青い暴走3
呉道に真っ向から立ち向かうユウ。対決は最終局面へ。

ユウは勝った。呉道にじゃない。大切な人たちを傷つけてしまうかもしれない恐怖に勝ったんだ。
恐怖に打ち勝って、過去を乗り越えて、ユウは呉道にむかって宣言したんだ。
何かするなら覚悟しろと。
自分を犠牲にするのではない。誰か他人を犠牲にするのでもない。
大切な人のためにユウが戦うように、ユウのために戦う人間もいるんだ。だから、大切な人のために戦うためには、自分も大切にしなくちゃいけない。
そういうことが、きっと少しは伝わったんだと思う。
気持ちを伝えるのは、言葉だけじゃない。
リョウスケが言ったように、おれがここに来たことで、ユウがひとりじゃないんだと思っていてくれたなら、と思う。
「学年全体巻き込んで戦争でもするってのか?」
ユウとおれが呉道と対立するのであれば、アキラは確実にからんでくるだろう。そうなったら、大規模な、それこそ戦争になる可能性もある。
「それはおまえが望む展開でもないだろ?」
呉道は自分にコントロールできない展開を嫌がる。不確定要素が入り込んだら、一歩引いて態勢を立て直すようなやつだ。昨日のホテルでの1件も、リョウスケとアキラという不確定要素が入り込んできたから、一度引いて、今日また仕掛けてきたのだ。
人数が多くなれば多くなるほど不確定要素は増える。アキラ派VS呉道派の全面戦争になったら、行きつく先は、アキラも呉道もコントロールしきれない泥沼だろう。
「そうなる前に、おまえが止めるだろ? 中学の頃みたいに」
中学時代の運動部会の内戦のことか。あの時も、結局しっぽはつかみきれなかったが、呉道が裏で糸を引いていたという話があった。
「おれに止められるかはわからないし、場合によっては止めないかもな」
「まぁでも、お互い、そうならない方がいいわな」
「そりゃな」
「となると、落としどころはこのあたりか」
「やけにあっさりしてるな」
ユウに何か言っても無駄だと思ったのか。このまま終わるのは、呉道らしくない気がした。もちろん、これで手打ちってことになれば、おれ的には特に問題はない。呉道を一発殴ってやりたい気持ちもあるが、それよりも、ユウがちゃんと決着をつけたことの方が遥かに大きい。冬川も自分から森下たちに立ち向かっていったし、内容的には俺たちサイドの勝ちと考えていいだろう。
しかし、それは希望的観測に過ぎなかった。
当たり前だ。呉道も手下たちの手前、ただでは引けない。おれたちになんらかのダメージを与えなくては、メンツが保てない。カリスマ性が損なわれてしまう可能性がある。
呉道はおれの目を見据え、指の関節を鳴らしながら、こう言った。
「じゃあ、今回の決着は、おれとおまえのタイマンってことでどうだ?」
「あっ、教頭先生だー」
「教頭せんせーい」
そう言って、教頭のところへ走って行く班員たち。
僕たちから50メートルほど離れたところを歩いていた教頭は、僕たちに気づいて足を止める。
薬師寺から唐招提寺へ続く一本道。ここを死守できなければ、僕たちの負けだ。
僕は班員たちと一緒には走らない。恥ずかしいとかそういうことではなくて、僕は走るようなキャラじゃないから。僕が走りながら、教頭せんせーい、とか叫んでたら、教頭に怪しまれるだろう。
走っていく班員たちの背を見ながら、僕はなんでこんなことやってんだろう、と冷静になってしまう。どこで道を間違えたんだ?
そもそも、この校外学習が始まった時、近鉄奈良駅に降り立った時は、村上、山下、呉道を重点的にマークして、円滑な校外学習運営をしようと考えたいたはずだ。その3人をマークするというのは、はからずもできてしまったわけだが、想定していた校外学習とまったく違うものになってしまっている。
そして、なぜか2日目の昼過ぎ、班別行動も終盤にさしかかった今、教師の邪魔をしようとしている。
何やってんだ、僕。
それにしても寒いな。さっきまで店内にいたのと、結構いろんなことがあって、気が高ぶっていたから寒いと感じなかったけれど、近くに誰もいなくなって、ひとりで歩いていると、冬の奈良の寒さを改めて実感する。雨が降っていたら、雪になるくらいの寒さだ。
班員たちの声が聞こえるくらいの距離になってきた。
「せんせい、偶然ですねー」
「運命ですねー」
「そこのそば屋うまいっすよー」
「せんせい、昼食べました?」
「これから僕たち法隆寺行くんですけど、一緒に行きませんか?」
「いざ進めやキッチン♪」
そういえば、今日は法隆寺に行かないといけないんだったな。完全に忘れていた。
「きみたち、何か隠してないか?」
鋭い。
教頭は去年まで僕たちの学年の学年主任をしていたが、僕は直接教頭と話したことは数えるほどしかない。教頭との面談を経験した生徒が言うには、冷静に諭してくるタイプらしい。ごまかそうとしても矛盾点を指摘してくるとか。
「何も隠してないですよー」
「まぁ、人間だれしも人に言えないことのひとつやふたつありますけど」
「しいて言うなら、熱い思いを胸に隠して生きてます」
「じゃあ、おれもそれ」
「おまえ、そういう言い方すると、おれのセリフが軽くなんだろ」
「いやだって、どうせ軽いセリフじゃん?」
「それっぽいシーンで言えば名ゼリフっぽくなるって」
「今そんなに重要なシーンでもなくね?」
「確かに!」
「確かし!」
僕たちにとってはここが正念場なはずなんだけど、重要なシーンじゃないのか?
いずれにせよ、このノリで40分は厳しそうだな。
「僕は法隆寺から来たんだ。これから唐招提寺を見回りに行かなきゃいけないから」
セルフレームのメガネのむこうから班員たちのやり取りを冷ややかに見つめながら、教頭は言う。
「唐招提寺はやめといた方がいいですよ」
「風水的に」
「そう、風水的に!」
「金運とか下がるらしいですよ!」
「恋愛運も!」
「待ち人来ないらしいですよ!」
だいぶ無理があるんじゃないか?
そんな班員たちを、教頭は冷静にあしらう。
「忠告ありがとう。でも、こう見えて僕は結婚してるから。恋愛運は必要ない」
そう言って、教頭は唐招提寺の方へ進もうとする。
万事休すか。
それにしても、さっきから松本が会話に絡んでこない。
「リョウスケ!」
聞き慣れない声が聞こえる。教頭の向こうから。
見ると、水色の服を着た女性とオレンジの服を着た男性。
昨日道案内をした外国人のカップルだ。
次回:1月30日6時更新予定
青い暴走3
2015年01月01日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。