大人も楽しめる、構成が巧み過ぎる少女漫画
『11』 構成比:人生70%、ギャグ30%
11人の女性(うち1編は男性視点ですが)を描く1巻完結の連作短編集です。1話1話の質が高く、外れのない短編集になっています。
構成比は人生70%、ギャグ30%と書きましたが、本作の笑いは、笑わせにいくタイプのものではなく、一歩引いたシュールな笑いです。そのシュールな笑いの積み重ねによって、人生の深み、とでもいうべきものを表現している作品になります。
なぜ11人の女性をシュールに描いた短編集である本作が人生の深みを描くに至っているかというと、構成の巧みさゆえなんですね。読み返したくなること必至です。あまり書くとネタバレになってしまいますので、1巻だけだし騙されたと思って読んでみるかと思っていただけた方は、ここで記事を読むのをやめて、作品をお読みいただければと思います。
まだちょっと推しが弱い、と思う方は、下記のネタバレゾーンにお進みください。
- 著者
- いがわ うみこ
- 出版日
- 2015-02-24
11人の女性をシュールに描いた、と書きましたが、これだけでは本書の紹介としては不十分なのです。なぜなら、本書の肝は、11人の女性をシュールに描くことを通じて、ひとりの男の半生を描いていることだからです。
どういうことかというと、各短編の中心となる女性たちは、基本的にみな春義という男の関係者になります。同級生、家族、教師など、それぞれの視点から描かれる春義という男の半生が本書を貫く軸になっています。
はじめの短編ではその大ネタは明かされませんが、徐々にネタが割れてくるにつれて、深みを増し、シュールな笑いから人生の深みとでもいうべきものに軸足が移行していくのです。オチが秀逸な短編だなと思いながら読んでいた読者は、短編集の皮をかぶった長編であったことに気づいた瞬間、ページをめくる手を止められなくなるでしょう。
読み終えた後は、もう一度はじめから読み返したくなる方が多いと思います。
1巻で完結する、何度でも読み返せる作品です。少女漫画を普段読まないような大人の男性の方にもおすすめさせていただきます。
ベタ甘な少女漫画のおすすめをひとつ
『ショートケーキケーキ』 構成比:恋愛50%、青春40%、友情10%
この記事ではあまり恋愛がメインの少女漫画はとりあげていませんが、せっかくなので、恋愛が中心のベタ甘な作品もひとつ。
主人公の女子高生天は、高校まで片道2時間かけてバス通学していました。天自身はあまり苦に感じていませんでしたが、友人のあげはに下宿した方がいいと言われ、高校近くの下宿に一度こっそり体験宿泊ことになります。
あげはの下宿先は、男3人、女2人が下宿していて、女部屋にひとり空きがあるという状況。体験宿泊で居心地の良さを感じた天は下宿することになり……。
- 著者
- 森下 suu
- 出版日
- 2016-01-25
本作の軸は、天を中心とした三角関係。相手は、同じ下宿先に泊まっている理久と千秋です。この3人のキャラクターの魅力がそのまま『ショートケーキケーキ』の魅力と言ってもいいでしょう。
ヒロインの天は肝がすわっている男らしい女の子。裏表のない、クールでサバサバした性格が魅力的です。『ショートケーキケーキ』の作者森下suuの代表作『日々蝶々』のヒロインは学園の高嶺の花という設定でしたが、本作の天は普通にちょっとかわいい女の子というキャラクター。でも、そんなちょっとかわいいくらいの天が、読み進めていくうちにめちゃくちゃかわいいと思えてきてしまうのです。森下suuの物語運び、表現力の妙によるものでしょう。
三角関係、と書きましたが、ドロドロしたものでなく爽やかな三角関係です。爽やかさの理由は理久と千秋の友情にあります。ふたりともイケメンでモテますが、タイプは180度違います。女の子に優しく周囲に気を配るリア充系男子理久に対して、千秋は食事中も本を読み続けるほど読書好きの天然系男子です。
ふたりとも徐々に天に惹かれていくわけですが、そのことで仲が悪くなることはありません。千秋は天も理久も好きという感じで、ツンデレの理久は「(千秋と友達で)いられるか」とか言いながら心の中では千秋のことを友人だと思っています。この男の友情が、本作を男性読者にも読みやすい作品に仕上げているのです。
天が誰とくっつくのかわからない、というタイプのハラハラ系三角関係ストーリーではありません。恋愛が中心ではありますが、高校生が下宿で共同生活を送る青春も同じくらいしっかりと描かれているため、青春物語が好きな方にも刺さるであろう少女漫画になっています。
男女問わずおすすめできる作品になっていますので、気になった方は是非読んでみてください。
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これは人生のはなし
『これは恋のはなし』 構成比:人生50%、恋40%、小説家の苦悩10%
主人公は31歳の小説家です。そして、ヒロインは10歳の小学生です。
と書くとキワモノな感じがしますが、そんなことはありません。最初から最後までダレることない素晴らしい構成でした。11巻の間に、小学生のヒロインは中学生、高校生と成長していきます。その間に主人公との関係が変化していって……という話です。
タイトルにあるように『これは恋のはなし』なのですが、同時に人生の話でもあります。ただの恋愛漫画ではありません。小説もそうなのですが、本当に素晴らしい恋愛ものというのは、恋愛を描くだけにとどまらないものです。恋愛の表層をなぞるだけではなく、真正面から恋愛と向き合った時に初めて触れることのできるテーマを描いています。
すなわち、人はどう生きるかということです。
そして、生きていく上で大切なものは何かということです。
- 著者
- チカ
- 出版日
- 2011-04-07
ネタバレになりますが、もう少しこの物語の魅力を書かせていただきますと、この少女漫画には疑似家族の暖かさがあるのです。
ヒロインの小学生ハルカは、父親は海外勤務、母親は入院中のため、ひとりで暮らしています。そんなハルカと主人公のシンイチが出会い、物語は始まります。
2巻では、海外勤務をしていた父親が帰国して、自分がいない間に娘が怪しげな男と知り合いになっているということで、不審に思うわけです。その後、シンイチと対峙することになるわけですが、おそらくここで、1対1で対峙していたら、物語はこのようには展開しなかっただろうと思います。
シンイチとハルカの父親の対峙のシーンでは、シンイチの元同級生ふたり、サトミと大垣が同席します。そこでサトミが、シンイチを中心とした3人でハルカの保護者の役割を果たすことを提案するのです。
31歳になってもシンイチの家に頻繁に集まっている3人の関係が素敵だと思いますし、会って間もない小学生の保護者役を買って出てしまうところもまた素敵です。
3人の31歳の大人と10歳の小学生は疑似家族を形成し、そのなかでハルカは成長していきます。3人とハルカの関係は、保護者→歳の離れた兄妹→友人というような形で変化していくわけでして、その過程を丁寧に描くことで、人生とは何かということを表現しているように思えました。
21歳差の恋というだけで敬遠しないで欲しいです。この設定でなければ描けない物語がここにあります。