「働く」は、自由と規制のバランスで成り立っている
労働者の権利を守ることは大切ですが、その権利が無制限に拡大すれば、企業は利益を出すことができず他社との競争に敗れてしまいます。自分が働いている企業が倒産し雇用が失われてしまえば元も子もありません。
ですから実際の雇用は、「自由な経済活動」を前提とした経済学的な活動と、「労働者の権利の保障・雇用主への規制」による法学的な公正さとのバランスで成り立っています。それを1冊で理解できるのがこの本です。
- 著者
- 大内 伸哉 川口 大司
- 出版日
- 2014-01-31
本書では、バリバリのキャリアパーソンから、就職に苦労する学生、非正規雇用や主婦・パートまで、様々な形で働く登場人物が織りなすストーリーが(ときには社内恋愛や不倫も)描かれます。そのストーリーを追いながら、労働経済学者と労働法学者が、それぞれの立場から解説をしていきます。
その解説を通じて、「内定取消の法的な意味」「スティグマ効果」「情報の非対称性」「モラルハザード」「労働組合」といった、働くことに関わる法学的・経済学的な知識を得ることができる1冊です。
テクノロジー失業の時代がやってくる?
以上で述べたように、労働者には解雇規制など一定の権利が認められています。しかしその一方で、テクノロジーの発展により「働く機会そのもの」が失われつつあると警鐘を鳴らすのが『機械との競争』です。
- 著者
- エリク・ブリニョルフソン アンドリュー・マカフィー
- 出版日
- 2013-02-07
本書では、リーマンショック後のアメリカで、設備投資が回復したにも関わらず雇用が増えていない現状(2011年時点)を、テクノロジーの発展によるものだと理由付けています。
そしてそのテクノロジーは、「ICの集積は18か月ごとに倍増する」という「ムーアの法則」で私たちが想定する以上に進化し、それは今後も続くであろうという予想をしています。具体例として、2004年には8時間かけて12kmしか走行できなかった完全自動運転車が、2010年にはアメリカの道路1600kmを走破したことなどを挙げています。
人間と違い、機械には残業代も休憩時間も必要ありません。人間の労働は機械に取って代わられるのでしょうか。これについて、本書では悲観的な側面と、楽観的な側面を記述しています。
楽観的な側面の例として、1997年にコンピュータがチェスで世界最強の人間を破ったものの、現在の世界最強のチェスのプレーヤーはコンピュータではなく、「コンピュータを使った人間」であることを挙げています。
このように本書では「機械との競争」でなく、「機械との協同」を提案しています。
再び、「はたらく」を考える。
最後に紹介するのは哲学者の鷲田清一氏による仕事論です。
- 著者
- 鷲田 清一
- 出版日
- 2011-12-13
本書は1996年に刊行され、それが2011年に文庫化されたものです。時代感覚として現在とは異なる面もありますが、哲学ならではの「時代を超えた価値」のある1冊です。
本書でまず取り上げられるのは、仕事における「pro-」という「前のめり」な 姿勢に対する問題提起です。
プロフェッショナル、プロモーション、プロジェクト、プログレッシブ(進歩)、といった仕事で使われる言葉が、前のめりで余裕のない状態を生んでいるとしています。
本書では冗談混じりに、新幹線の中で見かけたという「車内で『ゆとりプロジェクト企画』を必死に作成している、ゆとりのないサラリーマン」を例に挙げています。今ではタブレットやスマートフォンの登場で、さらにビジネスマンのゆとりはなくなっているのかもしれません。
本書では、このような仕事の姿勢を出発点として、マックス・ウェーバー、ボードリヤール、ジョン・ロック、シモーヌ・ヴェイユ、ハンナ・アレントといった思想家の言葉を引用しつつ、「仕事」について考察していきます。
そして、この本のもう1つの重要な要素は「遊び」です「前のめり=pro-」な姿勢によって仕事から「遊び」が喪失し、「ときめきのない労働」となっていることを著者は懸念しています。
最後に、本書の一部を引用してこの記事を終わらせましょう。
「ヨハン・ホイジンガが『ホモ・ルーデンス』(1983年)のなかで問うたように、労働が文明という価値の基礎をなすのか遊びがそうなのかは、おそらく重要な問題ではない。遊びは人間を虚構の世界にあそばせるものであり、その点でひとを自然必然性の外へと連れだしてくれるものであるが、しかし労働もまた自然を加工し変換することとして、まさにひとを自然必然性の外へ連れだすものであるはずだからである。」(P119)