青い暴走3
冬川を無事に解放したジュンヤはユウを探し、唐招提寺を駆ける。

走って行く冬川の向こうに、リョウスケの姿が見えた。頭の上でピースサインをしている。
おれは手を振ってこたえる。サンキュー、リョウスケ。
「おまえらはここから動くなよ。動いた瞬間、リョウスケたちが来るからな」
まったく打ち合わせをしていないが、森下たちからすれば、リョウスケの姿が見えた時点で、おれの言葉を疑いもしないだろう。
さっきまでの一連のやり取りで、ひとつ収穫があった。
おれが唐招提寺の奥に進もうとした時、森下は冬川を人質に取ったのだ。まず間違いなく、呉道は寺の中にいるだろう。
何ができるかはわからない。ユウが、おれが来ることを期待しているのかもわからない。いや、おそらく来て欲しくないだろう。そもそもユウはひとりで呉道のところに行ったんだ。おれに負担をかけないために。これは自分の戦いだからと。
でも、おれはあえてこう思う。
ユウがひとりで戦ってるのに何もできない方が遥かに負担で、そっちの方が遥かにつらいんだよ。そういうことをちゃんとユウに伝えようと思う。ちゃんと正面からユウの目を見て、伝えようと思う。
幅の広い石段を跳ぶようにして駆けのぼる。のぼりきったところはT字路になっていて、左右に長い道が続いている。どちらかと言えば右の方が長い。左は行き止まりまで見える。右は森みたいになっていて、薄暗くて、一番奥がどこまでなのかわからない。
鑑真和上御廟は右。そして雰囲気的に、呉道がいそうなのは右だ。
おれは森の中の小道を駆ける。
日の光が薄れて、肌寒くなる。
すぐに鑑真和上御廟の入口の門が見える。この中に呉道とユウがいるのだろうか。
門の手前で足を止めて、顔半分だけ出して、中の様子をうかがう。
まっすぐ小道がのびている。道の両脇には苔むした林が広がっている。
見える範囲に呉道とユウの姿はない。他の観光客の姿もない。
木が邪魔で、奥の方が見えないけれど、むこうからは見えるかもしれないような感じの場所だ。
高さ10センチほどのところに張られている縄を飛び越えて、苔むした林に足を踏み入れる。たぶん入っちゃいけないんだろうけどしょうがない。
左に見える一際太い木を目指して走る。木の陰に隠れて、前方を確認。
まだふたりの姿は見えない。
前方に見える看板のところまで走り、看板の陰に隠れる。
看板の横の橋を渡った先には灯篭がある。さっきまでの林は、針葉樹と言うんだったか、葉があまりないタイプの木だったけれど、橋のむこうにある木々は、葉が上に下にと手を広げていて、一層視界を遮っている。
「私をからかってるの」
ユウの声だ。強く張っているユウの声を聞いて、ひとまず安堵する。
すぐにでも飛び出していきたい気持ちをおさえ、看板と木の陰に身を隠しながら様子をうかがう。
「さっきから、本気だって言ってるだろ」
余裕をもった呉道の声。
「からかってないんだとしたら、頭がおかしいとしか言えない」
「そんなに自分を卑下するのは、よくないと思うぞ」
「卑下なんかしてない」
鋭いユウの言葉。
「私みたいなのを好きになるなんて、って話じゃないのか?」
……はぁ?
「冬川ちゃん、クレミーとユウちゃんは、あの中にいるんだよね?」
「はい、たぶん。その、ユウって人かどうかはわからないですけど」
呉道がいるなら、間違いなく奥山も中にいるだろう。あとは村上しだいだ。村上&奥山VS呉道。状況はそんなに悪くないはずだ。
「クレミーなんか言ってた?」
「なんか、っていうのは?」
「ユウちゃん来たらどうしろとか」
「いえ、とくには」
「そっかぁ」
松本は腕を組んで、天井を見上げる。
「まずい展開なのか?」
松本の様子に、僕は少し不安になって聞く。
「まずいってわけじゃないんだけど。ちょっと腑に落ちないことがいくつかね」
「腑に落ちないって何が?」
「どうしてクレミーは、ああいうフォーメーションにしたのかなぁって」
「フォーメーションっていうのは、金堂の前に7人配置してとかそういうことか?」
「そう。だって、クレミーはおれたちのこと警戒してるわけでしょ? 昨日はしてやられてるわけだし。で、唐招提寺ですれ違ってもいるわけで、だとしたら、おれたちが戻ってくる可能性も考えて作戦立てるよね、普通」
「それは、そうかもな」
「だったらもっとうまいやり方はいっぱいあって、入ってすぐわかるところに配置したりはしないでしょ。たとえば、入口からは見えないけど、あっちからは入口が見える場所にひとりかふたり配置して、うちの学校の生徒が来たらクレミーに電話させる。で、他の班員は一緒にユウちゃんを追い詰める。その方がクレミー的にはいい気がするんだよね」
確かに。あの班員の配置は、呉道らしくないかもしれない。
「単純に、呉道がそこまで頭が回らなかったってことは……ないよな」
「うん。だって、それならとっくに教師に尻尾つかまれてるだろうし。むしろ今回みたいなリスクマネジメントとかは、クレミーの得意分野なはずだよ」
「そうだよなぁ。だとしたら……あの配置にした理由が何かあるはずってことか」
「ビンゴ」
松本はおれにむかって、指で作ったピストルをむける。
呉道があの配置にした理由。
「奥山を、自分の手で負かしたかったとか」
「うーん。なんかしっくりこないんだよね」
もし、呉道が何か別の仕掛けをしていて、この状況すら想定していたとしたら。
さすがに呉道でも、そこまではしないと思うが。もし。
次回:1月27日6時更新予定
青い暴走3
2015年01月01日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。