【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第26話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.25

冬川を無事に解放したジュンヤはユウを探し、唐招提寺を駆ける。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

連載第1回はこちら


走って行く冬川の向こうに、リョウスケの姿が見えた。頭の上でピースサインをしている。

おれは手を振ってこたえる。サンキュー、リョウスケ。

「おまえらはここから動くなよ。動いた瞬間、リョウスケたちが来るからな」

まったく打ち合わせをしていないが、森下たちからすれば、リョウスケの姿が見えた時点で、おれの言葉を疑いもしないだろう。

さっきまでの一連のやり取りで、ひとつ収穫があった。

おれが唐招提寺の奥に進もうとした時、森下は冬川を人質に取ったのだ。まず間違いなく、呉道は寺の中にいるだろう。

何ができるかはわからない。ユウが、おれが来ることを期待しているのかもわからない。いや、おそらく来て欲しくないだろう。そもそもユウはひとりで呉道のところに行ったんだ。おれに負担をかけないために。これは自分の戦いだからと。

でも、おれはあえてこう思う。

ユウがひとりで戦ってるのに何もできない方が遥かに負担で、そっちの方が遥かにつらいんだよ。そういうことをちゃんとユウに伝えようと思う。ちゃんと正面からユウの目を見て、伝えようと思う。

幅の広い石段を跳ぶようにして駆けのぼる。のぼりきったところはT字路になっていて、左右に長い道が続いている。どちらかと言えば右の方が長い。左は行き止まりまで見える。右は森みたいになっていて、薄暗くて、一番奥がどこまでなのかわからない。

鑑真和上御廟は右。そして雰囲気的に、呉道がいそうなのは右だ。

おれは森の中の小道を駆ける。

日の光が薄れて、肌寒くなる。

すぐに鑑真和上御廟の入口の門が見える。この中に呉道とユウがいるのだろうか。

門の手前で足を止めて、顔半分だけ出して、中の様子をうかがう。

まっすぐ小道がのびている。道の両脇には苔むした林が広がっている。

見える範囲に呉道とユウの姿はない。他の観光客の姿もない。

木が邪魔で、奥の方が見えないけれど、むこうからは見えるかもしれないような感じの場所だ。

高さ10センチほどのところに張られている縄を飛び越えて、苔むした林に足を踏み入れる。たぶん入っちゃいけないんだろうけどしょうがない。

左に見える一際太い木を目指して走る。木の陰に隠れて、前方を確認。

まだふたりの姿は見えない。

前方に見える看板のところまで走り、看板の陰に隠れる。

看板の横の橋を渡った先には灯篭がある。さっきまでの林は、針葉樹と言うんだったか、葉があまりないタイプの木だったけれど、橋のむこうにある木々は、葉が上に下にと手を広げていて、一層視界を遮っている。

「私をからかってるの」

ユウの声だ。強く張っているユウの声を聞いて、ひとまず安堵する。

すぐにでも飛び出していきたい気持ちをおさえ、看板と木の陰に身を隠しながら様子をうかがう。

「さっきから、本気だって言ってるだろ」

余裕をもった呉道の声。

「からかってないんだとしたら、頭がおかしいとしか言えない」

「そんなに自分を卑下するのは、よくないと思うぞ」

「卑下なんかしてない」

鋭いユウの言葉。

「私みたいなのを好きになるなんて、って話じゃないのか?」

……はぁ?

鑑真和上御廟入口

原島真蔵SIDE

「冬川ちゃん、クレミーとユウちゃんは、あの中にいるんだよね?」

「はい、たぶん。その、ユウって人かどうかはわからないですけど」

呉道がいるなら、間違いなく奥山も中にいるだろう。あとは村上しだいだ。村上&奥山VS呉道。状況はそんなに悪くないはずだ。

「クレミーなんか言ってた?」

「なんか、っていうのは?」

「ユウちゃん来たらどうしろとか」

「いえ、とくには」

「そっかぁ」

松本は腕を組んで、天井を見上げる。

「まずい展開なのか?」

松本の様子に、僕は少し不安になって聞く。

「まずいってわけじゃないんだけど。ちょっと腑に落ちないことがいくつかね」

「腑に落ちないって何が?」

「どうしてクレミーは、ああいうフォーメーションにしたのかなぁって」

「フォーメーションっていうのは、金堂の前に7人配置してとかそういうことか?」

「そう。だって、クレミーはおれたちのこと警戒してるわけでしょ? 昨日はしてやられてるわけだし。で、唐招提寺ですれ違ってもいるわけで、だとしたら、おれたちが戻ってくる可能性も考えて作戦立てるよね、普通」

「それは、そうかもな」

「だったらもっとうまいやり方はいっぱいあって、入ってすぐわかるところに配置したりはしないでしょ。たとえば、入口からは見えないけど、あっちからは入口が見える場所にひとりかふたり配置して、うちの学校の生徒が来たらクレミーに電話させる。で、他の班員は一緒にユウちゃんを追い詰める。その方がクレミー的にはいい気がするんだよね」

確かに。あの班員の配置は、呉道らしくないかもしれない。

「単純に、呉道がそこまで頭が回らなかったってことは……ないよな」

「うん。だって、それならとっくに教師に尻尾つかまれてるだろうし。むしろ今回みたいなリスクマネジメントとかは、クレミーの得意分野なはずだよ」

「そうだよなぁ。だとしたら……あの配置にした理由が何かあるはずってことか」

「ビンゴ」

松本はおれにむかって、指で作ったピストルをむける。

呉道があの配置にした理由。

「奥山を、自分の手で負かしたかったとか」

「うーん。なんかしっくりこないんだよね」

もし、呉道が何か別の仕掛けをしていて、この状況すら想定していたとしたら。

さすがに呉道でも、そこまではしないと思うが。もし。


次回:1月27日6時更新予定

第27話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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