幸色のワンルーム(5) (ガンガンコミックスpixiv)
誘拐された少女と誘拐犯のお兄さん……お互いを心の拠り所にし「幸せ」を求めて生きる2人を描いた本作。「誘拐」のことを「救い」という少女と、壁一面に少女の写真を飾るも、彼女に手をかけることのないお兄さん。2人は結婚することを約束します。本心が読めない不気味な2人が、世の中から逃げ回り……ここに描かれているのは、歪な関係性と温かい彼女たちの生活。これは、愛なのでしょうか。 実写ドラマ化も予定されていたものの、大きな物議を醸した問題作。この記事では、そんな本作の魅力と、各巻の見どころをご紹介していきます。 スマホの無料アプリで読むこともできるので、気になった方はまずはそちらから読んでみるのがおすすめです。

作者・はくりが描く、誘拐された少女と、誘拐犯のお兄さんがともに過ごす日々。2017年より無料マンガサイトで連載されるやいなや話題となり、同年のWEBマンガ総選挙で3位に選ばれました。
家では虐待をされ、学校ではイジメやセクハラを受けていた少女が初めて幸せを感じたのは、誘拐された時でした。この事実がバレてしまえば地獄のような環境に逆戻りしてしまいます。
綱渡りの生活をしつつ、それを感じさせないような2人のやりとりに心を動かされるでしょう。
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2017-02-22
ちなみに本作は実写ドラマ化が予定されていたものの、その内容が「誘拐を助長している」として関東圏での放送が中止になった作品です。そのほかの地域では放送され、幸役を山田杏奈、お兄さん役を上杉柊平が務めました。
誘拐というセンセーショナルな設定を扱っているものの、傷ついた者、秘密を持った者がいびつな繋がりながらも互いに救われる様子を描いた内容とも感じられるのですが、あなたはどうお考えになるでしょうか?
この記事では、そんな問題作の魅力と各巻の見どころをお伝えしていきます。ネタバレを含むのでご注意ください。スマホアプリで無料で読むこともできます。
誘拐された少女は「幸(さち)」と名付けられました。自分のことをニュースとして取り上げているテレビを観ながら、誘拐犯である「お兄さん」に声をかけます。
「二人で警察と両親から逃げるゲーム!! もし逃げきれたら…私お兄さんと結婚する!!」(『幸色のワンルーム』1巻より引用)
会ったばかりの誘拐犯に結婚を提案するあたり、なかなか思い切った性格をしていることが見受けられますが、彼女にしてみれば暴力を振るう両親のもとにいるよりも、自分を傷つけない彼と一緒にいるほうがいいということなのでしょう。
簡単に過去を捨てる決断をできることから、これまでの生活がいかに酷いものだったか想像がつきます。
お兄さんはもともと、幸に一目惚れをし、盗撮をしていたストーカー。2人が過ごすワンルームの壁一面には、彼が撮った幸の写真が隙間なく貼られています。
自分の写真に囲ま荒れ、自分を取り上げたニュースを見ながら、自分を誘拐した人と過ごす……異常な状況です。
そんななか、幸がした提案をお兄さんは笑って受け入れます。
「結婚できるようにお兄さん頑張るね」(『幸色のワンルーム』1巻より引用)
とうてい叶えることができないような「結婚」を前提に、彼らの生活が始まりました。
ニュースで大々的に顔写真がとりあげられているため、幸は基本的に部屋から出ることはありません。しかし外でデートをしたいといえばお兄さんは連れ出してくれますし、部屋に監視カメラはついているものの縛られたり閉じ込められたりはしていません。ちなみに2人の間には想像されるような性的接触もありません。
つまり彼女は、自分の意思で誘拐犯の部屋にとどまっているのです。さて2人の関係は今後どのように変わっていくのでしょうか。
2人の普段の会話は、とても誘拐犯と被害者とは思えないようなものばかり。幸は遠慮なく自分の意見を伝え、お兄さんはそれにきちんと向き合います。
お兄さんの料理の腕前はかなりのもので、幸が食べたいと言ったものはたいてい手作りをし、暇にならないようにと映画をレンタルすることも。まるで家族や恋人みたいです。
どこかほのぼのとした印象を受けるのは、彼らが現実世界から目を逸らし、目の前の「今」しか見ていないからではないでしょうか。だからこそ「普通」でいられるのでしょう。2人ともこれまで「異常」な環境に身を置いていた分、この「普通」を大切にしたかったのかもしれません。
幸とお兄さんは、一緒に暮らすなかで多くの約束をします。いつ壊れるかわからないこの関係を続けるために、2人の間で約束は欠かせないものになっていました。
最初の約束は、「逃げ切って結婚するか、それが叶わなかったら一緒に死ぬ」というもの。これは物語の根幹になっているといってもいいでしょう。
その後彼らはことあるごとに「結婚」という単語を口にするようになります。2人が唯一、未来に希望をもって生きることができるキーワードなのかもしれません。
お兄さんはほかにも「幸は自分を大切にすること」「何かあったら自分が助けに行くこと」など多くの約束を口にしますが、そのうち「指切り」を使うようになるのです。初めての「指切り」は、幸が外でデートをしたいと言った時。
「僕から離れないこと 守ってくれる?」(『幸色のワンルーム』1巻より引用)
彼にとって、これは絶対に守ってほしいことだったのでしょう。幸はこの時に「指切り」の存在を知り、約束を守るためのおまじないだと教えられ、あらためて最初の約束にも「指切り」を求めるのです。
この時には「2人で逃げて結婚する」ということは、彼女にとって絶対に守らなけれならない約束になっていたのでしょう。
そしてお兄さんは、少しためらいながらも幸の求めに応じるのです。
曖昧な約束のうえで成り立っている2人の今後から目が離せません。
突然行方不明になってしまった14歳の少女。テレビのニュースでも報道されています。彼女がいるのは、自分が盗撮された写真が壁一面に貼られているワンルーム。誘拐犯の部屋でした。
少女は誘拐犯であるお兄さんの異常性を理解しながらも、虐待をする両親のもとに帰るよりはマシだと判断し、彼と一緒に過ごすことを決めるのです。
一方のお兄さんは、少女が快く誘拐されたことや逃げないことに戸惑いながらも、彼女が幸せに過ごせるように努力をしていきます。
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2017-02-22
ある日少女は、お兄さんに名前をつけてほしいと頼みました。
「「幸せ」って字を書いて幸 君が幸せになれるように…」(『幸色のワンルーム』1巻より引用)
ネーミングセンスがないと言って悩みつつ、彼はこう言いました。少女はこの名前を受け取り、それ以降「幸」と名乗るようになります。
2人での生活にも慣れたころ、幸の提案で外にデートをしにいくことになりました。しかしこの時、彼女をずっとイジメていた同級生と遭遇してしまうのです。
幸は以前の生活に戻る羽目になってしまうのではと不安に襲われ、とある行動に出ます。そしてこの行動が、お兄さんの隠していた本心を引っ張り出し……。
いつバレてしまうかわからず、常に綱渡り状態の2人の暮らしが始まりました。
並んでパンケーキを作るなど、穏やかな日々を送っていた2人。そんなある日、幸を誘拐した犯人だと名乗る男が、インターネット上にとある動画をアップしました。
それを見た幸は、動画のせいでお兄さんの立場が悪くなってしまうと怒りを露わにします。
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2017-07-22
動画を眺めているうちに、幸は映っている男が知り合いに似ていることに気づきました。ほかの動画も探し確信を得ます。自分はその男の居場所がわかる、存在を消すことができる……お兄さんとの幸せを壊されたくないあまり、彼女はある決意をするのです。
一方、幸がそんなことを考えているとは知らないお兄さんのもとに警察が訪ねてきて……。
2人の運命はどうなるのでしょうか。ドキドキの展開です。
動画男の登場で、幸とおにいさんはそれぞれこの暮らしが終わることを予見していました。
そろってワンルームに戻る帰り道、幸はお兄さんを連れて今は使われていない結婚式場に行くのです。今すぐ結婚式を挙げようと持ちかけました。
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2017-11-22
「ねえお兄さん ここで結婚式しよう!」(『幸色のワンルーム』3巻より引用)
まだ逃げ切ったわけではないので、お兄さんは動揺し、すぐには了承しません。
これまで幸は、ただそこにあるものを受け入れていました。現状以上を求めれば、この関係が終わってしまうと考えていたのです。しかし動画男の一件を境に、彼女はお兄さん自身に興味を持つようになっていました。
そんな幸に、お兄さんもこれまでに口にしなかったあることを問いかけます。そして自分自身のこともすべて話すことを決めました。
本名も含めすべてが謎だった「お兄さん」。彼はなぜ幸を誘拐し、そばに置こうと思ったのか……。
この話をすることで、2人の関係はどうなるのでしょうか。幸せがこのまま続くのか、気になるところです。
お兄さん本人の口より語られた、幸をストーカーし、誘拐した理由。彼にとって幸は愛でる存在でも、何よりも大事にしたいという存在でもなかったのです。
幸と出会う前、お兄さんは生きることの無意味さを感じていました。そのなかで出会ったのが「幸」。何に対しても無関心で冷めた彼女の視線に、自分の人生を重ねていたのです。そして同時に、苛立ちを感じる相手でもありました。
幸の写真以外で唯一貼ってあった「夕日」の写真。以前、夕日が好きなのかと幸に訊かれた際、彼は「嫌いだ」と答えていましたが、それと同じで、お兄さんが幸の写真を飾っていたのは好きだからではなく、嫌いだからだったのです。
最初は、いつか飽きるだろうと思っていたそうですが、いつの間にか部屋は幸の写真だらけに。そして無意識のように続けられていた行為から、彼女の傷が虐待によるものかもしれないと思い至り、彼は明確なストーキングを始めたのでした。
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2018-03-22
お兄さんはストーカを始めてから、彼女は自分と正反対の人間であることを知ります。死にたいと思いつつ、そんな勇気もなくただ毎日を過ごしていた彼。彼女には、明確に自殺する強い意志と、辛い日々から逃げたいという人間らしい気持ちを持っていたのです。
幸の自殺の意志を知ったお兄さんは、それを止められないかと考えました。
しかしそれは彼女のためといよりも、自分のため。学校でいじめられ、先生からはセクハラされ、家庭では虐待される。そうされることでしか見せない、幸の無関心な目を、どうしても再び見せてほしかったのです。
「彼女が前みたいに僕の嫌いな存在でさえいてくれれば
僕は自分自身を嫌わずにすむ」
(『幸色のワンルーム』4巻より引用)
お兄さんにとって幸は、自分を否定せずにすむ相手だったのです。お兄さんの話を全部聞いた幸は、それでも共同生活を続けることを提案します。お兄さんに対して、情を抱いているからだとは思いますが、それはお兄さんにもいえること。少なからず「利用」以外の理由があるはずです。
その理由を見つけるまでなら一緒にいる、と頷いたお兄さん。やっと本心でぶつかり会えた2人ですが、この「幸せ」な生活が終わる気配はすぐそこまで迫っていました。幸を探す探偵が、偶然知ったお兄さんに目をつけたのです。
はたして幸とお兄さんは、探偵の手から逃れることはできるのでしょうか。
すんでのところで、探偵の追っ手から逃げたお兄さんと幸。新しい生活が海の側のアパートの1室で始まります。
しかしギリギリに逃げたために、探偵たちに顔を見られてしまいます。マスクをしているとはいえ面が割れてしまい、さらに車のナンバーも覚えられてしまったためにそのまま後をつけられることに。
そして何と2人のアパートの横に探偵たちが張り込みを始め……。
幸色のワンルーム(5) (ガンガンコミックスpixiv)
2018年09月21日![]()
5巻では幸がさらに壊れていく様子が描かれます。過去のトラウマがフラッシュバックし、不安定になるのです。ようやく幸の笑顔の仮面の下を知り、2人の距離が近づくかと思いきや、過去の傷が彼女を他人から遠ざけます。
不安定になった幸は、信用していないお兄さんを信じるために、あるお願いをします。探偵2人が邪魔者だとわかった場合「お兄さんが彼らを殺してくれ」と。
不安定な生活に、徐々に暗い影が忍び寄ってきました。探偵たちの存在が2人の生活にどんな影響を与えるのでしょうか?
探偵である松葉瀬と八代に追い詰められ、絶体絶命の幸とお兄さん。「二人を殺して、信頼できるように行動で示して」という幸。この言葉は、お兄さんをどう突き動かすのでしょうか。
探偵から逃れるため、これまで住んでいたアパートを引き払い、海辺のアパートへと逃亡した彼ら。しかし追手はすぐそこまで迫ってきました。
2人の部屋の隣に引っ越してきた探偵2人組。ご挨拶と称してお兄さんに盗聴器を仕掛け、幸がお兄さんと共に行動していることを突き止めます。後がない幸とお兄さんは、2人の探偵を海へおびき出し殺害することを企てます。
探偵・松葉瀬を前に、お兄さんがとった行動とは……⁉
- 著者
- はくり
- 出版日
- 2019-02-22
遂に正面から相対した探偵とお兄さん。そこで松葉瀬が行った「とある提案」に、お兄さんがどう対応するのかが、この第6巻の大きなポイントとなっています。
2人だけだった世界に、松葉瀬という探偵が加わることで、この物語はどのような展開を迎えるのでしょうか。さらに加速する彼らの逃亡劇から、目が離せません。
歪ながらも2人が幸せを求める姿が切なくもあたたかい『幸色のワンルーム』。コミックスはWEB版に書き下ろしも加えられ、読みごたえ抜群です。ぜひチェックしてみてください。