【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第25話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.24

ジュンヤは冬川を助けるため木刀を振りかぶり……。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

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玉砂利を踏みしめ、前に跳ぶ。

一度の跳躍で、森下との間はほとんどなくなる。あと一歩踏み出して木刀を振れば、確実にノックアウトできる。

おれは木刀を振りかぶる。

森下は冬川をつかんでいた手を離し、頭の上に両手をかざしてガードする。

木刀を森下の手に当たる寸前で止め、そのまま森下に体当たりする。

のしかかるように玉砂利の上に崩れ、木刀が手から離れる。

他の班員と冬川は一歩も動いていない。

「冬川、走れ!」

冬川は体を浮かしかけるも、走りださない。

「戦わなかったら一生弱いままだぞ。強くなろうとするやつだけが強くなれんだよ!」

動かない冬川に他の班員たちが詰め寄る。

おれは森下から離れ、他の班員たちに向かっていく。

「見捨てるんじゃなかったのかよ」

班員たちの動きが止まる。

「徒党組んで調子乗ってるやつらは大嫌いなんだよ。おまえらを全員倒すのに、1分はいらない」

班員たちに一歩詰め寄る。

背後で立ちあがる音がする。

振り返る。

立ちあがったのは森下。

挟まれたか、そう思った次の瞬間。

「うぁぁぁ」

冬川が木刀を振りあげて、こちらに向かって走ってくる。

おれの横を駆け抜け、班員たちに向かっていく。

道をあけるように班員たちは飛び退く。

冬川はそのまま、門の方へ走り去っていった。

唐招提寺

原島真蔵SIDE

「冬川ちゃん、もう大丈夫だよ」

木刀を手に門を駆け抜けてきた冬川の肩をつかんで、松本は言う。

冬川は木刀を両手でつかんだまま下におろす。

門の受付にいた唐招提寺のスタッフが、受付から出てきてこっちを見ている。

僕が門のところまで行って、大丈夫だから気にしないでくださいと言うと、スタッフは僕を見て、わかりましたと言って、受付に戻っていった。

松本は冬川を門前食堂の中にいざなう。

松本に肩を抱かれたまま、冬川は木刀を握り締めて歩いていく。

「よう冬川、カレーライスのカレー抜き食うか?」

「それただのライスだろ」

「いや、微妙にカレーが付着してるぞ」

「逆に嫌だろ。普通のライスのがまだマシだ」

「じゃあこっちのカレーうどんのうどん抜き食うか?」

「おまえ、うどんだけ食ったのかよ。カレーのせた意味ないだろが」

「いや、おれ、今日の服白いしさ」

班員たちのアホなやり取りを冬川は立ったまま見ている。

「冬川ちゃん座んなよ」

松本が隣のテーブルからイスを引っ張ってくる。

冬川はイスに腰をおろす。木刀は手に持ったままだ。

「木刀、欲しいならあげるよ?」

松本の言葉に、冬川はハッとした表情になる。木刀を持ったままなことにようやく気づいたみたいだ。首を横にフルフルと振る。

松本は冬川から木刀を受け取る。

「昨日買っといてよかったぁ」

松本は木刀をなでている。

「松本くんの、何ですか?」

冬川がおそるおそるといった感じで尋ねる。

「そだよ。ジュンヤちゃんに貸したげたの。それにしても、冬川ちゃん頑張ったねー」

「はい。いや、えっと、あの、森下、くんが、木刀取ろうとしてて、村上、さんが叩かれるかもしれない、って思って、気がついたら木刀拾ってて、怖くなって走ってました」

森下はくん付けで、村上はさん付けなのか。よく考えたら、村上は違うクラスで、冬川は転校してきてからまだ1年も経っていない。村上のことをさっき初めて知ったとしても不思議じゃないだろう。中学の頃ならまだしも、高校に入ってからの村上は割とおとなしくしていたから。

「ジュンヤちゃんに何か言われたの?」

松本の言葉に冬川は首をかしげる。

「ジュンヤちゃんってのは村上のことな」

僕が注釈を加える。

「村上さんは、僕に、強くなれって。僕は、ひどいことを言ったのに、それでも守ろうとしてくれて。木刀、拾ったら、気のせいかもしれないですけど、強くなれた気がして」

「それは気のせいだよ」

松本が言う。

おいおい、と思うが、僕は何も言わない。何も考えなしにこういうことを言うやつじゃないことは、昨日と今日で充分わかっている。

おそらく想定外であったろう言葉にかたまっている冬川に向かって、松本は続ける。

「木刀持っても、金属バット持っても、ピストル持っても弱い人は弱いの。おれが木刀貸してなくても、ジュンヤちゃんはひとりで冬川ちゃんを助けに行っただろうし、冬川ちゃんはこうやって走って来たと思うよ。展開は少し変わったかもしれないけどね」

松本はそう言って、歯を見せて笑う。

「まぁでも、この木刀が、冬川ちゃんが強いって思えるきっかけになったなら、それは、すごく素晴らしいことだよね。700円分は回収できたかな」

松本は木刀を最後にひとなでして、バッグにしまう。

冬川は、ひざの上でこぶしを握り締め、くちびるを噛んでうつむいている。

松本の言葉を消化しようとしているのだろう。

誰も声を出さない、久方ぶりの静寂。

静寂を破ったのは、アホな班員の空気の読めない一言だった。

「カレーうどんの残り汁に、ライス入れたらいんじゃね?」


次回:1月26日6時更新予定

第26話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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