【連載小説】「ロマンティックが終わる時」第24話【毎朝6時更新】

更新:2018.1.23

冬川を人質に取られ、とうの冬川も逃げる気がなく、追い詰められるジュンヤ。

1991年生まれ 神奈川県横浜市出身 早稲田大学文学部卒 2014年から電子書籍作家として活動を開始する。 いろんなウェブメディアで物書き、編集者として活動中。 「21世紀に書かれた小説のなかで最も完璧に近いと思うものは?」という質問には、鷺沢萠の「ウェルカム・ホーム!」を挙げる。
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村上淳也SIDE

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おれは動けなかった。

ここで冬川を見捨てることもできるだろう。でも、それだとおれが来た意味がない。へたしたらマイナスになりかねない。

冬川が何かされたとなれば、ユウは責任を感じるだろう。ユウがひとりでも勝てる策を持っていた場合、おれが来たことは、冬川を傷つける結果にしかならないことになる。冬川を傷つけないというのは、ユウを助けに行く前提条件だ。

「森下、おまえ、おれとアキラを敵にまわすってことだぞ?」

「おまえこそ状況を考えろよ。冬川だけじゃなくて、奥山もこっちにいるんだぜ?」

森下の言葉を聞いて、他の班員たちの顔に笑みが浮かびあがってくる。徒党を組んで少数を狙うやつら特有の、胸くそ悪くなる表情。

こいつら、完全に麻痺してやがる。自分の班の冬川をどうこうするなら、まだ言い訳の余地があるにしても、他の班のユウに、しかも女子に何かするとしたら、注意警告とかじゃ済まない。間違いなく停学以上、へたをすれば退学の可能性だって出てくる。

こいつらを麻痺させたのは呉道だ。心理的なハードルを下げて、暴力を振るうことをいとわない集団を作り上げる。今だって、目の前のやつらは自分達が何をしているか、何をしようとしているのかわかっていないのだろう。

1年前の、呉道と出会う前のこいつらであれば、同級生を人質に取るなんてことはできなかったはずだ。曲がりなりにも私立の中高一貫校。退学になるやつなんてほとんどいない学校だ。金髪を逆立てて、ピアスをして、カツアゲしてみたいな不良はいない。

呉道の存在は、羊の群れの中にいる狼のようなものだろう。呉道の場合、羊の皮をかぶるのがものすごくうまい。そして、必要に応じて、狼の本性を現す。さらに、狼1匹でも厄介なのに、まわりの羊を狼にする。いや、正しくは、羊に対して、おまえらは狼だと暗示をかける。狼の皮をかぶせる。

まわりのやつらは、狼の皮を剥がれて初めて、自分が羊であったことに気がつく。そして、その時には、もう遅い。白かった羊毛は、黒ずんでしまっている。

昨日は東大寺の前でトラぶった時にアキラの姿を見ただけでブルっていたやつらが、アキラに対する恐怖を乗り越えてきているのだ。それはただ単に恐怖から目を遠ざけているだけの現実逃避なのだけれど、この場においてはどちらであっても大差はない。

おそらく、冬川をリョウスケに連れて行かれた後、呉道は班員たちに何か言ったのだろう。もしくは、何かをした。おれがここに来た当初は驚きによって軽いパニック状態に陥っていた班員たちも、時間を経たことで落ち着きを取り戻したということだろうか。

そして、呉道の指示通りに、冬川を人質に取っている。

森下が冬川の腕をひねり上げていることで、先ほどまでとはまったく違う状況になってきた。

まず、知らない人間が見た時に、明らかにトラぶっているように見える。

さっきまでであれば、一緒に校外学習をしているように見えたかもしれないが、今は、ケンカ寸前のピリピリした空気が漂っている。

少し先には売店があるし、今はまわりに他の観光客がいないが、いつ次の観光客が来るかわからない。観光客じゃなくても、寺のスタッフが見に来る可能性だってある。

そして、はたから見た時に、危険人物の筆頭として見られるのは間違いなくおれだ。180を超える身長のやつが、木刀を片手に立っているのだ。

現状維持をしていては、いずれピンチに立たされる。いや、すでにだいぶピンチだ。何の策もないまま、冬川を人質に取られているわけだから。

ここから森下に飛びかかって、冬川を解放することはおそらく可能だろう。しかし、冬川自身に逃げる気がなければ意味がない。

「そんなことされてても、こいつらから離れないのかよ」

冬川を説得する。そうしなくては道が開けない。

冬川はおれを睨む。

「……きみには、わからない」

ってか、おれ助けようとしてるはずなのに、なんで睨まれてんだよ。おかしくないか? おれが冬川を捕まえるように指示した黒幕みたいじゃねぇかよ。ってか、事情知らない人が冬川のセリフだけ聞いたら、そう勘違いしてもおかしくない。手をひねり上げられながらも、木刀を持つ不良に抵抗する男子、冬川。

「わからないって、何がだよ」

「……きみみたいに、強い人間には、弱い人間の気持ちなんて、わからない」

色々と思うところはあったが、とりあえず言えるのは、むかつく。

「わかんねぇよ。そうやっていいようにされて、腕ひねってるやつじゃなくて助けようとしてるやつに文句つけるやつの気持ちなんてわかんねぇよ。甘えんな」

おれは森下に向かって木刀を構える。

「マジかよ、おい」

森下は一歩あとずさる。

「冬川、一度だけチャンスをやる。別に逃げたくなかったら逃げなくていい。その代わり、おまえが逃げないなら、おれはおまえを見捨てていく」

唐招提寺

原島真蔵SIDE

「松本、おまえはひどいやつだ」

「そうだぞ。無理なら期待なんてもたすんじゃねぇ」

「あぁ、花上」

「北川のメガネ……」

「おまえは反省しろ」

「面会行ってやんねぇからな」

「そんなぁ」

班員たちのアホなやり取りを聞きながら、僕は村上の行動を注視していた。

村上が木刀を構える。

「おっ、始まったねぇ」

松本が隣で楽しげな笑みを浮かべる。

「始まったねぇじゃねぇよ。あれまずいだろ。木刀とかケガ人出るだろ」

「出るかもねぇ」

ダメだこいつ。話になんねぇ。

僕は席を立って、唐招提寺に向かおうとする。

「シンちゃん座って」

真剣なトーンの松本の声。

「ケガしてからじゃ遅いだろが」

「そうだね。ケガしてからじゃ遅いね。でもね、賭けてもいいけど。大したケガ人は出ないよ」

「……どうしてそう言い切れる」

「ジュンヤちゃんが木刀構えたから」

「どういうことだよ」

「だって、ジュンヤちゃん別に剣道経験者じゃないんだよ。中学時代野球部だし。素人なら、わざわざ構えるより、予備動作なしで飛びかかった方がいいでしょ」

言われてみれば確かに。

「じゃあなんで村上は木刀構えてるんだよ」

「すぐにわかるよ」

そう言うと松本は、視線を僕から遠くの村上に移した。


次回:1月25日6時更新予定

第25話

青い暴走シリーズ一覧

青い暴走3

2015年01月01日
大場諒介
KDP

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  • 青い暴走

    高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。

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