母子家庭の貧困の実態から明らかになる課題
1冊目は、シングルマザーへのインタビューによってその実像と、日本の社会保障制度、雇用慣行、家庭生活がはらむ問題点を明らかにする『シングルマザーの貧困』です。
各章の始めに母子家庭の女性たちの実例が10ページ弱で紹介され、その後に日本の問題点が国際比較や調査などを用いながら整理されていくため、ルポ的要素と研究的要素が一気に学べる1冊です。
- 著者
- 水無田 気流
- 出版日
- 2014-11-13
著者は中原中也賞を受賞した詩人でもあり、社会学者でもある水無田気流(みなたきりゅう)。水無田の鋭さは「はじめに」だけでも明らかです。
「今日の社会では、あらゆる側面で自由競争が標榜される一方、実質的に女性が一人で子どもを産み育てる自由は乏しい。それは、この国の女性が本当の意味では『生む自由』を手にしてはいないことの証左ではないのか」(本書より引用)
最終章では日本の文化規範にも触れています。ひとり親家庭は多数派とはいえませんが、子どものいる世帯のうち12%を占め、「特殊」でも「例外的」でもないのです。今一度、家族の理想像にはじかれたシングルマザーの貧困を考えなければいけません。
貧困に苦しむひとり親家庭へのサポートを学ぶ
著者は、シングルマザーの支援を行うNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむの理事長である赤石千衣子。自身も非婚のシングルマザーであり、30年以上当事者に寄り添ってきた赤石が、ひとり親家庭の現状と求められる支援などを述べています。
- 著者
- 赤石 千衣子
- 出版日
- 2014-04-19
支援といったときには、公的なもの、社会的企業やNPOによるものが考えられるでしょう。本書の目玉はその両方について触れられている点です。
まずは公的支援として指摘される「生活保護」と「児童扶養手当」。母子家庭の相対的貧困率は50%を超えていますが、2011年の全国母子世帯等調査では、生活保護受給は14.4%という低い値を示しているといいます。このギャップはどうして生まれるのか。もちろんその背景についての考察も本書では述べられています。
「私は、ひとり親家庭が生活保護を受けない(受けられない)理由として、4つの要因を考えている。①生活保護に対するスティグマ(差別的な烙印)が強いので受けるのをためらう、②自動車がないと生活できないが生活保護受給の場合は、自動車を資産扱いされて処分を指導される、③親きょうだいなど扶養義務者への扶養照会を避けたい、④申請に行っても申請書を出せない、いわゆる水際作戦などでなかなか受給できない、の4つである」(本書より引用)
さらには、それらを乗り越えて生活保護を受給するひとり親家庭に対する、バッシングもあります。もしそんな無知の批判が聞かれたときに、私たち一人ひとりは反論できるのでしょうか。
本書を読めば、生活保護受給が「甘え」や「怠け」では片付けられないことがしっかりと理解できるでしょう。たとえば、生活保護を受給するひとり親家庭の半分が働いていたり、被保護母子世帯では心の病気を抱える人が約30%、DV被害経験者は約70%にも及んでいたりするのです。個人の努力ではない、仕組みとしての改善策を講じなければならないことを痛感させられます。
また第6章では、社会的企業やNPOによる支援が紹介されています。「ひとり親支援プラン」※で病児保育を行うNPO法人フローレンスなど非営利セクターによる支援から、キャッチコピーは「シングルマザーを管理職にする」という株式会社ハーモニーレジデンスの取り組みまで、さまざまな支援を学ぶことができます。
このように公的支援からその他の支援まで幅広い支援のあり方を詳述している本書は、まさにひとり親家庭へのサポートを知るためにはうってつけの1冊といえるでしょう。
※「ひとり親支援プラン」の対象は、シングルマザー・シングルファーザー家庭。月会費1000円で、通常プランと同様の病児保育(子どもが病気のときに保育スタッフが派遣される)が受けられる。
4ヶ国の母子家庭の現状から探る解決策
シングルマザーへの支援のあり方、現状の解決策を考えるとき、日本以外の国の事例が参考になるかもしれません。そんなときにおすすめしたい1冊が『シングルマザーの暮らしと福祉政策―日本・アメリカ・デンマーク・韓国の比較調査』です。日本、アメリカ、デンマーク、そして韓国の4ヶ国のングルマザーの現状や政策を学術的に学ぶことができます。
- 著者
- ["杉本 貴代栄", "森田 明美"]
- 出版日
日本の現状を考えるうえで、国際比較から得られる知見は大きなものです。たとえば、高福祉国家であるデンマークにおける家族の形に対する意識は目からうろこでしょう。
「家族の形よりも子どもに対する個人単位の支援策であり、すべての子どもに質のよい環境を保障するという子どもの権利基盤型施策が組まれており、家族の形による差別は存在しない。その結果、有子世帯の約2割を占める母子世帯にも寛容である。こうした社会が形成できたのは、1930年代に母子世帯に関心があつまり、負の烙印をおさないような意識作りが行われた結果であるといわれている」(本書より引用)
1930年とは既に70年以上も前のことですから、驚かされますね。
また本書は、こうした国際比較に終わるだけではありません。最終章では、日本の政策に対する提言まで触れられています。たとえば、正確な母子家庭世帯の実数・実態の把握による支援計画、財源と理念を持つ施策の提案を述べている点などからは、根本的な問題と方向性をあぶり出すという学術書ならではの論点を学べるように思えます。
さらに編者の1人であり、東洋大学の教授でもある森田が「おわり」にで述べる本質的な指摘には、思わず目が覚まされる思いをするはずです。
「女性施策ではフェミニズムの視点が弱い。子どもの権利意識とフェミニズムの意識が低ければ、母子世帯が置かれている状態は推して知るべしのものとなる。いずれもこの国の人権意識の低さを物語っている」(本書より引用)
学術書的とはいえ、難易度が高い文章が続くわけではありません。本書でぜひシングルマザーについて学術的な知見を深めてみてください。