父譲りの感性。作家・小澤征良とは
作家・小澤征良は1971年12月29日アメリカのサンフランシスコに生まれました。指揮者の父と、元モデルで女優の母を持ち、幼少期をボストンで暮らしました。6歳で日本の小学校に転校し、大学に進学するも中退。
上智大学比較文化学部卒業後、メトロポリタン歌劇場で演出助手を務めます。その後、テレビなどを経て雑誌を中心にエッセイを書き始めるように。2002年出版の『おわらない夏』はベストセラーになりました。
日本や外国を行き来する幼少期。多感な少女であった小澤征良は日本に転校後、喘息を発症してしまいます。日本での生活は小澤征良にとって悩みの多いものだったのかもしれません。
作中、東京でボストンの面影を探す様子があります。故郷への迷いや悩みを、抽象的な表現で書き綴るエッセイはどこか詩的で繊細な印象を受けます。その感性は、指揮者である小澤征爾に通じているのかもしれません。
小澤征良のベストセラーエッセイ『おわらない夏』
マサチューセッツ州とニューヨーク州の州境にあるタングルウッド。その場所では1937年8月より、タングルウッド音楽祭を開催しています。ボストン交響楽団音楽監督であった小澤征爾は、毎年夏、タングルウッドで指揮をしていました。
『おわらない夏』は、小沢征良が音楽祭が始まる夏のタングルウッドについて綴ったエッセイ。2002年、小澤征爾はタングルウッドでの指揮を終えています。本作ではそのことについても触れ、家族と夏休みに過ごしたタングルウッドの日々を回想しています。
- 著者
- 小澤 征良
- 出版日
- 2005-06-17
小澤征良の『おわらない夏』で書かれているタングルウッドの風景は、まるでその場所に行ったかのような気持ちにさせられます。
「完璧といってもいいほどの美しい夕日を、唯一じゃまするものと言えば、バーベキュー・グリルから昇る香ばしい一筋の煙だけ」(『おわらない夏』から引用)
広大な自然が広がるタングルウッドだからこそ出来る描写なのではないでしょうか。お肉を美味しそうに頬張る様子が伝わってきます。バーベキュー・グリルを囲うメンバーはタングルウットで一緒に暮らす、中国人のトド、デビー、彫刻家のタカベェ。どの人物も小説から飛びだしてきたかのように個性的な面々ばかり。
楽しくてワクワクする夏休みは誰しも経験するのかもしれません。ですが、夏が終わる淋しさも誰しもが経験するところ。楽しい。ワクワクする。でも、もう夏も終わりなんだ……。そんな夏の記憶を思い出させてくれる小澤征良のエッセイです。
家族、結婚……。その中で見つけたしずかの本音。
小澤征良の小説は2017年現在、『しずかの朝』『蒼いみち』の2冊です。
『しずかの朝』は主人公のしずかが、母に促され、お見合いを決意したことから始まります。お見合い相手の小村さんの言葉に励まされたしずか。その言葉を胸に、偶然インターネットで見つけたロシアン・ハウス横浜の求人に応募します。
仕事はロシアン・ハウス横浜に住むおばあさんのお手伝い。おばあさんのターニャは華奢な身体つきながらもキビキビ動くしっかり者でした。しずかはターニャと関わる中で、自分の本音と向き合ってゆきます。
- 著者
- 小澤 征良
- 出版日
主人公のしずかには、姉の恭子がいます。恭子は美人で頭も良い、非の打ち所がないタイプ。兄弟姉妹に比較はつきものですが、いつしか、しずかは才色兼備の姉の影に隠れて「無難な道」を選ぶようになります。
小村さんとのお見合いの最中、しずかは小村さんに「きれいな人」と言われます。その場面以降、しずかの態度や振る舞いは徐々に変化していくのです。「目立つ姉がいる自分」ではなく「自分自身」を見てくれる小村さんによって、しずかは自信を取り戻してゆきます。
家族は身近でかけがえの無い存在だからこそ、見えないことも多くあります。小澤征良には俳優の弟や、元モデルの母、父の存在があり、コンプレックスを持つには充分な環境でした。作者自身も自分の存在価値に悩んだ1人のしずかだったのかもしれません。
また、美人で誰もが羨むような恭子も、親の期待に悩み苦しんだ1人。恭子はロシアン・ハウス横浜で生き生きと仕事をするしずかと、同居人ターニャの優しさに心打たれます。家族とは何か、人の関わりとは何か、ということを小澤征良の『しずかの朝』からは考えさせられます。