過労死の原因として、3点を整理しました。
①正社員の削減、人手不足
正社員の削減により、残る正社員の責任や負担が重くなったり、新人でも即戦力として経験や能力以上の仕事やノルマが課され、責任を問われるようになったりしています。なお正社員削減の背景には、企業の経営状況の悪化などによる行き過ぎた人件費の削減などが挙げられます。
また、業務量に対して正社員の人数が少なくなることにより、非正規労働者にも正社員レベルのノルマ達成や残業が求められるようになっています。
②劣悪な職場環境、ワークライフバランスの不徹底
労働時間が短い場合でも、精神疾患をわずらう事例もあります。ハラスメントなどが横行する劣悪な職場環境が問題視されてきているのです。「タイムマネジメントからストレスマネジメントへ」という言葉も一部であげられているように、長時間労働の是正だけではなくストレスのない職場環境作りも求められています。
なお「ワークライフバランス(仕事と生活の調和)」とは、1980年代頃から欧米で使われるようになった言葉で、日本では2006年頃から政府によって推進されるようになりました。仕事上の時間だけでなく、家庭も含めた人生において、ストレスのない過ごし方ができるかどうかが重要視されてきているのです。
③法律の不備
2017年3月には、残業時間の上限などを定めた「働き方改革実行計画」が政府によってまとめられました。しかし休日に労働した時間は、その上限から外されているため、残業時間の規制に抜け穴があるのではないか、との声も聞かれます。
このように過労死の背景には、組織そのものの体制や法律などを含めた社会のあり方全体が関わっているようです。では、そもそもなぜ長時間労働が生まれるのでしょうか。
そもそもなぜ「長時間労働」が生まれるのか
「雇用」を切り口として現代社会の多様な問題を論述する雑誌『POSSE vol.34』では、過労死の要因の一つである長時間労働が生まれる背景として、3点まとめます。
①事実上、上限規制がない労働時間
労働基準法32条では、1日8時間・週40時間という労働時間の上限が設けられています。しかし労使間の協定である、通称「36(さぶろく)協定」が締結されれば、法定内時間労働を超えた時間外労働が一定範囲で可能となります。さらに特別条項も締結すれば、「36(さぶろく)協定」の労働時間の上限も「適用除外」できるようになるのです。
なお詳しくは『電通事件: なぜ死ぬまで働かなければならないのか』を読んでもらいたいのですが、2015年に電通女性社員が過労自死した際には、特別条項さえ守られていませんでした。背景には「労働時間の自己申告制」があるとされ、長時間労働を隠すための「労働時間の操作」が行われていたのです。
このようななかで先述した通り、2017年3月には、残業時間の上限などを定めた「働き方改革実行計画」が政府によってまとめられました。とはいえ休日に労働した時間は、その上限からまだ外されているため、残業時間の規制に抜け穴を指摘する声もあります。
②日本型雇用の特徴である終身雇用と年功賃金(属人評価)
終身雇用と年功賃金は、雇用を守る役割を果たす一方で、企業に大きな指揮命令権を与えました。たとえば年功賃金では、仕事内容ではなく、労働者自身の企業への貢献度の高さが賃金額に影響するといいます(=属人評価)。そしてその貢献度は、サービス残業への積極的な取り組みや有給休暇を消化せずに働く働き方によって測られてしまうのです。
このような制度は、戦後の復興期から立ち直り、若い生産者の人口が多く、また企業が国際競争にそれほどさらされていなかった時代に機能していた制度です。その後の人口ピラミッドの変化、企業の競争環境の激化に伴い、補うことのできない負荷が徐々に表面化してきています。そのとき、非正規労働者や若者など、制度に守られることのないより弱者の人々へ、その負荷が押し付けられることになっているのです。
③企業別に組織される労働組合
諸外国の労働組合は、産業別・職種別に組織されています。一方、日本では、労働組合が企業別に組織されているため、企業間の競争を優先する考えが出てきてしまうといいます。その結果として、「賃上げの抑制や長時間労働の容認」などの条件が認められてしまうのです。
このように、日本における長時間労働の背景には、労働時間への法的規制や評価・労組のあり方などが関係しています。
『POSSE』というこの雑誌には「新世代のための雇用問題総合誌」というキャッチコピーがついています。今回参照した2017年3月号では「ポスト電通時代の過労死対策」という特集が組まれ、過労死をなくすために動き出した取り組みや今後の展望などが紹介されています。
「過労問題について知りたいけれど、まとまった本を読むほど時間がない……」という方にぜひ読んでもらいたい1冊です。
- 著者
- ["POSSE編集部", "松丸正", "汐街コナ", "小山國正", "田端正幸", "髙橋廣康", "青木正之", "戸舘圭之", "渡辺寛人", "山原克二", "エルサ・バドザウスキー", "セバスチャン・ブロイ", "河南瑠莉"]
- 出版日
- 2017-03-30
過労問題についての議論のなかで、「過労死する前に辞めればいいのでは?」という声も時として聞かれます。2016年10月、そのような声に異を唱えるような形で、そもそも辞めることができなくなった人が過労死・過労自殺するのだと訴えた漫画がSNSで話題になりました。
以下の項目で、詳しく見ていきましょう。
そもそも過労死する前になぜ会社を辞められないのか
「昔、その気もないのにうっかり自殺しかけました。」という漫画が、Twitter上で話題を呼びました。作成者はイラストレーターの汐街コナ。かつて100時間もの残業をしていたという自身の経験を元にして描かれた作品です。
本作は、地下鉄のホームで1歩を踏み出しそうになるシーンからスタート。それだけでも衝撃的ですが、そのあとにはブラックな環境に身を埋めるうちに次第に判断力を失い、転職などの選択肢が見えなくなっていく様子が描かれていきます。
真面目に頑張り続けて働いて、気づけば周りが真っ黒(選択肢が見えない状態)に陥っているーー。過労中には、ここまでの心理状態になるのかと気づくことができる作品です。
また汐街は本作で、体の異変に気づいた場合には、とにかく会社を休むよう訴えます。さらにそれが難しいならば、安全な場所に座り込んでもいいのだということも……。
過労死や過労自殺を考えるときに、ぜひ読んでほしい漫画です。非常に読みやすいうえに、他の選択肢が見えなくなる過酷な状況がひしひしと伝わってくる作品だからです。
なお本作は、2017年4月に書籍化もされました。書籍化『「死ぬくらいなら会社辞めれば」ができない理由(ワケ)』には「実録! ブラックな状況を抜け出しました」という描き下ろし作品も収録されていますので、気になる方はぜひチェックしてみください。
- 著者
- 汐街コナ
- 出版日
- 2017-04-10
以下の項目からは、過労死への「対策」に迫ります。