青い暴走3
「放って、おいて欲しい」。冬川の意外な言葉に戸惑うジュンヤ。

「放っておいて欲しいって……」
いやだって、これから何されるかわかんないんだぞ。もしかして冬川もグルなのか? 呉道たちに拘束されているフリをして、おれとユウを脅すための。
「冬川はこう言ってるぜ」
森下の腹が立つ表情。ニタニタした笑みが顔中に広がっている。おれが言葉を失っているのが、愉快でならないみたいだ。
冷静に。挑発に乗ったらダメだ。考えられる可能性を整理しよう。
冬川が呉道とグル。
冬川が呉道たちに脅されていて、おれの指示に従うと後でひどい目に合う。
大きく分けてこのふたつだろう。
でも、直感的にひとつ目は違うような気がしていた。冬川の表情から、呉道とグルな感じはしてこないし。それに、仮にグルだとしたら、リョウスケが見破っているだろう。
ふたつ目の可能性だとするなら、おれがしなくちゃいけないのは、冬川の不安を取り除くことだ。
「呉道に脅されてるのか? でも、リョウスケたちが同じクラスにいるだろ? 昨日だって助けてくれたはずだ。こういうことがあったら、あいつらは今後もきっと守ってくれる」
リョウスケが冬川を呉道に返したのは、冬川に放っておいて欲しいと言われたからなんじゃないかと思った。そういうやつを無理に引き留めるようなことをリョウスケはしない。
「……助けて欲しいなんて言ってない」
息をため、一気に吐き出すように冬川は言う。
めんどくせぇ。なんだこいつ。おれにどうして欲しいんだよ。
いや、放っておいて欲しいのか。しょうがない。押してもダメなら引いてみるか。
「わかった。そのことについては何も言わない。その代わり、おまえら全員ここから動くなよ」
呉道とユウはどこにいるのだろう。ふたりが一緒にいるのはほぼ間違いない。でも、寺の中にいると決まったわけではない。
ユウが唐招提寺方面のバスに乗ったという仮説は外れていないはずだ。時刻表とユウが離脱した時間。それに法隆寺周辺の状況から考えれば、自然にその仮説になる。
法隆寺から唐招提寺までバスで30分以上。その間にはバス停がいくつもある。そのどこで降りたかはわからない。冬川が唐招提寺にいるから、唐招提寺だろうとリョウスケが予想しただけだ。
おれがここに来るまでしていた想像は、ユウを呉道たち8人が囲んでいるという最悪な状況だった。しかし、ここには呉道以外の班員7人がいる。
ここに自分以外の班員を残して、寺の外に出たという可能性も考えられる。
だとすれば、どうしてここに班員たちを残したんだ?
冬川に仕掛けられた発信機に気がついたのか?
こいつらはおとりなのだろうか?
いやでも、こいつらがおとりなんだとしたら、わざわざ唐招提寺にいさせる理由がない。発信機に気がついたのであれば、全然違うところ、それこそ昨日行った新薬師寺とかそっちの方に誘導した方がいい。
それに、おれを見た時の森下の驚いた様子から考えるに、少なくとも目の前のやつらは発信機に気づいていない。呉道だけが気づいていて、味方にも言わないでおいている可能性もあるけれど、その可能性は低いだろう。
10中8,9、発信機には気づかれていない。
だとしたら、ここに班員たち7人を待機させていた意味は?
見張り。何の?
おれやアキラにはすでに見張りがついていた。だとすれば、おれたち以外の不確定要素の侵入を阻むための見張りだ。
呉道とユウは境内のどこかにいる。
パンフレットの境内略図を見る。
3分もあれば探せるはずだ。
左に見える戒壇の近くに人の姿はない。
境内略図をもう一度見る。
ここのすぐ近くということはないだろう。離れていた方が、何かあった時に時間の余裕ができる。
ここから一番離れているのは、北東にある鑑真和上御廟。唐招提寺の最深部。
とりあえず、ここを目指して、途中探しながら行こう。
おれは玉砂利を蹴って、班員たちの横をすり抜ける。
「待てよ村上」
声がして、左斜め後ろに振り返る。
「おまえがいなくなったら、こいつはどうなるかわからないぜ」
森下が冬川を後ろ手にひねり上げている。
冬川の表情が苦痛にゆがむ。演技じゃない。
状況が動いたようだ。
走り出そうとした村上が足を止める。
森下が冬川に何かしているようだ。冬川の姿勢が崩れている。
「もしもしアキラちゃん?」
松本は電話をかけている。相手は山下みたいだ。
「今大丈夫? あっ、そうなの。歩いてんのね。じゃあ、あと20分くらいかな」
歩いていて、あと20分ということは、郡山駅から近鉄郡山駅の間だろう。村上を追いかけてきたようだ。
「んとね。今、ジュンヤちゃんが頑張ってるよ。うん。まぁ、なんとかなるんじゃない?」
さらに劣勢になってる気がするのは僕だけなのだろうか。
「おれ? おれは唐招提寺の前にいるよ。ジュンヤちゃんが見えるとこ。別に何もしなくて平気でしょ?」
松本が電話をしている横で、他の班員たちはメニュー表を見ている。
「寒いし、やっぱうどんじゃね?」
「でもさっきそば食ったばっかだしなぁ」
「じゃあ、カレーとうどん頼んでカレーうどんにしよう」
「それだとライス残んねぇか?」
「はっ! 言われてみれば!」
「じゃあコロッケ頼めばいんじゃね?」
「確かに!」
「確かし!」
村上たちの様子など一顧だにせず、松本の電話にも興味がないフリーダムな状態。
「うーん、まぁ、それはアキラちゃんに任せるけどさ。でも、アユミちゃんとか澄香ちゃんもいるんだから、あんまり前線に行っちゃだめだよ。あっ、なんならアユミちゃんと澄香ちゃんはうちの班に合流しよっか」
ガタン、という音がして、班員たちが松本の方を一斉に見る。
「澄香ちゃんというのは、花上のことだな」
「松本、必ずミッションを成功させるんだ」
「しかも北川も一緒かぁ」
「あっ、おまえずるいぞ。おれなんか北川のメガネの種類知ってるし」
「いやおまえ、それはまずいだろ」
「ストーカーだろ」
「捕まっても、月に1回は面会に行ってやるからな」
「……おまえら、おれをはめたな」
いきなり騒がしくなる班員たち。松本の電話聞いてたのな。ってか、花上と北川ってそんなに人気だったのか。
「ははは。ダメだってさ。ヒロちゃんとナオちゃんが怒ってるって」
ヒロちゃんっていうのは花村裕孝のことだろうけど、ナオちゃんっていうのは誰だ? あの班の残りのメンバーは、山下と榎本と杉本で、山下はないとすると、榎本か杉本で、榎本の名前は徹で、杉本は尚樹だから、杉本のことか? なんで杉本が怒るんだ?
「じゃあ、とりあえず唐招提寺まで来てよ。それまでになんかあったら、また電話するね」
松本はスマートフォンを切って、ポケットにしまう。
「ってか、おまえスマホ二台持ってるのかよ」
さっき村上にスマートフォンを渡していたはずだ。
「あっちは連絡用じゃないから。こっちがメイン」
あっちのスマートフォンが何用なのかは聞かないことにした。これ以上聞くと、よくないことを知ってしまいそうな気がしたから。
次回:1月24日6時更新予定
青い暴走3
2015年01月01日![]()
青い暴走
高校生が主人公の青春小説「青い暴走」シリーズを連載しています。