青い暴走3
ユウの元にたどり着いたジュンヤに聞こえてきたのは呉道の言葉「私みたいなのを好きになるなんて、って話じゃないのか?」

呉道の言葉に混乱する。
ユウを好きってことか? はぁ?
昨日の、よりを戻すとかなんとかの続きか?
あれはおれを追い詰めるためじゃなかったのか?
呉道はおれがいることには気づいていないはずだ。だとしたら、今の言葉はガチ。
こいつ本気でユウとより戻そうとしてんのか?
「冗談としか思えないし、本気だとしても話になんない」
「ひどい言われようだな」
「あんた、私に何したか忘れたの?」
「だから、それは勘違いだって言ってるだろ」
「百歩譲って勘違いだったとしても、あんたと付き合う気なんてこれっぽちもないから」
「振られて、勘違いされて、また振られて、散々だな。ここまでおれをボコボコにする女はいねぇよ」
声のトーンから、呉道がニヤついているのがわかった。
「あんたのまわりにバカしかいないからでしょ」
「確かに。それは残念ながら否定できないな」
「わたしが言いたいのはひとつだけ。もう、何もしないで」
「奥山、要求っていうのは、対価なしには成立しえないんだよ」
「……その対価が、あんたと付き合うことだっていうの?」
「ザッツライト」
ダメだ。話がループしてる。終わりが見えない。
おれは不安だった。ユウが根負けしてしまうんじゃないかと。他に手段がないんだとしたら、ユウは自分を犠牲にするだろう。
でも、呉道とユウが付き合うことになったら、おれも犠牲者だ。ユウと別れることがツライし、ユウがツライ思いをしていることもツライ。
胸を張って言える。ユウがおれを好きなのの何倍も、おれはユウのことが大好きなんだ。ユウに嫌われたのなら、まだしょうがないと思えるかもしれないけれど、こんな風な別れ方は絶対に嫌だ。
ユウには悪いと思うけれど、これ以上呉道の好きにさせておくわけにはいかない。ユウをこれ以上追い詰めさせるわけにはいかない。
おれは看板の陰を出て橋を渡る。
橋のなかほどで、ふたりの姿が見えてくる。
ユウの背中と、呉道の表情が見える。
おれが口を開く前に、おれに気づいた呉道が言う。
「よう、村上。思ったより遅かったな」
「あの」
僕の思考を終わらせたのは、冬川の声だった。班員たちのアホなやり取りは、すでにBGMと化している。
「どうした?」
「村上さんは、大丈夫なんですか?」
それは僕には答えられないと思って、松本に目を向ける。
「ジュンヤちゃんなら大丈夫だよ」
松本は村上を信頼しているようだったが、冬川は、呉道のことを間近で見ていて、不安なのだろう。本当に呉道をなんとかできるのか。できないとしたら、またいじめられるんじゃないか。いや、今度はもっとひどくなるんじゃないかと。
「もし、ダメだったらどうするんだ?」
僕は冬川に代わって、冬川が本当に聞きたいであろうことを聞く。
「その時は、アキラちゃんが出てきて大ごとになっちゃうだろうね」
山下一派と呉道一派の全面戦争。考えたくもない。山下は、高校に入ってからほとんど活動していないとはいえ、中学運動部会の会長として名を馳せた男だ。声をかければ、おそらく数十人単位で生徒が集まるだろう。へたしたら100人以上。
そういう規模の集団が、学校という狭いフィールドで争う日常になってしまったら、間違いなくケガ人が出るだろうし、関係ない生徒まで巻き込まれるだろう。学校に来なくなる生徒もいるかもしれない。へたをすれば退学になるやつも出てくるだろう。他にも、僕が想定しえない問題が噴出してくるだろう。
絶対に阻止しなくてはならない。
「そういう状況になったら、松本はどうするんだ?」
「ハニーと一緒にいるかな」
「山下たちにつくんじゃないのか?」
「うーん、どっちかっていえばそうなんだけど。そういう規模の話になると、もうおれがどうこうとかいう話じゃなくなってきちゃうからね。なんかもう勝手にみんな暴走してるって感じで。どういう風に関わっても、結局どっかにしこり残しちゃうしね。極力関わんない方がいいし、そもそもそんなの無い方がいいし、始まっちゃったら早く終わらせた方がいいのよ。でも、おれにはキレちゃったアキラちゃんを止めることはできないからね。それはジュンヤちゃんの仕事で、だから、おれはジュンヤちゃんサイドってことになるのかな。ハニー守りつつ、ジュンヤちゃんのお手伝いする感じ」
「……なんだか経験があるみたいな言い方だな」
「近いようなことはあったよ。中3の時に。まぁ、あれは半分内戦みたいな感じだったけどね」
「内戦っていうのは、運動部会でってことか?」
「そう。あの時はねー。だいぶ焦ったよね。おれもアキラちゃんとケンカ真っ最中だったし。いやぁ、恥ずかしい。ホントあの時はジュンヤちゃんに迷惑かけたなぁ」
僕の知らない話だった。僕がそういう事情に疎いのか、それともあまり知られていない話なのか。いずれにしても、これから生徒会長を目指すにあたって、校内の情報にはアンテナを張っておかなくてはならない。
生徒会長は学校全体を監督、運営しなくてはならない。同学年の情報を把握していないようでは全然ダメだ。
でも、僕が知らないということは、多くの人が巻き込まれるような大ごとにはなっていないということだ。中3当時、学年の運動部員は300人くらいいたはずだ。その人数が内戦状態にあったのを大ごとになる前に村上はおさえたのか。
本当に? あの村上が?
村上は一般に、山下の相方と見られているが、どちらかというと山下の方が格上と見る生徒が多い。村上単体での話はあまり聞かない。山下あっての村上というイメージだ。
しかし、松本の話が本当なのであれば、そのイメージは間違っていることになる。
争いは始めるよりも止める方が難しいのだ。
向かいの席の松本が、音を立てて息を吸う。
「やってくれたねぇ、クレミー」
松本がスマートフォンを見ながら言う。
「どうした?」
「……ちょっちめんどくさくなるかもね」
次回:1月28日6時更新予定
青い暴走3
2015年01月01日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。