明しています。
本書では、そのaに加えて、人生の意味についても解説。フランクルの教えを紐解くと、人生の意味は自分だけで完結するものでなく、周囲の人、社会との関係から生まれる、と説明されています。そして、養老孟司は、現代人が人生にもつべき意味とは、自分がまわりのために何ができるか、ということだと主張しているのです。
教師なら、学生を教え導くという意味があり、研究者なら、役立つ商品を開発するという意味があります。絵描きなら、人を感動させたり、作品を通して世の中に問題や価値観を問うことができますし、ゴミ収集人にも、料理人にも、新聞記者にも、社会で役立つ意義がある点がポイントなのです。
周囲との関わりや、社会で役立つという点に生きる意味を見出せば、社会で役立つための選択肢というものは多く存在していて、若い人が陥りがちな、難しい自分探しという迷いから抜け出すことができるのではないか、と考える事ができます。
このように、本書には、先生と呼ぶにふさわしい卓越した考えが満載。その教えを学びたければ、ぜひこの本を開いてみてください。
子育てで育つ親
長年大学人として生きてきた養老孟司による、人生の極意ともいうべき考えがつまったのが、この本『まともな人』。子供の育て方、学問とは何か、といった問題をテーマに、卓越した考えを論じていきます。
- 著者
- 養老 孟司
- 出版日
子育てについて、養老孟司は楽観視した展望を持っており、子供を育てるには、水と餌とねぐらを自分で探させるようにすると子供はすぐに成長する、と主張。たしかに、衣食住を自分の問題として考えた時、ものの考え方は大きく変貌を遂げます。
また、養老孟司は、「今の人は、子育ての環境が悪いと思うかもしれません」と説明。しかし著者が生きてきた、戦中から戦後も酷かったといいます。食べるものに困り、家事も今より大変だった状況で、子供がたくさん生まれたのが当時の状況でした。このように考えた時、いつの時代も、子育ては大変ではあるけれど、何とかなっていくものだ、といえるのではないでしょうか。
子育てをしていると、夜中に起こされたり、いたずらをされたり、泣き止まなかったり、とても大変です。そして、養老孟司は、そのような行為と向き合う親にしてみれば、子育てには、子供を育てるという働きの他にも、親が成長するという働きもあるのではないか、と説明しています。
また、本書では、学問についての考えも示されています。養老孟司は、学問で習うのは方法論である、と説明。知識を学ぶ事も大切だけれど、方法論は様々な分野に応用が利く、だからそれを学ぶ事が大切だ、と著者は述べています。
勉強をしていて、ふとした疑問に出会ったらどうするでしょうか。そのままにしておくか、それについて調べるか、のどちらかでしょう。そして、その疑問を解決するか、放っておくかという点に、その人の勉強に対する人間性が表れます。
このように、勉強に対する姿勢、方法論という考え方は、全ての物事に応用できる卓見であるといえるでしょう。
ここで紹介した、知識と方法論の関係、子育てでは親も育つ、という考えは面白いですよね。この本は、優れた教えが多く詰まった良書ですので、気になった人は手に取ってみてください。
庭掃除がもつ功徳とは?
様々な問題を様々な角度から考察して、面白い考えを展開していく養老孟司が、心についての考えを中心に論じていくのが、本書『考えるヒト』。脳に興味のある人も、優れた考え方に興味のある人も楽しめる一冊となっています。
- 著者
- 養老 孟司
- 出版日
- 2015-10-07
例えば、猫が屋根から飛び降りる動作は、重力などのような古典力学で説明できます。養老孟司は、猫がそのような動作をする時、猫は古典力学を理解して行動していると指摘。これは、猫の頭の中に、古典力学が何かの形で入っているという事になるのです。著者は、猫はこの古典力学を意識的に取り出せないだけである、と説明していて、それを意識的に取り出せる人が、物理学者や数学者になる、といいます。
この他にも、人は誰もが物事に対して重みづけをしている、という指摘もしています。誰かにとってサッカーをする事は人生の大きな楽しみである一方、他の誰かにとってはそれほど重要ではないですよね。
このように、養老孟司は、人によって同じ状況、同じ入力でも、重みづけは異なってくる、と説明。『バカの壁』でのy=axの方程式でaにあたるものが、重みづけだと捉える事も出来るのではないでしょうか。
そして、これが最も顕著に表れているのが、ギリシャの哲学者タレスの話です。タレスは、考える事に重きを置いて、視覚や聴覚などの五感に重きを置きませんでした。その結果、歩きながら考え事をしていて、井戸に落下してしまいます。そこに、近所の知り合いの女の子がやってきて「先生もたまには自分の足下を見て歩きなさい」と言うのが、この話の要点です。
タレスは、物事の真理をよく見ようとして、五感よりも考える事に重みづけをし過ぎた結果、かえって周りが見えなくなってしまった、と言えます。このように考えた時、極端な重みづけをして、頭を使いすぎるのも考えものだ、という事が分かるのではないでしょうか。
養老孟司は、日夜、真理の探究をしているお坊さんが、庭の掃き掃除をして、木々を駆け抜ける風を感じたり、木漏れ日を楽しんだり、夏の暑い陽気を肌で感じながら、身体を動かす事がいいのである、と説明しています。お坊さんの行動は、寺をきれいに掃除しているのではなく、自分をきれいに掃除していると言えるのかもしれません。
本書の解説を執筆した僧侶である玄侑宗久は、箒で掃除をすることで、きれい、きたない、という概念を払拭し、無常の風光に溶け込んでいく事ができる、と指摘しています。
このように、考え過ぎて井戸に落ちたギリシャの哲学者の話から、お坊さんが庭掃除をする話まで考えを巡らせていくのが、本書の特徴です。どのページを開いても、面白い考えが載っていますので、上記のような考えに興味を持った人は、ぜひ本書を紐解いてみてください。